ラ・サプリメント・ビバ3年ぶりの単独ライブが10月9日、阿佐ヶ谷ロフトAにて行われた。夜公演をソールドアウトし、早々に決まった追加昼公演との二公演、63ネタ×2まわしの126ネタを実に一日のうちにやりとげたわけである。しかもネタの9割は新作。昼・夜公演は同じ演目で行い、お客さんで両公演参加した方はどうやらいなかったようだが、阿佐ヶ谷ロフトAのスタッフは仕事をしながら両公演観ることができ、新作芝居の初日と千秋楽を観るような貴重な体験をしたわけで運が良い。(ちなみにロフトAスタッフは全員ラ・サプリメント・ビバのファンです)
開場前にイヤホンで音源を聞きながら動きの確認を繰り返すラ・サプリメント・ビバの孤独な姿は、さながらシャドーボクシングをするボクサーのようだった。動きの激しいネタを含む二公演をやり終えた後の髪を振り乱した汗だくの姿は、やはりスポーツマンの試合後の姿と似ていた。確かにラ・サプリメント・ビバは舞台上にただ一人で何かと相対し戦っているのだろう。その相手とは何者なのか。笑いか、客か、なにを求めて芸人であるのか。あえて本人には聞かずに推測してしまうと、それは笑いよりも既成概念の破壊なのではないかと思う。
日常の中でニュース番組を観ている限り、川辺に出現するのはあざらしの赤ちゃんであるし、満開になるのは桜であるのに、サンプリングという芸の中では川辺にどんな悪党が出現して観光客を楽しませても構わないのだ。しかもそれはただの言葉のスクラップではなく、さもそれが現実のニュースの中でのセリフであると錯覚するような絶妙な表情と演技で演出される。そのとき私は自分にとっての当然がずらされる感覚を味わうのだ。
今日披露された新作ネタの中で、どれも面白いのだがその中でも抜群だったのが、落語家の枕のサンプリングから始まった一本。ラ・サプリメント・ビバのネタでは、奇妙なフレーズに奇妙な動きをあてぶる変なネタというのがパターンのひとつとしてあるが、古典芸能から入ったはずが気づけば世界が壊れ出し、好き勝手につなげたとしか思えないような意味不明なフレーズの連続に加速していく意味不明なポージング、ハチャメチャで馬鹿らしくひたすら型破りに壊れ切ったところでネタは終息し、観客の心は現実に帰ってくる。いま私の心はどこに行っていたのか、いや、ただお笑いライブを観ていただけだ、これは変な動きをするという面白いお笑いネタなのだ。そうして自分を安心させる。しかしあの数分間の常識からの乖離が忘れられず、私たちはまたラ・サプリメント・ビバのライ
ブに足を運んでしまう。
ライブで鍛え上げてきた孤高の芸人ラ・サプリメント・ビバ。今日観た新作ネタがいずれ定番として、最初のフレーズだけで観客の思い出し笑いを誘うようなネタになっていくことが楽しみであり、またこれから生まれてくるであろう新作がますます楽しみだ。
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