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INTERVIEW

トップインタビュー松井良彦(映画『こんな事があった』監督)- 18年ぶりにメガホンをとり、東日本大震災と原発事故から10年後の福島を舞台に描く社会への痛烈な怒りと葛藤と切なる祈りの物語

18年ぶりにメガホンをとり、東日本大震災と原発事故から10年後の福島を舞台に描く社会への痛烈な怒りと葛藤と切なる祈りの物語

2025.09.12

『こんな事があった』とJAGATARAの「もうがまんできない」が重なる

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──アキラはその後、どうするんでしょう?

松井:きっと復讐に向かうでしょうね。そこで逮捕されて、アキラの人生を紐解いていったら、やむを得ないよなって思うと思うんですよ。そりゃ復讐するよなって。

──うん。後半の流れは映画ならではの面白さです。

松井:映画の特性というか、持ち味ですよね。

──ドキュメンタリーとは違う、ストーリーものだからこそのリアリティをとても感じました。

松井:ありがとうございます。僕自身は決して武力や暴力で仕返しするような人間ではないんですが(笑)、でも映画ですから。現実世界ではできないことを映画だからやっちゃう。それが創作表現だと思うんですよ。

──映画ならではの見せ方をやれるのは、それだけ監督に明確なメッセージがあるからだと思います。

松井:そうです。そうでなかったら映画自体を作ってないかもしれない。

──最後の終わり方もまた凄い。

松井:「何人殺しゃぁ、気が済むんだ!」っていうね。

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──あと実際の国会前の原発デモの静止画が出てきます。

松井:あそこに僕もいて。

──実はLOFTの梅造さんも私も行ってました。だから嬉しくて(笑)。

加藤梅造(LOFT):あの場面写真に僕も写ってました(笑)。

松井:あ、そうなんですか?

梅造:僕、あのデモで音響スタッフをやってました。首都圏反原発連合ってチームが金曜官邸前デモをやっていて、そのチームが国会前デモも主催して。金曜官邸前も10年間やっていたんですけど、それ以降は毎週ではなく年一回の3月11日だけになって。だから僕自身も10年を経て、それ以降はあまり考えなくなっていて。怒りもちょっと忘れて。でも『こんな事があった』を拝見して、「おまえ、何やってるんだ!」って奮い立たされました。自分を省みることができた。

松井:ありがとうございます。多くの人は生活があるし、大きな事故や事件も起きてるし。東日本大震災と原発事故は大きなものだけど、忘れちゃうんですよね。この映画で皆さん、思い出して考えてくれればね。

梅造:あと僕の感想、いいですか? 映画を見終えてなぜかJAGATARAの「もうがまんできない」って曲を思い出したんです。あの曲、ご存知ですか?

松井:知ってます。JAGATARAは知り合いですよ。

梅造:あの曲の歌詞に「ちょっとの搾取ならば がまんできる」「それがちょっとの搾取ならば」ってある。でもタイトルは「もうがまんできない」。歌の中では「がまんできない」とは言ってないんですよ。その感じが、もうね。『こんな事があった』は、こう、沸々とした沸点の手前までの怒りを描いた映画だと思うんですよ。

松井:うん、グツグツとね。

梅造:僕の中で『こんな事があった』と「もうがまんできない」が重なってしまって。

──わかる~。

松井:なるほど。沸々グツグツしてますしね。それぞれが共鳴し合えるところがあると思うので、関係ないことではないんですよね。

──原発事故によって起きてしまった様々なこと、悲しみ、苦しみ。そこに対しての怒り。関東は福島の原発の電力を使ってたわけだし。

松井:他人事ではない。原発。事故があって、老朽化しているのに動かそうとする。さらに新しく作ろうともしている。いやぁ、終わっていない、終わらないんですよ。それを伝えたいですね。そしてそこに生きている人たちの怒りと葛藤、でも思いやり。そんな人間の姿が伝わればいいなと思っています。

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映画『こんな事があった』

監督・脚本・企画・制作:松井良彦
出演:前田旺志郎/窪塚愛流/柏原収史/八杉泰雅/金定和沙/里内伽奈 /大島葉子/山本宗介/波岡一喜/近藤芳正/井浦 新
2025年/日本/モノクロ/130分
配給:イーチタイム
©︎ 松井良彦 / Yoshihiko Matsui
劇場公開日:2025年9月13日(土)より新宿K's Cinemaほか全国の劇場で順次公開

【あらすじ】
2021年、夏、福島。離散した家族と青春を奪われた青年たちの向かう先は──
2021年、夏の福島。17歳のアキラは、母親を原発事故の被曝で亡くし、父親は除染作業員として働きに出、家族はバラバラに。拠りどころを失ったアキラを心配する友人の真一も、孤独を抱えていた。
ある日、アキラはサーフショップを営む小池夫婦と店員のユウジに出会い、閉ざしていた心を徐々に開いていく。しかし、癒えることのない傷痕が、彼らを静かに蝕んでいく──。

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