僕たちが生きる世界と地続き上に存在しているとナビゲートすることが大事
高橋:そうかもしれないですね(笑)。敵キャラクターは石井克人さんが書き起こしたアイデアをもとに作られています。どのキャラクターも衝撃的ですが、『墓標』がシリーズ1作目ということもあり力が入ったところはあります。その点は小池監督もそうでした。同じスーツを着てステーキをかっ食らうガンマンとしての特性、そういう表現が成功したこともあり、『墓標』だけで終わらせるのは惜しいキャラクターだという思いがありました。
――ある意味で6人目の主人公でした。
高橋:そういう風に思ってもらえると嬉しいです。どんな作品も敵キャラが魅力的であればあるほど主人公が引き立ちます。特に『ルパン三世』は主人公側のキャラクターが出来上がっているので、とにかく敵の描写には力を入れています。
――ルパン三世たちだけでなく、あれだけ苦戦したヤエルやホークも軽くあしらってしまうので、ムオムの強さ・異様さが際立っていました。ムオムというキャラクターはどのように作り上げられていったのですか。
高橋:ムオムもまずは石井さんのイメージメモからです。彼は肉体の象徴でもあります。彼がどういう人生を辿ってこういう姿になったのか、彼の背景は何だろうと深堀し広げていきました。
――ムオムは特にマモーとの繋がりが強いキャラクターだなと感じています。
高橋:『THE IIIRD』は『ルパンVS複製人間(以下、複製人間)』に繋がるシリーズになっています。『複製人間』の敵役マモーは脳だけになっていて、自分自身はクローンを何体も生み出して活動しています。彼が何故その哲学に至ったのだろうと想像していったとき、そこには肉体に対するアンチテーゼがあり肉体を持つことの弱み・古さを彼が感じていたんじゃないかと思ったんです。その考えがムオムのキャラクター造形に繋がりました。
――そういった、キャラクターの思想も反映されて作り上げられていったんですね。ムオムがあれだけの知識・肉体を持ちながら言葉を話せないようにしたのはなぜですか。
高橋:ベニクラゲのことが思いついてから出来た要素になります。幼体の状態ということで言葉も話せないということにしたんです、そこが本作の謎の伏線にもなっています。
――私も鑑賞しながらもちろんいろいろと考えていましたが、まさか白血球的な役割だったとは。
高橋:ルパンたちが戦ったのは細胞の1つなので、そういう面もありますね(笑)。初期はホログラムという案もありましたが、肉体と肉体が接触して痛みが伴う戦いを表現したいという思いもあり今の形になりました。さらに島というアイデアに行き着いた時、今作の世界観が完成したように思います。
――それができるのも『ルパン三世』だからこそですね。『ルパン三世』はSFもファンタジーもできる作品です。それだけ自由度が高いと逆に難しい部分もあると思いますがいかがですか。
高橋:自由度が高いのは僕としてはありがたくて、挑戦し甲斐があります。ただ、自由だと思いすぎると危険なんです。「僕が考えた最も面白いルパン三世」では自己満足になってしまいます。
――そうですね。
高橋:『ルパン三世』の定義は何かと考えていった時、それはリアリティだと思ったんです。原作でも出てきたパイカルも魔術師といわれていますが実際はトリックがあります。ファンタジーの要素が強いマモーも理屈や哲学が伴っています。ムオムに関しても何万・何億という年月があったら1人くらいそういう生物がいてもおかしくないとも思える。「あったらいいなのリアリティ」と僕は言っていますが、そういうものを意識してルパン三世を書きました。
――そこにリアリティを感じさせることができるかは脚本家の腕の見せどころだと思います。
高橋:物語を描くうえで、僕たちが生きる世界と地続き上に存在しているとナビゲートすることが大事だと思っています。『墓標』からも匂わせていた要素から、僕たちのこの世界の裏側や見えない部分で起こっているかもしれないと感じてもらう。そう感じてもらえれるように作っています。
――実際には科学的ではなくても、その作品世界で説得力があれば作品世界に没入できます。それはなければ現代劇でもしらけてしまいますから。
高橋:そうですね。
初めて観る作品のような新鮮な気持ちで楽しめました
――本作含め小池監督はハードボイルドな作品が多いですが、高橋さんから見た小池監督はどんな方ですか。
高橋:すごく寡黙で優しい方です。とてもクリエイティブに関して理解のある方で、僕が書いたものをすごく理解してくださって何とかそれを表現しようとしてくださいます。それは描きたいと思っている方向が一致しているからだと思います。一緒に作っていき実際に完成したものを観ると何百倍も良いものになっているので、毎回驚かされます。本当に尊敬できる方の一人です。
――石井さんのアイデアも作品に与えている部分は大きいですが、高橋さんから見た石井さんはどういった方ですか。
高橋:石井さんも石井さんでぶっ飛んでいる方ですね。僕は石井さんのそういうところも大好きです。お人柄は優しくて、小池監督と同じく僕の作ったものを肯定してくださる方です。肯定していただきつつ、「こういう要素があるともっといい。」とアイデアもくださって助けていただいています。石井さんも感性・方向性が近くて、全力でお力添えをしたいなと強く思いました。
――完成した作品を観られていかがでしたか。
高橋:自分で脚本を書いていますが、初めて観る作品のような新鮮な気持ちで楽しめました。それぐらい凄いシリーズです。小池監督は「全てのカットに無駄はない」とおっしゃられていますが、まさにその通りで画力も凄いです。
――『THE IIIRD』でさらに『ルパン三世』という作品世界にさらなる深みを感じることができました。
高橋:ありがとうございます。「あなたはまだ本当のルパン三世を知らない」というキャッチコピーはまさにその通りになります。この集大成にあたるルパンとムオムの対決、どちらが敵でどちらが味方なのか、主人公がどっちなのか、そこを疑いながら楽しんでほしいです。何十年と続いてきたおなじみのキャラクターだと思っているかもしれませんが、それが本当のルパンなのか、まだ知らないルパンがいるかもしれない。それをぜひ劇場で目の当たりにしてほしいです。
原作:モンキー・パンチ ©TMS