"原点回帰"をテーマに作られた『LUPIN THE IIIRD』シリーズ。半世紀以上、コミック・アニメ・実写に舞台と数多く名作が生まれた『ルパン三世』。シリーズのオリジナリティを表現するには時代背景・敵キャラクターが重要となる。クリエイティブ・アドバイザーとして敵キャラクターをデザインし、今シリーズの根幹を作った石井克人に話を聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
必ず格好よくなるという確信がありました
石井克人:『LUPIN THE IIIRD(以下、THE IIIRD)』シリーズはそれぞれのキャラクターが主人公になるので、それぞれが独立したものになるのではなく全員を繋げるものがあるといいんじゃないかと思ったんです。どうすれば繋げられるだろうということで『複製人間』がいいじゃないかと思いついたんです。僕は特に『ルパン三世 PART1(以下、PART1)』好きなので、『PART1』に繋がるものであれば考えられますよ、と今回のお話をお引き受けしました。小池健監督も『PART1』が好きだろうと思ったというのもあります。
――『PART1』のもつハードボイルドな雰囲気が受け継がれていて素晴らしかったです。
石井:それは『REDLINE』のスタッフが数多く参加してもらえたのも大きいです。音楽はジェームズ下地さん、録音は清水洋史さん、効果音も『REDLINE』と同じです。このチームであれば小池監督もやりやすいんじゃないかと思ったんです。トムス・エンタテインメントはこの提案を快く受けてくれました。そこに高橋悠也さんを連れてきてくれて、文芸の鈴木常泰さんも入ってくれて進めていきました。
――『墓標』を観たときに『ジャッカルの日』が思い出されました。70年代映画が持つ独特の空気は観ていて痺れました。
石井:「60年代・70年代ごろの映画のトーンを出せたらいいよね。」とは話していました。携帯電話とかが出てくるルパンのイメージが僕の中になかったんです。モンキー・パンチ先生もこの時代の映画が好きだと思うんです。この時代を意識した『ルパン三世』を小池監督に手掛けてもらえれば必ず格好よくなるという確信がありました。
安心して任せることができました
――本当に格好いいシリーズでした。作品の時代背景が決まったとはいえ、『ルパン三世』でオリジナリティを出すとなると敵役をどう表現するかということになりますが。
石井:そうなんです。敵キャラクターが特に大事です。
――敵キャラクターはクリエイティブ・アドバイザーの石井さんのアイデアが出発点になっているとのことですが、『ルパン三世』の新しい敵キャラクターを作るということにクリエイターとしてプレッシャーはなかったですか。
石井:むしろ楽しかったです。僕の提案した案が大丈夫かどうかの最終的なジャッジは小池さんや浄園さんにしていただけるので、僕はアイデアを膨らませるだけ膨らませて自由にやらせてもらいました。
――キャラクターのイメージを伝える際はどこまでディテールを作られているのですか。
石井:激高するシーンや作中での武道の型のような部分などは僕のアイデアを元にしています。
――ビジュアルだけでなく性格の部分も石井さんのアイデアから広げられた形なんですね。そういったイメージはどういった形で共有されたのでしょうか。
石井:漫画のような形でアイデアスケッチを描いて共有しました。それを切り取って広げてもらいキャラクターができあがっています。
――イメージの共有はスムーズにいきましたか。
石井:『ルパン三世』に対するイメージや『THE IIIRD』で表現したいことは小池監督や高橋さんと近かったので、イメージの共有で困ることはありませんでした。僕が最初にネタだしをしたら、そこに小池監督のアイデアが入り、文芸の鈴木さんや浄園さんにルパン三世の監修していただき、高橋さんに脚本をお願いするという流れでした。そうすると次に会う時には高橋さんがプロットの書いてきてくれていました。
――それだけスムーズに進められたということは、イメージを作る前にしっかりと話し合いをされていたのでしょうか。
石井:いえ、いきなり僕のイメージから入っていきました。
石井:5人とも『ルパン三世』ありきで新規に作ったキャラクターです。1対1で対峙していくシリーズだったからよかったんだと思います。キャラクターができれば高橋さんが素晴らしい脚本にしてくれ、バックヤードは文芸の方がいる、小池監督という素晴らしい監督がいる。各スペシャリストがいてくれるので、安心して任せることができました。
――チームとしての信頼関係があるからこそですね。
石井:『墓標』がすごく面白かったというので、この形でいけるという自信をみんなで持つことができました。この方法で進めて間違いないと迷いがなくなりました。最後のどんでん返しは高橋さんのアイデアです、投げたものにちゃんと答えてくれる素晴らしい脚本家です。僕も脚本を書きますが、この結末は絶対に書けないなと思います。
――『ルパン三世』は音楽も重要な作品ですね。
石井:音楽はジェームズ下地さんしかないと思ったんです。絶対にすごくいいものを作ってくれるという信頼がありました。ジェームズ下地さんも怪物です。
改めてビックリしました
石井:途中の制作過程のものはもちろん観ていますが、完成した作品を観ると改めてビックリしました。すごいスタッフのみなさんが集まってくれているので本当に素晴らしい映画になっています。アクションが切れていて、冷静に作りこまれたセリフもぐっとくる、すごくいい塩梅ですね。
――私から言わしてもらうと石井さんも凄いメンバーのうちの一人です。
石井:そんなことはないです(笑)。
――シリーズものはどうしても最初のインパクトを超えられないというジレンマがあり、1より2が面白いというのはなかなかありませんが、『THE IIIRD』は毎回期待を超えてきてくれるので凄いです。
石井:角度が違うからだと思います。それぞれに色があるので、全シリーズを劇場で通して観る機会を作ってほしいですね。まずは集大成でもある『不死身の血族』をスクリーンで楽しんでいただください。

原作:モンキー・パンチ ©TMS