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INTERVIEW

トップインタビュージミー桜井(ギタリスト) - 映画『MR.JIMMY ミスター・ジミー』彼を求めてあがいている自分が見えました

彼を求めてあがいている自分が見えました

2025.01.09

あえてそうした、そこがリスペクトなんです

――アメリカのトリビュートバンド文化を知らなかったので、本作でその盛り上がりや文化の根付きを知って驚きました。
 
ジミー:日本ではまだまだ根付いていない音楽文化の1つですね。オリジナル至上主義というか。僕も「コピーバンドに興味がないんです。」と、言われたことがありました。でも、要するに誰が誰の曲を演奏しようと、音楽のハートを体験できるかどうかが大事だと思います。「以前にコピーバンドを観に行って幻滅した。」という話を聞くこともあります。その気持ちは僕もよく理解できます。やり始めたころはまだツェッペリンの魅力をうまく表現することが出来なくて、僕もそういった幻滅させてしまう1人だったかもしれません。でも続けていくうちにそんな僕のライブを見てお世辞かもしれませんが「桜井君のギターいいよね。」と言ってくれたり「君のギターにはハートがあるよね。」と言ってくださる方もいたので今も続けられています。
 
――そこが音楽の神髄です。技術の面では未熟な部分があっても熱いパッションが込められている、それが伝わって魅了されるということは誰しもが体験することです。
 
ジミー:その通りです。
 
――技術力がある方ももちろん素晴らしいんです。ですが、正確さという面では機械にはかないません。ただ、機械の正確な音楽が人の心打つかというとそんなことはない。
 
ジミー:もし正確さだけで感動が生まれるとAIにとって代わられてしまいますよね。そういう意味でもLed Zeppelinは上手い人には出来ない、やりにくい音楽なんだと思います。
 
――職人として技術を極めるのと、クリエイティブな魅力を持つのは種類が違うんですよね。
 
ジミー:そうですね、あとは、お仕事でやるのか、好きでやりたくてやるのかは違いますから。
 
――弦を押さえる指の熱量が違いますから。日本人がトリビュートバンドにそれほど馴染みが無いというのも、現状ではその熱が伝わり切っていないということなのかもしれませんね。音楽文化で言うと古い名曲を今の人が演奏するというのは、普通に行われていることでみんなが触れている文化です。そこがロックの楽曲とは結びついていない。
 
ジミー:そうなんです。しかしよく誤解されるのは、日本でやっているころは「ミスまでコピーする」と書かれることがありました。そうではないんです、ある日の演奏をミスまでそっくりコピーするだけならAIで出来てしまうことなんです。ここで間違うんだとあらかじめ分かってしまうのはLed Zeppelinの音楽ではありません。
 
――その時の感情、環境、時代背景も汲み取るということですね。
 
ジミー:そういうことです。例えば、ジミー・ペイジが1stアルバムリリース後に『You Shook Me』という曲を半拍早く入っている時代がありました。何故それを直さなかったのかと聞かれ「勢いがあったから、そのままでいいんだ。」答えていますが、そこを直してしまったらライブではなくなってしまうということなんです。
 
――ライブは先ほどおっしゃられた通り、お客さんを含めて創り上げていくものです。今日はこれで行きますと綺麗に行くのもまた違うんですよね。
 
ジミー:ただ、象徴的なとてもアイコニックな間違いをしているバージョンもあります。例えば『天国への階段』ギターソロで73年はソロの入りでなぜか半音ずらして弾いてます。その年だけで、これは彼なりの美学があってそうしているんだということが分かりました。75年の『天国への階段』を聞くと直っている。
 
――伝えたいものがあったということですね。
 
ジミー:そうだと思います。あえてそうした、そこがリスペクトなんです。彼がそうしていたのは何か理由があるに違いない。たまたま間違えたということと、意図してやったことは違うんです。そういう部分はあえてやるようにしています。ほかにはミスピッキングがアイコニックになってみんなの耳に残るということもあります。追いかけて聞いていくとそこでみなさんの記憶の中でその音が正解になってしまう、まさに僕がそうなので意識して、僕もあえてそのように演奏することもあります。
 
――アイコニックなものをあえていれるときは再現されるライブと近いと感じられたいうとこですね。
 
ジミー:そうですね。あの時代のジミー・ペイジのフィールを自分で疑似体験している感覚になります。不思議なことなんですが、意図せず同じところで間違えてしまったこともありました。
 
――憑依しているということですか。
 
ジミー:そうかもしれないです。あとで、Led Zeppelinのライブ音源を聞いた時に同じところが間違えていると気が付くこともあります。同じセオリーで弾いているとこの音出ちゃうよねって。だからこそどんな細かい事でもいい加減にしないことが大事なんだと思います。まだまだ新しい発見があります。

みんながジミー・ペイジを弾きたいんだと伝わってくる

――映画で自分の姿を観て気づいたものはありましたか。
 
ジミー:客観的に自分を観て、やっぱり本物にはなれないなと思いました(笑)。ジミー・ペイジ本人がそこまで考えてやってはいないであろうことをやっていますから大変ですけどね。答えが分からない中、彼を求めてあがいている自分が見えました。その時に感じたことが表情にでていますね。明らかに裸にされている感じがして、恥ずかしい部分もあります。それでも続けて行けるのはお客さんがいるからです。あれだけ喜んでくれる方がいる、改めて意義のあることをやっているんだと思います。
 
――私もジミーさんに惹きつけられる皆さんの気持ちが分かります。
 
ジミー:巻き込んじゃってますね(笑)。
 
――ジミーさんは気持ちが強い方なので劇中でも衝突する姿も映されています。でも、桜井さんのお話をされているときはみなさん表情が良くて、俺が支えるという気持ちが見えました。
 
ジミー:みなさんもLed Zeppelinが好きなんです。ありがたいことに海外のミュージシャンの方も個人的に応援していただけています。ジミー・ペイジと同じくらい好きなミュージシャンの方とも交流をさせていただけて、一緒にツアーを周らせていただけるのは幸せなことです。それはみなさんが応援してくださるからで、本当にありがたいです。感謝を感じるとともにみんながジミー・ペイジのファンなんだ、みんながLed Zeppelin好きなんだ、みんながジミー・ペイジを弾きたいんだと伝わってくるのは本当に幸せです。アメリカ・日本で手伝ってくれるメンバーも私の奥さんも含めたスタッフのみなさんも、何かシンパシーを感じてくれているんだと思います。
 
――羨ましい部分もあるんだと思います。これだけ全力で好きだという思いを剛速球で投げ続けるのはなかなか体力・精神力も居ることなので。
 
ジミー:そうなんですかね。
 
――ツアーを一緒に周られるみなさんとはどんなお話をされていたのですか。
 
ジミー:それは面白い話が合って。ForeignerとWhitesnakeと一緒にツアーを回ったとき、毎日Foreignerの楽屋でLed Zeppelinレクチャーをやっていました。
 
――いい話(笑)。
 
ジミー:「ジミー、ジミー、ここどうやるの」って。「『Ten Years Gone』ってどうゆうチューニングでやっているの」とか。その話を後ろで聞いていたWhitesnakeのレブ・ビーチが「昨日、Foreignerのブルース・ワトソンに聞いたんだけど。『Whole Lotta Love』ってこうやって押さえてるの本当。」って、本番前なのに弾いてみたりして。
 
――みんな、子供に戻るんですね。
 
ジミー:やっぱり、みんなLed Zeppelin好きなんだなと再確認しました。普通は3バンドで周ると転換やリハが大変でクルー同士がけんかすることもよくあるんです。アメリカは時間に厳しくて1分押すだけで他のバンドにも影響が出るので、軋轢が起こることが多い。それが学園祭みたいに楽しくて「こんな楽しいツアー初めてだ」って。みんな仲良しになれたのは嬉しい思い出です。
 
――話が尽きないですね。
 
ジミー:終わらないですね。映画の話から脱線してばかりですみません。
 
――それはLed Zeppelinだからしょうがないです。
 
ジミー:そうですね。みなさんが好きなLed Zeppelinですから。
©One Two Three Films
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LIVE INFOライブ情報

映画『MR. JIMMY ミスター・ジミー』
『ミスター・ジミー』ポスタービジュアルre.jpg
2025年1月10日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
 
<CAST・STAFF>
出演:ジミー桜井 ほか
 
製作・監督・編集:
ピーター・マイケル・ダウド
撮影:
アイヴァン・コヴァック&マシュー・ブルート
音楽録音&ミキシング:
ジェフリー・ジュサン
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
 
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