実写化すら不可能と言われていた『聖☆おにいさん』が映画として帰ってくる。世界でもっとも有名なおにいさん、イエスとブッダの緩やかな日常に天使と悪魔が入り乱れる。この想像不可能なギャグ作品はどのように作られたのか、監督である福田雄一に話を聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
僕が一番思っていなかった
福田雄一: LOFT/PLUS ONEですか。以前は、「ムロバナシ」で毎月行ってました。そこで決まった映画もあるんですよ。
――そうなんですね。
福田:よくぞ、コロナ禍を乗り越えてくれました。
――みなさんのおかげです。『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』でもネタにしていただきありがとうございます。
福田:そうですね(笑)。
――漫画「聖☆おにいさん」は1話完結の作品ですし、何か最終目標があるという作品ではないのでまさか映画化するとは思いませんでした。
福田:僕が一番思っていなかったです。
――福田監督が「中村光先生が『スクリーンへの長い途(みち)』を描いていただけたから」とおっしゃっていましたが、実際に読まれていかがでしたか。
福田:新しい走馬灯を作るという切り口を読んで、やっぱり中村先生は天才だなと思いました。
――思いもつかないお話でした。ただ、『スクリーンへの長い途(みち)』があったとしても「聖☆おにいさん」自体1話がそれほど長いわけではないのですから映画化となると難しくなかったですか。
福田:そうなんです。最初に脚本にしたときは60分にしかならなかったです。プロデューサーからは「映画なので90分ほしい。」と言われたんです。
――劇場作品ですから、それくらいの長さは欲しいです。
福田:「自由に書き足していい。」と言っていただけたので、書き足したのが怒ったマーラが二人の部屋に押しかけてから先になります。
――そうなんですね。マーラがまたいいキャラクターでした。
福田:窪田正孝さん、楽しそうでしたね。『銀魂』の時はウィッグと衣装が窮屈だったと言われたんですけど、今回も窮屈だったので「どうして、僕にこんなきつい衣装を着させるんですか。」と言われました。
――あのシーンも含め原作の雰囲気をよくそのまま映像化したなと思っています。
福田:実は「果たして、これをメディアでやっていいのだろうか。」という疑問もあったんです。監督のお誘いをいただいて単行本を読んだ時も、確かに面白いけど映像化となるとどうだろうと不安もありました。そういったこともあって実は映像化は一度ダメになってしまったんです。
――宗教をテーマにしているのは難しいですね。
福田:ですがある日、山田孝之さんから「『聖☆おにいさん』の監督やってくれませんか。」と連絡が来て、「やっていいの。」と聞いたら「大丈夫っぽいです。」となり、半信半疑で始めた記憶があります。
――宗教を乏している作品ということはないんですけどね。
福田:中村光先生も「宗教を馬鹿にした感じになると絶対にダメ。」とおっしゃってました。この漫画のはじまりが「この二人は生きているときにものすごく苦労されたから、ゆっくり休むというだけの漫画を描きたい」という発想からだと伺い、なるほどと思いました。
――そんな緩い作品が長期連載の域に入っていて。
福田:そうですね。イエスの台詞で「いいな、下界。2000年前を思えば夢のようだ」というのがあるのですが、そういった台詞1つとっても斬新ですよね。