ツアーを続けるバンドマンは常に「おかえりでただいま」
283:あの、ダサいで言うと、「エリア1020」で“ここが心の現住所”って歌詞があるじゃないですか。
増子:“現住所”ってワードはダサいよ(笑)。
283:増子さんのインタビュー読んだんですけど、“現住所”はダサい、ダサいからいいって言っていて。俺は全然ダサいと思わなくて。
増子:ダサいと思わないとこが、もうダサいでしょ(笑)。
283:そっか(笑)。
増子:普通さ、“現住所”ってワードをロックは使わないでしょ。“ただいま! おかえり!”を曲あたま合唱でやるのも絶対ない。“ただいま! おかえり!”はもっと優しいメロディのところで歌う言葉だと思うんだよ。合唱で叫ぶなんてありえないよね(笑)。
283:確かに。でも俺は全然ダサいと思わなくて。
増子:それは俺らと感覚近いってことだよ。
283:だったら嬉しいんですけど。“現住所”って端的じゃないですか。なんていうか、機能美というか。端的で美しい言葉だなって。
増子:使い慣れた言葉ではあるよね、明確だし。ただロック的なワードではないよね。でもさ、本来ロックってリアルでなんぼじゃない?
283:はい。
増子:いかにリアルか。いかに生活や人生と地続きであるか。でも令和の日本で暮らしてる58歳の俺のリアルって、リアルであればあるほどいわゆるロックとは乖離してくるわけ(笑)。どんどん。それがまさに“現住所”。今のロックやってる若い奴やみんなが考えるロックのイメージの中には“現住所”ってワードは出てこないよね。だけどそれでこそ意味があるんじゃないかと。“ただいま! おかえり!”も、ああいうサビに持ってくるなら英語だったりするけど、それだと本意は伝わらない。みんながわかる言葉、伝わる言葉、日常のリアルな言葉を使おうと。そうするとダサい(笑)。それがたまらんのだよ。
283:そこに僕はカッコ良さを感じるんです。
増子:ちゃんとダサさをわかってるってことだよ。忘れてモーテルズだって生活と地続きでしょ? そこを大事にしてるでしょ? 大事なことがわかってるんだよ。たとえばさ、海外のいろんなバンドも、その国その国の土着的なとこを混ぜたりしてて、ダサいよね。だからこそ、そこにしかないものができるわけで。日本だったら演歌とか民謡とか歌謡曲とかを混ぜる。歌詞だって生活の中にある言葉を歌う。俺はそれこそがロックだと思うの。それをやればいいんだよ。まあさ、音楽もテクノが出てきて以降、もう出尽くした感はあるでしょ。すると俺らみたいなのが残ってまたチャンスが来る可能性はあるよ。たぶん死ぬまでには(笑)。
──死ぬまで!? まだまだ先か(笑)。そうなると重要なのは人間力ですね。
増子:そうそう。ジャンルが出尽くした後、重要なのは人間力。残っていくのはライブハウスでガッツリやってるバンドだったりさ。ま、自分がいいと思ったことをやっていく、それだけだよね、大事なのは。
283:それはホントに。俺、いろいろ考えて悩んでブレたりした時期もあったんですけど、結局、打てるパンチってこのスタイルだな、コレ以外ないなって。選択肢はない、コレだけ! っていう。
増子:そうそう。ラーメン屋やってる人がさ、どんなラーメン食べたいですか? って客にアンケートとったりしたらダメだよね。うちにはコレしかありません! ってラーメンを作ればいい。人のリクエスト聞くようになったら絶対ダメよ。
283:それやっちゃうと自分がしんどくなりますよね。
増子:そう。お客さんのためにとか考えちゃうと、どんどんしんどくなるよ。
──でも「エリア1020」は、お客さんへの愛を感じる曲ですよね。
増子:そうだね。3人体制になって、もう今までより良くなることはないって思った。でも活動するって決めて、お客さんはどう思ってるのかな? って。そしたらちゃんと俺たちの気持ちを受け止めてくれたから。それに対してお礼というか感謝というか、そういう曲を歌おうって。ここからガンガンやっていくぜ! って曲じゃなくて、ちゃんとお礼を歌いたいなって作ったんだ。
──“ただいま! おかえり!”も、コロナ禍やそれぞれの生活で、ライブハウスに行けてなかった人に向けての言葉だったり。ライブハウスにおかえりって。
増子:そう。あとバンドマンってツアーしてるじゃない? 常におかえりでただいまなんだよ。
283:その繰り返しですよね。
増子:そうそう。
──“現住所”って歌詞、全国各地のライブハウスのことだなって思いましたよ。
増子:そうだね。ライブハウスが居場所ってのはあるからね。忘れてモーテルズは年間どのぐらいライブやってる?
三人:100本前後です。
悪玉:コロナ以降、ちょっと減っちゃいましたけど。
増子:コロナは大変だったよな。客も減った。あとやっぱり生きていくうち結婚して子育てしてってのがあるから。俺らの世代だと親の介護とかね。その間にライブに来られなかった人もいる。だから凄い久々に見るお客さんの顔もあって。おお、久々にいるなって。