「ピンチはチャンス」ではなく「ピンチはピンチ」
──いい出会いですね。ていうか対バンしてるかと思ってましたよ。
増子:忘れてモーテルズは前から知ってるけどね。凄くいいバンドだと思ったよ。ドラム&ボーカルってあんまりいないよね。勝手にしやがれぐらいか。最初からそのスタイル?
283:もともと俺はドラマーでやってたんです。ギターの悪玉とはずっと一緒にやっててるんですけど、20代の頃は2年、3年でケンカ別れしてるバンドばっかりだったんです。30代になって忘れてモーテルズを結成して。けじめとして、自分が曲を作って歌も歌おうと。で、ドラム&ボーカルのスタイルになって。これでダメならバンド向いてないんだって気持ちはありました。
──じゃ、忘れてモーテルズの結成は、これからスタートするぞって前向きな気持ちと、コレでダメなら辞めようって覚悟の気持ちがあって。
283:そうなんです。メンバーそれぞれがそう思ってたと思います。
悪玉:僕もそうでしたね。
──出身は町田なんですね?
ゾロメ:僕だけ秋田出身で。
283:彼もバンドやってて対バンして知り合って。客としても忘れてモーテルズを見に来てたんです。気に入って遊びに来てくれてて。前のベースが抜けた時に…。
ゾロメ:ベースで入りたいって立候補したんです。僕もメンバーになれなかったら秋田に帰ろうって思ってたぐらいで。かなりの覚悟で頑張ろうと。
283:30歳過ぎてからこのメンバーに固まって。今思うと30代前半なんてまだ若いって思うんですけど、ちょっとこう、悲壮感もありましたね。
増子:俺らも活動再開したのが33歳だからね。当時は覚悟あったけど今思えば若かったよね。40年怒髪天やってきて、バンドっていろいろあるじゃない? 揉めたりケンカしたり。まあ、いろいろあった、ここに来てもまだいろいろある。よく「ピンチはチャンス」って言うでしょ。大嫌いなんだよね、その言葉。ピンチはピンチだもん。ピンチをピンチとして捉えないと乗り越えられない。チャンスだと思ってるのは余裕ある奴だよ。
283:はい。わかります。向き合ってないんですよね。
増子:そうそう。現実逃避だよ。痛いものは痛い、そうやって超えていかないと。そこを超えるには今まで以上にやっていかなきゃならない。何かを掴むってそういうことだよね。まあ、俺たちもいろいろあって、40年も続いてもまだいろいろあった。もう楽しくはやれないって思ったりもしたよ。それが今、楽しいもん。こんなに楽しくやれるとは思わなかったよ。
──怒髪天は今年メンバーを解雇したわけですが…。
283:新しいメンバーを迎えるっていうことは…?
増子:いや、サポート。アナーキーの寺岡(信芳)さんにメインでお願いして。10代の頃コピーしてたバンドの人だからね。一番影響受けたバンドのメンバーだから。ちょっと誇らしいよ。このあいだ札幌でライブやったのよ。高校の同級生10人以上見に来てさ。MCで自慢したもんね。誇らしいよ。
283:あの、うちのべースもよかったら(笑)。
ゾロメ:頑張ります(笑)。
増子:メチャメチャ厳しいぞ。俺じゃなくてギター(上原子友康)が。メンバーで音楽的なことわかるの一人だけだから(笑)。だってドラムの坂さん(坂詰克彦)は当然として(笑)、俺は楽器できないからね。何本かギター持ってるけど弾けない。3コードでロックンロールはできるって言うけど、あんなに指動かさなきゃいけないとは思わなかったもん(笑)。
283:作曲は友康さん?
増子:そう。全部そう。メロディも友康が作って、俺が多少なりともこういうふうに歌いたいってやり取りして。俺ね、メロディラインを大事に歌うってことを30代後半までできてなかった気がする。メロディとか歌っていうものを全然気にしてなかった。メロディじゃねぇだろ、エモくてなんぼだろって。
283:叫ぶほうに。
増子:そっちに重きを。パンクロックのせいで(笑)。でもある時レコーディング中に急に気づいて。俺の歌、外れてるって(笑)。俺の歌外れてない? って訊いたら、外れてるよって(笑)。それまで上手く歌うのはカッコ悪いと思ってたぐらいだったけど、そんなことないんだよ。メロディあるならちゃんと歌ったほうがいい。でさ、ここ数年の対バンしたバンドでお客さんが怒髪天に流れてきたのってスタレビなんだよ、スターダスト・レビュー。スタレビのファンが怒髪天を見に来てくれてるの。
三人:おお!
増子:それっていわゆる歌とかメロディとか、そういうのが好きな人じゃない? そういうとこでうちのライブに来てくれたっていうのは嬉しいよね。
──良いメロディが伝わったんですね。忘れてモーテルズは怒髪天からの影響は大きいと思いますが、他にはどんな音楽に影響を?
283:コレっていうジャンルではなくて、いろいろなんです。
──ガレージやモッズ的なとこも感じるロックンロールで、歌謡曲や演歌やフォークも混ざってるような。
283:なんか全部、なんちゃって感が(笑)。
増子:それでいいと思うよ。
283:いろんなとこからちょっとずつ、ごちゃっと混ぜるってのが自分らの好きな塩梅で。だからバンドマン同士で話してて、ルーツミュージックの話になるとちょっと知ったかぶりしたり話題を変えたり(笑)。
増子:なんちゃって感もいいと思うし、ちゃんと曲がよくできてるよね。歌詞の世界観もちゃんとあるし。凄くいいよ。俺がロックバンドでいいなって思うものは、熱くて真っ直ぐでダサい、この三つ。ちゃんとダサいじゃん(笑)。そうじゃなきゃダメなのよ。だってロックってものがダサいものだから(笑)。ダサいとこに熱さがある。あともがいてる感とかね。