表現は空に唾を吐くようなもの。唾液が常々出てくるのは、怒りがあるから
──ちなみに、アメリカ大統領選はどうご覧になっていますか?(※取材時は投開票前)
友川:トランプじゃめちゃくちゃになるよ。よりイスラエルに加担することになるわけだから。でも、トランプになりそうな、おかしな雲行きですよね。今、民主主義国家よりも専制主義国家のほうがだんぜん多いから、トランプも芽があるんだろうな。
──民主主義よりも優秀なリーダーがいれば独裁政権のほうがいいんじゃないかっていう話もでてきたりしていますよね。
友川:それは勘違いだよ。安倍(晋三)の時、日本だって独裁国家だったじゃない。それがよかったの?黒川(弘務)の時、検事総長の定年延長しようとしたりとかさ。あれが通ってたら地獄だよ。自分を全部守るためなんだから。
──そうですよね。ひどい状態がずっと続いています……。
友川:普段あまりものを言わない人もいるけど、わたしのファンの人だってみんな頭にきてるんだよ。でなきゃこんなに自民党が崩れることはないんだから。今回の選挙はそれが明らかになったよね。そういう意味では今回の結果は面白かったけど。
──この50年間で世の中に対して希望というか、よくなる兆しって感じたことはありますか?
友川:ないね。時代は進歩しない、変化しているだけなの。変化っていっても、よくなってないでしょう。頭打ちじゃない。回帰願望しかないよ。園児に戻るしかない。お砂場でわーいって遊んでる状態に戻るしかないよ。
──さっき話してくれた「怒り」ということでいうと、世の中に絶望しきってしまうと怒れないと思うんです。友川さんは絶望していないから怒れるのかなと思ったんですが……。
友川:違う違う。バランスをもたないとダメなんですよ。怒る人っていうのは明るいの。いつでも怒ってる人はバカ。バランスがとれてないってことなんです。それと怒りには適した場所がある。その怒りを出すのは、表現しか無理なんですよ。そして、表現は一人じゃないとできない。徒党じゃ無理なんです。歌だったらそれができる。あと、文章を書ければよかったんだけどね。物書きにはそれができるから。
──不特定多数、政治・社会に対しての怒りを表現することが?
友川:そう。物書きっていうのは読者がいるから、そこに向かって書き進めていけばいい。わたしはいないんですよ。相手も不特定多数。だから空に唾を吐くようなものなんです。唾液が常々出てくるっていうのは、怒りがあるから。怒りと寂しさとちょっと湿気ね。乾燥しているとダメ。わたしが思うにはね。
──湿気ですか。
友川:湿気が大事なの。潤いよ。
──私が伺ったライブのMCで今の状況を「線香花火のぼっと光ってる感じ」と話されていたのがすごく印象的でした。今年はライブもたくさんあるし、海外公演も決まっていて、それを線香花火にたとえて人生最後の盛り上がりだっていうニュアンスでお話されていましたが、最後なんて言わないでほしいと思ってしまいました。
友川:体力はあるから、そこから長いのよ(笑)。北海道から帰ってきたばかりだけど、2泊で7時間しか寝てないんですよ。ずっと酒飲んでたから。でも体中無事です。異常ですよ。
──声も変わらないですよね。
友川:声は、本当にありがたいね。こんなに歌っても枯れることはまずないから。鉄の喉ですよ。
──何か特別なケアをしているわけではないですよね?
友川:そんなことはしてないですよ。中学校の時、野球部だったんです。野球部って意味もない叫び声を出すじゃないですか。わたしだけ「なんでみんな及位(のぞき:本名)みたいに声を出さないのか」って監督に褒められたの。プレイじゃないよ、声でね。本当に若い時から声は強かった。
──肉体の衰えを感じないんですね。
友川:自覚はありません。
──変わらず50年……長いですよね。
友川:長いよねぇ。いろんな変化はあるけど、本質は変われないんだ。どこかで「これでよし」って思ってるんだろうね。何回も変わろうとしたんだけど、無理だったのよ。もっとちゃんとした人になろうとか、もうちょっと難しい人になろうとか思ったけど、まったく無理だった。すべておもむくまま、生理のままだね。
──50年という区切りで明確に何かが変わるわけじゃないと思うのですが、心持ちとしては?
友川:なんにもないね。普段どおり。大関くんが50周年と銘打ってやろうって言うからやってみたら、お客さんが3割増しで増えたのよ(笑)。だからこれからずっと、毎年50周年って言ってやっていこうかって話してたんだよ(笑)。50年よくがんばったとか、そういう自負はまったくない。この歳になるとほとんどコンサートは安否確認。来る人とこっち、お互いのね。あとは楽しけりゃいい、それだけだよ。