「昭和40年代」は「前衛と大衆」が入り混じった魅力
──近年の「昭和ブーム」みたいな現象とは違って、エミとゲルの「昭和40年代」に特化した掘り下げ方は、他に類を見ないと思います。例えばCDブックレットにある「1966年に米軍基地に慰問に来たカントリーミュージシャンからファズボックスを譲り受けた」とか「東南アジアにドサ回りツアーに出た」というような、リアルタイマーの人でも思い付かないような細かいディテールを記しているのには、深い愛を感じます。
ゲル:古いものはだいたい何でも好きなのですが、「昭和40年代」には「1970年大阪万博」に代表されるように、“前衛と大衆”が入り混じった独特の魅力があると感じています。さらに、ある程度の経済発展を果たした後の、デカダンスを漂わせているところも好きですね。当時のレコード、服や家具・雑貨・雑誌、そして「昭和40年代」に関する書籍など、かなり蒐集して研究しました。ま、もちろんもっとすごいマニアが大勢いますけど。「ありそうなエピソード」「歌詞や曲、ジャケットの当時っぽさ」といったディテールは自然と出てきてしまう感じです。
エミ:細かさで言ったら、歌入れをする時に「この曲は1970年リリースだから歌い方は~」とか「この時エミは19歳だから~」とか、歌唱よりも曲の時代に沿った役作り(?)重視みたいなレコーディングしてるのが面白いですね。バラードだからしっとり、とかポップスだから元気に、とかではなく(笑)。ある意味ジャンルの壁を超えられた気がします。
──CDのブックレットには前作同様、その詳細な解説がついていて、時代背景や昭和40年代の音楽状況などを絡めて、本当に当時活動していたような錯覚に陥ります。この解説はアルバムを楽しむには外せないと思いますが、どのようにしてこの物語が出来るのか教えてください。
ゲル:このブックレットは私とプロデューサーのサミー前田氏との共同で作っています。私が原案を作って、それにサミーさんが時代考証を含め肉付けしていく…というスタイルです。サミーさんはとにかく膨大な「昭和知識」をお持ちなので、2~3度、文章をやり取りしているうちにどんどん内容が膨らんでいきます(笑)。このような「ニセ昭和歌謡史」に紛れ込むことが「エミとゲル」のコンセプトなので、楽曲解説は楽曲そのもの以上に重要視しています。
──録音に使われたゲルさん所有スタジオはヴィンテージ機材が揃ったスタジオで、これまでにいろんなアーティストが録音しています。今回の録音でエンジニアとして苦労話があれば教えてください。
ゲル:ヴィンテージ機材も使用していますが、半分以上は現行の楽器・機材で普通にデジタル録音しています。いろんな文献や写真などから「当時の使用機材・マイキング・録音環境」などを類推して、EQやリバーブ、エフェクトなどで当時っぽく仕上げております。特にドラムは音質・プレイともに時代感が如実に表れるので、その辺の再現には苦労しました。
──お二人とも、いろんな音楽に親しんだり影響受けたりしてると思いますが、好きな音楽家を教えてください。
ゲル:山下毅雄、キャプテン・ビーフハート、マーク・ボラン(T-REX)、マイルス・デイビス…等々。
エミ:TMGE、スパイダース、弘田三枝子、海道はじめ、サトー・ノト、外道…等々。
──最後に、これからエミとゲルを聴く新しいリスナーにメッセージをください。
ゲル:「エミとゲル」を入り口に、魅惑の「昭和40年代」カルチャーに是非ハマってみてください!
エミ:最後まで読んでくださってありがとう! 『エミとゲルの新春単独公演』1月25日名古屋・得三、『エミとゲルのGSカーニバル』2月15日下北沢Flowers Loft、にてお待ちしてます! 乾杯しましょ。