曲作りをするシリアスな自分を大切にしたい
──いいですね~。で、かなり早い段階にWWWでワンマンをやりましたよね。
ニイ:活動し始めたのが2023年で、年内にWWWやるって決めたんです。無理してでも大きい箱でやりたかった、大きい音楽に挑戦したかったので。
──大きい音楽っていうのはさっき「合奏」って言ってたけど、バンドというスタイルやジャンルに拘らないっていう?
ニイ:そうですね。HOMMヨが自分にとってロックバンドの理想形となったので、次にやることは非ロックなものだと。やりたいことがロックの中に納まりきらないと思ったし。でもね、やっていくうちに自分はどうしようもなくロック過ぎるなと(笑)。今はあんまり拘ってないです、聴いてきた好きな音楽をそのまま反映させてる感じです。
──HOMMヨの初期の頃は60's、70'sのロックを感じさせてたしね。
ニイ:ライブでのたうち回ってましたね(笑)。自分はロックから抜けきることはできない。ならばロックもアプローチの一つとしてやればいいんだって。例えばマイケル・ジャクソンがヴァン・ヘイレンやスラッシュを呼び込んだりその時代の流行、ハードロックの要素を入れたりしてたし、最近のHIP HOPやR&Bも益々オルタナティブになっていってるし。何かをやらないって決め事を作ることはないなって。
──むしろLoupx garouxを始めてから改めてロックを意識した感じ?
ニイ:それはあるかもしれないです。ロックに対して別の視点を持てたみたいな。
──WWWでは2023年11月、その後2024年8月にもワンマンをやりましたが、最初のWWWはどうでした? ライブの構成はかなりしっかりしていると思いますが。
ニイ:打ち込みの同期演奏がある関係で構成はかっちり考えないといけないですね。シリアスな音楽でもあるのでライブの流れを崩さないように。一定のテンションを保つように意識してます。私がね、「どうもー!」とか「うぃっす!」とか、ついつい言ってしまうタイプなので(笑)。最初のWWWで、ライブ終わった途端にホッとしちゃって、「ありがとぅ!」って「とぅ!」にアクセントがあるありがとうになっちゃって(笑)。そういうのね、ちょっとまだ、良くないですね(笑)。
──曲の世界を表現したシリアスなライブをやってたのに、最後に笑わせて(笑)。
ニイ:メンバーもみんな普段は本当によく喋る面白い人たちなんですが、やっぱりライブのときはビシッとしてて、偉いですよね(笑)。なーんか私は、落ち着きがないというか、なんというか。なんかね、HOMMヨの頃からずっとなんですけど、普段のわりとご陽気キャラな自分がいて、でも曲を作ってる人は別にいる感じがして、頭の中に。その2人をどう折り合いつければいいのかわからない時期もあったんです。どっちの自分に合わせればいいの? って。で、Loupx garouxをやり始めて作り込んだライブをやるようになった。曲のイメージからそういうライブになっていったわけで、ならば曲を作ってるほうの人をもっと大切にしようって。ソロを経てLoupx garouxをやり始めてどんどんいい曲を作れてると思うんです。ならば曲作りをしているシリアスな自分を大切にしたい、この人はれっきとした「表現者」だったんだなって。
──ソロを経てLoupx garouxになって、特に歌詞はニイちゃん自身のことやニイちゃんが考えたことで、よりパーソナルになってるよね。でもどこか俯瞰している感じもするし、サウンドは不思議なスケールの大きさがある。そこが面白いなって。
ニイ:やっぱり表現することに自覚を持てたからだったり、何よりメンバーのおかげですね。
──完成度が高いって思ったのと同時に、次どうなるかわからない未完成な感じもして。そこも面白い。
ニイ:生きてる限りは全てが途中、未完成ですから。もちろん、完成を目指してるんですけど! もっと良くなろうとして手をずっと伸ばし続けてる感じです。まあまだ2年も経ってないので……。
──あとLoupx garuxって個の集合体というか、個人を尊重してる感じがする。
ニイ:ホントそうです。「チーム」みたいな。役割と、目指すところが明確なんだと思いますね。
──それにどの曲も個だし孤独だし。個と世界の繋がり方だったり……。以前、HOMMヨのインタビューで「自分に嘘をつかなければきっと本当の孤独にはならない」って言ってましたよね。
ニイ:いいこと言ってましたね(笑)。自分に嘘をついてるとイヤな孤独になっていく。同時に、自分に正直になるって実はすごく難しいとは思います。でも向き合うっていう、その気持ちと行為自体はポジティブだから大丈夫だ、って言い聞かせます。
──サウンドもクールな印象だけど優しいんだよね。アコギがそう感じさせるのかもしれないし。リズム隊も強靭で硬質なようで、こう、人間的で。プリミティブな感じがするんですよ。
ニイ:そうなんですよ!
──踊らないでいいダンスミュージック(笑)。
ニイ:うんうん。踊ってもいいし踊らなくてもいい。どっちでもいい。
──誰も置いてきぼりにしないというか。
ニイ:うんうん。よく「みんな一緒にー!」とか「踊れー!」っていうライブやってる人もいるけど……。
──そういうほうが置いてきぼりになるよね(笑)。
ニイ:ですよね(笑)。なんか、一人一人があっちゃこっちゃで好きなように居る、周りを伺わなくてもいい、解放されたような感じで聴いてもらえたらいいなと思います。そういうライブがいいなって。お客さんもバンドもそれが理想ですね。楽しく真面目に、それぞれが思ってることを口や音に出す。曲順決めるのも「この曲はこういうキャラだからこっちにいるべき」とか言い合って。やりながら、曲が育っている感じがしますね。
怒りから生まれた歌を一人で戦っている人へ届けたい
──実は政治的なことや社会のことも歌ってますよね。
ニイ:めっちゃ歌ってると思います。人間はどうしたって社会的な動物なので、自分の気持ちが世相に反映されてるし、世相によって自分の気持ちが変わっていったりもする。世相によって嘘の気持ちが芽生えて育つかもしれない。
──今ってそうなりやすいよね。陰謀論なんてのがあるし、世代間の分断なんて言われてたりする。そんな世相に従うのか? っていう。
ニイ:一部の人たちの特権を維持するために政治が作り出した幻想ですよ。でもその幻想を自分の感情だと思い込んでしまうって場合もあるんじゃないかとか。
──危険だー。
ニイ:危険ですよー。
──政治的とは違うかもしれないけど、打ち込みとボーカルの「D」はパレスチナやガザといった紛争の地を見ているイメージ?
ニイ:これはホロコーストのことを調べていて浮かんできたことを歌詞にしたんです。もちろん、ここ数年の世界状況への怒りからきたものではありますが。この曲は一番最後に出来たんです。作った経緯は……、Loupx garouxは大きめの会場では新曲を必ず1曲はやろうって決めてるんです。今年の8月7日のWWWでは「暗野」がそれだったんですけど、ギリギリになってRomanticさんがもう1曲、トラックを作るから歌メロと歌詞を書いてくださいと。正直むちゃぶりだったのですが(笑)、シンプルなトラックだったし、ずっと考えていたことなので、わりとすんなり書けたかな。同時期にアルバムのテーマをみんなで話して、「勇気」って言ってたんですよ。Loupx garouxを始めたのも勇気からだし、WWWでやるのも勇気。ヨシッ! 乾杯! って時に「勇気を出して言いますが、もう1曲やりましょう」って(笑)。「怒り」というワードも、制作の後半になって出てきました。やっぱり今、あまりに酷い世の中なので。だからこそポジティブな表現を、っていうのもね、一定理解はしますけど、もうそんなのも無理だわ、ってのはここ数年思ってることですね。
──怒りはニイちゃんの正直な気持ちなわけで。
ニイ:そうです。どう考えても酷いですよ。メンバーとは政治の話も普通にしますしね。投票率が低かったりとんでもない議員がいたり、人々が政治に無関心だから〜、とか拗ねることは簡単ですが、関心もあって怒ってる人だってたくさんいる。何より私が若い頃から一人でずっと怒っていたので、なんかね、そういう人に向けてるって意識はありますね。私の場合は、啓蒙するというよりは、一人で戦ってる人へ届いて欲しいってイメージかもです。「D」はゾンダーコマンドの記録に主にインスパイアされました。強制収容所内の囚人による労務部隊で、近年、映画やドキュメンタリーにもなっています。よくこんな酷いこと考えられるな、って感じなんですけど、「部隊」って名付けられてるけど、要するにユダヤ人の死体処理を同じユダヤ人にやらせるっていう、拷問ですよね。ガス室から家族の遺体が出てきたなんてこともあったそうです。で、コマンドーたちも結局は殺されるんですよ。そんな日常で、せめてこの酷い事実をなんとか後世に残したいって隠れて手紙を書いて土に埋めたり、暴動を起こそうとした囚人たちも居たそうで、その記録を読んでたんです。そこに「もっと強さを! もっと勇気を!」って叫びながら処刑された若い女性がいたというのを知って。爆弾造りを手伝ったってことで、5人の女性がいっぺんに処刑された、その中の一人が、最後に「もっと勇気を!」って。それを叫んだ人の隣に居る人は、どんな気持ちだったかと考えたんです。せめて、こんな人の隣にいられて嬉しいって、自分ならそう思うなって。いや、想像を絶する状況ですけどね。
──共に戦ってきた人が隣にいる、一人じゃない。
ニイ:うん。歌詞は次に「あなたのとなりでうれしい」って続くんですけど、そこだけ柔らかくなる表現ができたらいいなって。
──なるほど。「同じ景色を見ている、同じ惨状を見ている」っていう歌詞があるけど、私はその歌詞は、安全な国に暮らす私たちに突きつけていると感じました。ガザのあの景色も惨状も見てるくせに、知らないふりするなって。
ニイ:それもあるんです。今の時代のガザのことなども連想してもらえるといいなと思ってました。
──凄くシンプルだけど、視点の置き方で変化がある歌詞だよね。
ニイ:はい。例えば新学期になって席替えがあって、隣は誰が来るんだろって不安になってる。そしたら仲良くなれそうな感じの人が隣に来た、良かった、っていう素朴な感情と、地続きだったりするんじゃないかと。一人じゃないんだって思う気持ちは一緒で。なんか、音楽もそういうものであって欲しいなと。