今年はYOWLL名義でバンドでもソロでの弾き語りでも新宿ロフトに多く出演をしてきた森良太。2023年の活動を振り返るべく、LOFT HEAVENを会場に"2023年振り返り"と題したイベントを開催する。歴史あるグランドピアノが鎮座する場所に盟友・渡辺諒(ANTENA)を招き、1週間後はクリスマスという12月18日(月)のこの日はひと足早く素敵なギフトがもらえる夜になりそうだ。というのも、開催を前に行なった対談を通して2人共に常に思考を巡らせながら音楽を続けて生きているのがとてもよく分かったのと同時に、現在の音楽シーンやライブの在り方まで話が膨らむ...ゆえ、自然と大幅に時間をオーバー。対談で盛り上がる姿を目の当たりにし、話の続きや掲載できなかった話(!?)も聞ける夜にもなるのでは...と個人的には期待してしまうのであった。もちろんトークのみならず、各々が持参する予定だというギターに加えてグランドピアノもあり、一体どんなライブを繰り広げるのか。兎にも角にも、この日限りの夜になることは間違いない。(Edit:高橋ちえ)
盟友2人、まずはお互いに2023年を振り返る
森良太(YOWLL, Brian the Sun)
渡辺:良太とは環境の変化のタイミングが似てるところがあって。俺はね、引越しをして、より音楽にのびのび集中できる環境を整えられたのがまず一番大きいことだったかなぁ。
森:一緒です、俺も引越し(笑)。
渡辺:良太とはマインド的にも(もともと)近いところがあったけど、今年の1年間は特に、2人で話してても“そうだよね”みたいになることが多かった気がする。
森:確かに。バンドの活動休止のタイミングにしてもそうだし、すごく人生が似てるところがあると言うか。
渡辺:今、ANTENAは活動休止中ではあるけど、復活を視野に入れた活動休止で。自分1人でもバンドが復活したときにいろんな人たちに盛り上がってもらえるような環境づくりを今年1年間はしようと思って。その一つの目標として11月半ばの仙台でのワンマンライブを売り切ろうっていう目標を掲げて全国各地を周ってたんだけど、ちゃんとソールドアウトで終了できて。それも含めてこの先、ANTENAの復活に向けて骨太感を今年1年間で相当つけることができたかな。
森:ソールドしてたよね、すごいすごい。やっぱり、引越しって大きいよね?
渡辺:大きい。街の空気感が違うと自分の心住まいも変わってくるし、いろんなことが変わるよね。良太は自然を感じられる所に引っ越して、それは正直憧れるし、俺もいつかそうなると思う(笑)。
森:飲み会とか社会的な活動として、人付き合いが必要だから都心に住んでたところもわりとあったの。でもそれはもうやめようと思って田舎に引っ越して。仕事以外で人と会わない時間も増えたけど、その代わりに増えた時間はいろんな制作ごとをしてるから、いま本当に時間がなくて。めちゃくちゃライブもやってるし、どこに住んでてもあんまり変わらんな、っていう感じ(笑)ではあるけど。
渡辺:都心は良いんだけどさ、空気感も忙しいからね。どこかで自分のペースを守りたいっていう頑固な部分もあったりするから、世の中の流れが早すぎるところにいると知らない間に息切れしてて、息切れしてるのに気づかないまま走り続けてふとしたときにゼーハーしてる。そういうことがけっこうあったりするから、まったりできる環境っていうのはすごく大事だなというのは改めて思うよね。
森:なるほどね。まぁ確かに、今の(住んでいる)所は空気は綺麗ですね。
渡辺:それがね、一番大事な気がする。それと良太は猫も拾ったしね(笑)。(映像を見ながら)うわぁ、可愛いなぁ。俺はそれとね、ピアノの練習も始めてさ。
森:メッチャちゃんとやってるよなぁ、たまに見てるよ。YouTubeで毎日1ページずつ弾いて、ちゃんと字幕もつけてて偉いなぁと!
渡辺:自己満足で(笑)、でも人に会うモードよりかは自分のことに時間を使いたいっていうモードなのかもしれないけど。人と会う時間があるんだったら自分のことに時間を使いたい、って振り切れるところがあったし、実際にそうやってみて全然、無駄じゃなくて楽しいから。とことん対・自分っていう、そういう1年間だった気がしておりますね。
森:俺はね、4月末からYOWLLというバンドが始まって、7月に引っ越しがあったんですよ。それで今12月だけど、ちょうど50本目のライブをやったところで。月10本計算でライブをやってたことになるのかな。
渡辺:ハンパないね~!(一同笑)
森:とにかくライブをやりたいっていうのが第一にあったんやけど、“なんでライブをやるのか?”っていう本当のところは分かってなかった。でも50本もライブをやるうちに見えてきたことがあって、元気なうちに…今やれることを今のうちに、最大限にやっておこう、この活動の仕方でこのメンバーでできることを、今のうちにやっておきたいんだなって。だから年明け以降もペースが落ちる様子もないし、このままライブをやり過ぎて壊れるまでやるんちゃうかな、って思ってる(笑)。
音楽を続ける中で30代半ばに差し掛かり、いま2人が感じていること
渡辺諒(ANTENA)
渡辺:30歳半ばぐらいになってきてさ、自分の中でまだ音楽を頑張りたいって思ったときに、マジでいつ死ぬか分かんないよなっていう思いが出てきてさ。今この瞬間って本当にあっという間だし、今を駆け抜けておかないと。いつまで現役選手生命があるか分かんなかったりするし。今やれることは全力でやったほうが良いっていうのを最近、特に思うね。
森:世の中のいろんなことがピーキーに、限界に来てる雰囲気を感じてて。もしかしたらある日急に、ライブどころじゃなくなってしまう可能性があるんやないかなと。ライブや音楽を楽しめるということはすごく豊かなことやと思うし、余裕がないとできないことやと思うんで。広い視野で考えてみたときに日本の音楽シーンを取り巻く環境がどうなっていくか心配はしてるのね。俺はライブハウスでライブやるのもライブ見るのも好きやけど、最近はSNSも発達してて、メタバース・ゲームの世界でライブができたりとかもして、リアルな場所である必要とか、実際にライブをしたり歌う必要もなくなるかもしれない時代の中で、身体を動かして労働のように音楽をするっていうのが世の中の感覚的に古いのかもしれない。でも、だからこそできるうちにやらなアカン気がするって言うか。それが人間であることの意味だって体感として知ってる、その瀬戸際に立ってる世代やと思うから。
渡辺:う~ん、確かに。
森:あと10年もしたら“打ち込みの音はAIで作ったんですよ”みたいなのとか“コーラスはAIです”みたいなのが出てくると思うんやけど、それを否定するわけじゃなくて、自分の芯みたいなものを持って俺らの世代は何ができるかっていうのを考えたときに、やっぱり直に接したほうが良いでしょ! ってことでライブがあるんだと思えてるし、だから(今も自分は)ライブをやってるんだろうなあ、と。
渡辺:それは非常にあるね。20代の10年間はほぼバンドと音楽に充てて、周りを見ながらいろんな人の話も聞いて自分なりに走ってきたわけじゃん。30歳過ぎると好き嫌いとかも分かってきて、自分で“こうするんだな”っていうのも分かってくると言うか。自分たらしめてるものに気づくとそれが信念にもなって、世の中に普通というものがあるとするならば世の中の普通と自分はここが違うっていう差に気づいたり、それで自分のことも客観視できるようになるじゃん。それで信念に気づくところまでは行けるんだけど、今度はその信念を貫く、っていう強さと対面する時間もけっこうあったなって今年は思う。貫くために確固たる強さを持つっていうのは年代問わず大事なことで、“今の自分”を貫く信念を持つというのを実感した今年だったな、って。今、良太と話しながらそう思った。
森:最近、俺はひたすら若い世代のことを考えてるかもしれない。これまでやってきた土壌の上に立たせてもらってライブをやらせてもらってる自分がいるし、バンドが音楽で自己実現するための手段がライブをやるんじゃなくて“バズる!”っていう発想になってるのが、ライブハウス文化に対して影響がある気がしてて。リアルな世界が疲弊して、バンドやりたい奴らが集まってライブして、爆音を浴びて感動するお客さんがいて、みたいなことが面白くなくなっちゃうと思うから、そこを何とかしたいなと思ってる。
渡辺:それはライブハウス側の人も危機感を持ってるよね。
森:今の時代はリアルとデジタルのハイブリッドの世代で両方が混ざり合ってる中で、俺らはリアル寄りやから。ここからもっとデジタル寄りの人が増えていく中でどうやってライブハウスを楽しい場所にしていくかっていうことは、俺らも考えないといけないなと。聴覚と視覚はデータでもできるやん、それ以外の要素をライブハウスが持てたらお客さんが来てくれる可能性は上がるかな、とか考えてるけどね。たとえばカレーイベントと一緒にやるとか(笑)。
渡辺:現場で実際にライブをする側の俺らも考えないと、っていうのは本当に俺も感じてる。これまでの自分の歴史だったりこれからも生きていく過程でも周り(の人や環境)があってこそ、っていうことに気づいたりもしたから。ライブハウスも無くなってほしくないし、貫いて欲しいことに協力したいなと思うことが増えたよね。