誰かのコンプレックスを受け入れる物語『尾かしら付き。』。学生時代の那智を受け、10年の時が経った大人・樋山那智が好演した武田梨奈。今だからこそ求められている今作のテーマにどのように向き合ったのか、那智そして快成への思いを聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
自分の個性を肯定的に感じていただきたい
――『尾かしら付き。』の原作は元々ご存知でしたか。
武田梨奈:お話をいただいてから読ませていただきました。最初はファンタジーなのかなと思いましたが読み進めると日常としてそれぞれが抱えているコンプレックスのお話で、今こそ伝えられることが沢山ある作品だなと思いました。
――今は多様性についての議論も活発でそれぞれのパーソナリティについて大事にされているので、今に求められている作品ですね。
武田:そうですね。
――中学生・高校生ではまだ世界やコミュニティが学校と家の周りぐらいでそれほど広くないので、なかなか抜け出せないという辛さもあります。
武田:正にその通りで、比べるものが身近にありすぎるということが学生時代の難しさです。特に今はSNSも一般的になっているので、自分を肯定して生きられることが難しくなっていると思います。この作品を観て、自分の個性を肯定的に感じていただきたいです。
――樋山那智は宇津見快成の個性を可愛いと好意的に受け止めていたのが良かったです。
武田:凄く真っ直ぐですよね。那智はまっすぐ伝えられる子で、いい意味でのピュアさ・鈍感さを持っているのが素敵だなと思いました。そこが快成の繊細さと重なって二人は惹かれ合っていったんだと思います。
――快成も受け入れて欲しいという気持ちは持ちながらも今までの経験からそれを諦めているところもあって、そこを那智がまっすぐに受け入れてくれている。それによってぶつかってしまうこともあります、そういった所がただ理想だけの世界の描いているわけではないので良かったです。
武田:大人になって二人が良い関係性を築いている中でも消えない悩みだと思います。大人だからこそ言えないところもある、そこが若い世代の方だけじゃなく幅広い世代の方に通じるものになっているんだと思います。
――作中でも快成は転校を繰り返していますが、嫌なことから逃げてもいいんですよね。子供だと経済的なことなどなかなか自分で行動できないですが、そういう面では快成は最大限の努力・理解を続けているので強い子だなと感じました。
武田:そうですね。
私と同じだと思い安心しました
――今作は学生時代と大人になった二人ということで10年の時が経っています。学生時代と大人とでキャストさんが変わっていますが、同じ役を演じた二人がリンクしないといけないわけですがいかがでしたか。
武田:学生時代を自分たちで演じていたら大人の二人の関係性を育みながら演じられたと思いますが、その部分がなかったのでどう気持ちを埋めるかは課題でした。大人の快成を演じた佐野岳さんはコミュニケーションを積極的にとってくれる方で、出会った瞬間から「敬語使わずに、那智と快成として会話しよう。」と言ってくださったのでスグに距離を縮めることが出来ました。
――中学生からの付き合いだと敬語はオカシイですからね。
武田:そういった面では上手く関係性を作ることが出来ました。撮影入る前には大平さん演じる那智の現場も見させていただき、話し方など近づけられるように意識しました。
――同じ那智を演じた大平さんとはお話しされたりはしましたか。
武田:現場でお会いして、お話しさせていただきました。1つ聞きたいことがあったんです。その回答によって私の快成に対する気持ちも変わってくるだろうと思っていたんです。
――その質問というのは何ですか。
武田:「快成の一番好きな所を教えて」という質問です。その質問に返ってきた言葉が、私が原作・台本を読ませてもらったときの印象と同じだったので安心しました。
――印象というのは。
武田:「自分のことじゃなくて那智のことを凄く考えてくれてるんです。」と学生時代の那智を演じた大平(采佳)さんは言ったんです。
――確かに。
武田:快成はしっぽというコンプレックスがありますが、那智は「そこも含めて好き。」と言ってくれてるんです。快成はその気持ちを否定しているわけでも、那智には分からないと拒絶しているわけでもなく、那智にとって良くないと快成は考えているだと感じていました。大平さんの一言を聞いて私と同じだと思い安心しました。