まるおの行動は僕の中で繋がっている
――一番悩んでいる二人でもありますね。率先して逸脱しようとはしていない、まるおは映画制作で悩んでいた、アキは子供のことで悩んでいた。そのタイミングが偶然会ってしまった。
平井:とはいえ、逸脱しているからドラマになる部分はありますから。
葉名:「まるおの精子を下さい。」というのはぶっ壊れているセリフですよね。僕が壊れているのか。僕がまるおだとこういう行動をとってしまうかもしれないという気持ちのもと出てきたセリフです。どんどん自分を丸裸にしていかないと思って出てきたものなんです。
――監督として心を丸裸にということですね。
葉名:まるおも自分の名刺が何もない新人監督が格好をつけてもいい映画は撮れないと分かっているんです。映画のためという建前を武器にして元カノに会いに行く、再会するとやっぱりかわいいなと揺れる、「もう一度会わない」と彼女からくる、映画という建前で会ってしまう、そこで「精子が欲しい」と言われると舞い上がってしまうと思うんです。そういうまるおの行動は僕の中で繋がっているので、まるおならこういう壊れ方するだろうなというところからこうなりました。
平井:まるおはどんどん進んでいくから、よくやるなと思っていましたよ。僕はヤバイとなったら、一度距離を置いてしまいます。絶対に良い未来が待ってないからやめようとなるのが僕で、そうならないのが葉名監督なんですね。
葉名:距離を置けますか。
平井:僕は置きますね。
――私も平井さんと同じです。やばいと感じたら距離を置きます。本当にやらないといけないならやりますが、元カノに会わなくても映画制作を進めることはできるじゃないですか。気持ちの消化できない部分はあるにせよ、不安要素は弾いちゃいますね。
平井:決定的なのが「精子をください。」と言われ、落ち着いて話そうとなるじゃないですか。そこで「はい」と言ってしまうところで道が分かれているんです。平井亜門は「はい」と言わない、葉名恒星は「はい」と言う。こういう人生の選択がある。
葉名:まとめるとそうですね。
――「精子をください」ってパンチラインとして強いですけど。そのことについてお話しされなかったのですか。お互い独身なら結婚を見据えて受け入れるという人が増えるかもしれませんが、相手が既婚ということであれば浮気じゃないか。認知しなくていいと言われても、子供の未来を考えると。
葉名:最終的にアキが決断したことは僕の中の救いなんです。落ち着いて観るとアキが壊れたのは「精子をください」と言った瞬間だけで、その時に放った言葉でどんどんまるおは周りが見えなくなるという物語なのかもしれないですね。
――とはいえ、アキも旦那さんとSEX出来ないというのは、女性としてはきついですよね。求めているのに受け入れてくれないということですから。
葉名:一番かわいそうなのはアキの旦那さんですよね。
平井:何も知らないですから。知ったら、絶対に別れますよね。アキは寂しいとなったら、他の人と浮気するんじゃないかって思いますよね。
――分かります。だからこそ、まるおとSEXするなって思っていました。
葉名:(笑)。
僕は常に訳が分かってない
――マルオは多少の浮き沈みはありますが、基本的に沈んだ感情のままで心情を表現するというのは演技力が試される部分のように感じましたが。感情の起伏がそんなになく、感情表現が狭い中でいるのは。難しくなかったですか。
平井:僕は普段がこんな感じなのでパーンッと行きたいんですけど、そこが行けないもどかしさはありました。バイト先店長の丸純子さんとのシーンが一番明るく、楽しくできたのかもしれないです。中山求一郎さんと二人で話しているときは良いですけど、スタッフみんなと映画の話をしている時も重かったです。
――まるおが暴走して、空中分解しかけますからね。
平井:葉名監督もまるおみたいに訳が分からなくなることあるんですか。
葉名:僕は常に訳が分かってないです。
平井:180度違うことを言ってしまうことも。
葉名:それが積み重なるほど脚本が良くなるので。
平井:大筋も変えてしまうことがあるんですか。
葉名:作品によって違うかもしれないです。こういうテーマで、これを叫びたいということであれば大きな変化はさせないです。例えばラストシーンが決まっていてスタートがここということであれば、ゴールまでの道のりをどう面白くしていくかを優先するので道筋を大きく変えることはあります。
平井:スタートとゴールが大事だから、他は大きく変わってもいいということなんですね。
葉名:変わっていく主人公を描くというのであれば変わるかもしれませんが、変化することが重要じゃなければそうです。ただ、このテーマを伝えたいという作品だとブレないです。
――芯が変わらなければいいということですね。
葉名:それでもどんどんバグっていきます(笑)。
――真剣に向き合うからこそ、ゲシュタルト崩壊起こす瞬間もありますよね。演じる側もそういうことはあるんですか。
平井:僕も自分がこういうキャラクターだと思っていて、現場で段々監督の要望で変わっていて、はじめ思っていたキャラクターと違うというのはあります。
――そういうときはどう対処されるのですか。
平井:監督を信じるしかないです。これは違うだろうと思ったときは相談しますが、何でも逆らうのも違いますから。