“パワースポット” 新宿ロフトでのライブはウキウキ
──そんなYOWLLのサウンドを聴いたときにはビックリさせられました! 音源でも思いっきり歪んでいて、それがとっても新鮮にも聴こえて。
森:録音もミックスも全部自分でやってるんですけど、現代的でクリアな音っていうのが自然ではないなと思ってて。加工されまくってるのはこのバンドのスタイルに合わないなと思ってるんで、演奏も修正とかしてなくてわりと録りっぱなしですね。最近のレコーディング(に関する潮流)に対してはいろいろと思うところがあって、エンジニアの作品みたいになっている音源も多いなと思うんですよ。そもそもレコーディング=記録ですけど、その本義みたいなところ、録音をして過度な加工はしないっていうのは心がけてやった部分ではありましたね。
──森さんは世代的にもデジタルを駆使してミスも修正したりとか完璧な音作りもできるはずだし、そんな音作りがされている世の中なのに、レコーディングでもあえてバンドで出す音にこだわるのはなぜでしょう?
森:映画とかにしても90年代ぐらいまでの、CGが使われていない映画が好きなんですよね。人間ってある段階から理想と現実がごっちゃになってしまっている気がしてて。“理想は理想”っていうこの一線は越えられないっていう部分があるはずなんですよ。あまりに加工されて整えられてしまっているものっていうのは理想であって、現実ではない。YOWLLではその現実のほうを音にしたいっていうのがあって。エンジニアさんの技術とかで、頭の中で鳴っている音を作り上げる作品性も理解はできるし、自分もソロの作品ではそういう音作りをするときもあるんですけど、やっぱりバンドってフィジカル(=肉体的)なので。そこは離れちゃいけないなと思うんですよ。
──仰る通りですが、その選択は勇気が要ることだと思います。“レコーディング=記録”だからこそ、手を加えてでもできる限り完璧で美しいものを残そうと思うのでは、と。
森:うん、そうですよね。でもみんなが潔癖すぎるとも思ってて、ミスっててもエェやんっていう感覚が(世間的には)あまりなくて。BLANKEY JET CITYとかベンジー(浅井健一)が好きでよく聴くんですけど、ミスって聴こえるようなところもある。想像なんですけど、テープで録音してるから簡単に録り直せないんですよね。アナログの世代って技術に人間が合わせようとしていたと思うんですけど、それってメチャクチャ美しいことだなと思ってるんです。“この機械はこれ以上の音量は入らないからそこまでの音量で歌おう”とかやっていたものを、今は人間が努力しないんですよね。技術のほうが人間に合わせてくれる、それがデジタルやから。合わせていくことのほうが制約があって、その制約の中でやる表現のほうが俺は美しいと思うんですよ。人間自体もアナログな存在なはずやけど、デジタルなメタバースだと自分の好きな外見で好きな場所で国籍も性別も関係なく生きられる。そういうこともできかけている世の中だけど、それって加工されまくっている音楽と一緒で、理想でしかなくて。肉体という現実に伴う苦痛と言うのかな、“俺もうちょっと背が高かったらな”とかそういう葛藤の中で生きるからこそ美しいわけだし、過剰なことは必要ないんですよね。
──“葛藤の中で生きるからこそ美しい”、なるほどです。レコーディングに関してもう少し伺うと、もしかしてバンド演奏の如く一発録りでしょうか?
森:今作は、ドラムとベースとギターの音だけまず録って、その後に歌を入れてますね。だから楽器録りのときに録り直しをしようと思えばできちゃうし、それを分かってると録り直したくなっちゃって(笑)、これはフィクションやなと思って。次に作るときはもっとシンプルに、マイクの数も減らして一発録りしたいと思ってますね。
──そしてライブでは、音源以上に実際にものすごく歪ませて演奏していますよね。
森:カート・コバーン(Nirvana)とかが好きで(ルーツとして)通ってきたところもあるし、今の(自分より)若い人たちのライブを見てて、常識の範囲内の音量で演ってるなって感じるところがすごくあって。自分たちの世代がライブを見てて“すごいな!”って思うベクトルって、こんなに大きい音を出していいんだとか、ギターを投げてもいいんだとか(笑)。何て言うんだろう…“この枠内でやってくださいね”っていう枠の外に行っちゃうみたいな、そういう瞬間を見せてくれる人たちが生き残っている感じがしてて。そこを超えていく方法としてすごく上手になるとか完璧に演るとか、いろんなやり方があると思うんですけど、もうちょい、縛られずに演りたいなっていうところで単純に、気持ち良い音量を出して演ってる感じですね。
──ライブを通してアンプを通した爆音とか、“こんなことが起こってるんだ!”みたいな驚きがあるのもライブハウスだったりしますものね。
森:昭和の時代、70年〜80年代のアンダーグラウンドシーンってものすごく、“表現として君たちはどこまで芸術として許容できるんだい?”っていう問いかけがアーティスト側からあった時代だと思ってるんですけど、今は完全に、安心・安全で“これを聴いておけば間違いないですよ”っていうものしかお客さんも聴きに来ないところがあると思うんですよ。ちょっと広い話になるんですけどこれって、人間の力が落ちていく原因にもなるんじゃないかと。だから良いか悪いか分からないけど、解釈する余地が山ほどあるっていうものを作って見せて行きたいなっていう感覚はありますね。
──そもそも30代前半の森さんは世代的にこの時代のカルチャーは通っていないはずですが、どこから影響を受けたのでしょうか?
森:これはありがたいことにインターネットですよね。僕らが10代だった頃はネットがもっとアンダーグラウンドで市民権を得てないときで、そういうときだったからこそアンダーグラウンドな音楽と親和性があったんですよね、インターネットという場所が。それでいろんなものを探す、資料として残っている映像を探すのがとにかく楽しいっていう時期があって。たとえばハナタラシがライブハウスでガラス板を投げてるとか、そういう映像を見ながら“こういう表現の時代があったんや”って教えてもらったことがあって。今の時代はもっと広くいろいろと見られる時代になって、そうなると均一化してきちゃって偏りがない。世の中は偏ってるほうが、偏りもあるほうが面白いですよね。
──森さんの思考が面白く、常にいろんな物事について考えているのが分かるからインタビューはいつも面白いです。YOWLLとしても森良太ソロとしてもライブ予定が続きますが、8月22日(火)新宿ロフトでYOWLLでのライブを楽しみにしています!
森:まずYOWLLっていうバンドをガッツリやっていきたいと思ってるところで、ライブの現場に行ってライブをやるっていうことを大事にしてる中で、ロフトに行くっていうだけでもう単純に俺もウキウキしてるんですよ(笑)。今までステージに立った人たちのパワーが残ってて人のパワーがあって、パワースポットですよね。大阪から軽自動車に乗って行きますよ。
──バンド移動と言えばハイエースとかのイメージですけど!?
森:軽ですよ、大きい車は今の自分たちにとって無駄でしょう(笑)。機材もメッチャ少ないですし、最小限で良いんです!