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INTERVIEW

トップインタビュー米澤森人 - 1年半ぶりの新曲「七等星」のリリースまでに対峙した内なる視座

1年半ぶりの新曲「七等星」のリリースまでに対峙した内なる視座

2023.06.08

 シンガーソングライター・米澤森人の音に初めて触れたのは2019年。新宿ロフトのステージに立つ彼はステージングにやや慣れていない雰囲気を見せつつも、いざ音を鳴らし始めた瞬間...ポップでキラキラ、爽やかに世界を彩る彼の音楽に魅きつけられてしまったのを鮮明に覚えている。それから本格的に音楽の道を歩み始め配信でのリリースやライブを重ねていたが、ぷっつりと彼に関するニュースが入ってこなくなった。となれば、記憶が薄れていくことも残念ながら人間としての性...そんな折、彼から新しい楽曲が届いた。それが6月7日(水)リリースの配信シングル「七等星」。実に約1年半ぶりに公に発表する楽曲だが、素晴らしいポップ・センスをより昇華させ、これまでの彼の楽曲をはるかに凌駕する一曲と断言する。リリースが空いたそんな期間、彼は一体どうしていたのか...包み隠さず語るその表情は実に穏やかで、今作然りこの先も音楽を生み出していく上で必要な時間だったことが伝わるのと同時に、彼と同じような思いで過ごしている方にも届くと良いなと願ってこの原稿と向き合っている。誰しも大なり小なり気持ちが塞ぎ込み、やりたいことも思うようにできないときがある。米澤森人もそれを一つ乗り越えることで紡ぎ上げた「七等星」を耳にしつつお読みいただけたら、とても嬉しい。(Interview:高橋ちえ)

自分自身にちゃんと向き合ったからこそ生まれた「七等星」という新曲

──早速、リリースから時間が空いたこの期間はどうされてました?

米澤:2021年に「春風は君のもの」(3月)、「ラストシーン」(7月)、「冬のはじめ」(12月)と配信シングルを三連続でリリースしたんですけど、「ラストシーン」を出した後の秋ぐらいから精神的に体調が良くないと言うか…自分の中で、嬉しいとか楽しいといった感情が出てこない感じがちょっとずつ出始めて。一旦ペースを落としてそれまで通りの音楽活動はできなくなっても、(生活する上で)元気なときは元気ですし、でも曲を作ろうとしても浮かんでこない。それまでは、曲を作ることに対して自信のようなものもあったんです。提供用のコンペに出す楽曲も含めたら年間100曲近くのデモを書いていたのが、突然、書けなくなったんですよね…そもそも、夕方までベッドから起きられないときもあったりする時期が続いたりしてしまって。

──なんと…そうでしたか。

米澤:でも曲は書けなくても、その代わりに短歌に出会ったんです。楽曲だとAメロからサビまで何百文字とかで言葉数も多いんですけど、短歌は31文字で書けるのもあって、どこに発表するわけではないですけど、曲が書けない間に500首ぐらい書いてました。

──それはすごい! 短歌に出会ったきっかけというのは?

米澤:辛い気持ちのときに出かけた書店でたまたま歌集を見かけて、面白いかもと思って。俵万智さんの『サラダ記念日』など有名な作品から読み始めて、曲が書けないながらも短歌を通して吐き出すという時期がありました。

──今も短歌作りは続けていますか?

米澤:今はちょっとずつ元気になってきたので、曲が書けるようになってきたんです。だから習慣として短歌を書くことはなくなってきてはいますけど、今もいろんな方の短歌を読むのが好きですし、書き溜めた短歌を短歌のコンテストみたいなものに応募してみようかなとか思ったりしています(笑)。

──ぜひ一首、披露してほしいです。

米澤:(携帯のメモを見ながら)どれが良いかなぁ…“今月はいつ会える カレンダー上小文字のoffを駆ける織姫”、もうすぐ7月で七夕なので、時季的にそれっぽいもので(笑)、どうでしょうか?

──(同席した全員拍手の中)素敵じゃないですか!

米澤:実は今回の曲、「七等星」も短歌から派生して出来たところがあるんです。体調を崩し始めた頃に“悲しみの底から空を見上げたら六等星と小花が見えた”というのを詠んで、そこから曲になっていった感じで。

──その新曲「七等星」は聴いた瞬間、ニヤッとしちゃいました。米澤くんが描く歌詞にもオリジナリティ・センスを感じていましたが、その上で今作が良かったのは広く誰かにと言うよりもいち個人・リスナーその人に向けて、自分の中にスッと入ってくる歌詞で。

米澤:ありがとうございます。“自分”というところで言うと、曲が書けなくなったけど短歌を書き続けて、(音楽が)できないなりにも自分にゆっくり向き合っていくという期間があって、僕自身も自分に向き合ったからこそ書けたのかなという感じがしますね。

──“七等星”というモチーフにも意味を感じますね。

米澤:短歌のほうでは実際の風景もイメージしながら詠んだので(肉眼でかろうじて見えるとされる)六等星という単語を使ったんですけど、曲を作るときには、自分の心の中というのを中心に考えて“(肉眼で)見えにくいけど一番明るい星にしよう”…自分で(心の中を)探して、見つけに行く、というところで「七等星」にしようって思いました。短歌を作っていた頃、坂口恭平さんの本にも出会ったんです。坂口さんは鬱と向き合いながらも絵を描かれている方なんですけども、本の中に“いろんなことを自分の中でストップをかけないで、思いついたらいろいろとやってみよう”みたいなことが書いてあったんですね。それで僕も、思い立ったらいろんなところに出かけてみようって日帰りで伊豆に行ったり、すぐに行ける鎌倉に行ったり、1カ月の半分ぐらい出かけたりもしてました(笑)。長野県の野沢温泉のスキー場がすごく好きで、青春18きっぷを使って各駅停車で8時間ぐらいかけて行ったりとか。そのゆっくりした移動の間にいろんな考え事をしながら自分の心も整理されたところがあったと思うし、そうやって出かける中で新しい短歌が生まれたりいろんな風景を見る中で、ちょっとずつ心が落ち着いていった、というのもあると思います。

──今、お話をされながらも良い笑顔をされていて心が穏やかなのだろうなというのが出ている感じですね。

米澤:今はかなり落ち着いてますし、何なら前よりもちゃんと、自分が本当はどういう感情なのかとか、心に真剣に向き合って考えられるようになったので、全部が全部辛いだけの経験だけじゃなく良いこともあったんだと思ってますね。

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七等星

2023年6月7日(水)デジタルリリース

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