毎月西成に行くことでエネルギーをもらえている
──現状、捜査の進展は?
ヤジマX:残念ながら進展は見られないですね。
──物的証拠や目撃者の情報に乏しいと?
ヤジマX:と言うよりも、凄く大雑把に言えば、警察が手を出せないくらい大きな話なんです。
── 一部のメディアでは、お姉さんが貧困ビジネスの闇に触れてしまったと報道していましたが。
ヤジマX:姉は貧困ビジネスの闇を暴いてメディアの記者に告発しようとしていたんです。それが誰かの逆鱗に触れてしまったのかなと…。海外では臓器売買の話をよく聞くけど、日本でもそんなことが起こるんだなと思いましたね。たとえば西成の労働者の方は手術を受けさせられて、退院したら臓器がなくなっていたというのがよくある話らしいんですよ。姉が何を告発しようとしていたのか、具体的なことはよく分かりませんけど、釜ケ崎の診療所で働いていたから日常的にそういう出来事を知ってしまう機会があったのかなと思います。覚醒剤の売人と小競り合いになっていたという話も聞きましたし。
──そこまでの情報があるにもかかわらず捜査の深入りができないというのは、それほど闇が深いということですね。
ヤジマX:貧困ビジネスを生業にするのは、いわゆる反社会的勢力の人たちだけじゃないんです。労働者の生活保護が回り回って、それで生計を立てている人はいっぱいいるので。そうした秩序を乱してしまうと、路頭に迷う人が増えてしまう。おそらくそうした話だと思うんですけどね。
ケチャップ河合:当日の司会進行を務める身として、ヤジマさんと御坊さんに伺いたいことがあります。今回のイベントを開催することで目指すゴールとは何ですか。これをきっかけに何かアクションを起こすのか、事件の真相に向かっていきたいのか。また、御坊さんはどういう意図でこのイベントを企画したんですか。
御坊:僕はヤジマさんからお姉さんのことを聞いて、事件の真相に繋げたいというのが個人的な思いです。イベントを行なうことで事件のことをもっと広め、真相を究明していくことができるんじゃないかと。トークイベントには情報を発信していける強みがありますし。これまで事件にまつわるイベント発信をやったことがなかったとヤジマさんから伺い、ぜひやりませんかと企画立案した次第です。
ケチャップ河合:イベントをやることで話題となり、興味を持つ人が増えることで真相に近づくことが一番の目的であると。ヤジマさんも同意見ですか。
ヤジマX:そうですね。あと最近、YouTuberの皆さんのおかげでこの事件の風向きが変わりつつあるのを肌で感じているんです。ここ2、3年の流れとしてYouTuberの皆さんが事件を取り上げてくださって、西成警察署の皆さんも「矢島家の人間はあまり雑に扱えないぞ」という空気になってきたし、その空気に乗っかるじゃないですけど、身内の人間が矢面に立って言葉を発していくのがやはり大事なんじゃないかと。ウチの兄はずっとやってきたことですけど、僕はその辺のことをサボって兄に任せきりだったので、自分でもできることをやっていきたいと考えていた頃に御坊さんからイベントの提案をいただいたんです。
ケチャップ河合:今なら闘えると?
ヤジマX:闘えるとは思ってないです、正直なところ。ただ、僕らの言葉を発信していくことで「この事件の親族はこういうことを考えているんだ」と少しでも多くの人に知ってもらいたい。年間100本のライブをやり続けている身として、目の前の人に何かを届ける、伝えることを地道にやってきたわけだし、この事件のことも地道に伝えていきたいんです。そのきっかけを与えてくださった御坊さんにはとても感謝していますし、今回のイベントも自分にできることは精一杯やりたいと思っています。
▲月一のビラ配りは今なお欠かさず行なっている
──事件から14年近くが経過して、経年による風化もあれば、事件を知らない若い世代もいらっしゃるでしょうし、まずは事件のことを知ってもらうことで少しでも状況を変えていくことがイベントを開催する意義と言えますね。毎月ビラ配りをすることで、この事件を風化させてはいけないという気持ちが年々高まっているものですか。
ヤジマX:毎月西成に行くことで、支援してくださる方々からエネルギーをもらえています。家族の気持ちが折れたり諦めそうになると「諦めたらあかんよ」と言ってくれる人がいっぱいいるし、毎月励ましてもらっている感覚がありますね。
──ヤジマさんはお兄さんのように、お姉さんに捧げる歌を作ったりは?
ヤジマX:実は、メジャーデビューしてからのファーストシングル「Good Bye Thank You」(2011年12月発表)は姉に捧げた曲なんです。一切公言はしていませんけどね。その「Good Bye Thank You」はミュージックビデオも撮ったんですけど、当時在籍していたビクターの方針でYouTubeで公開されてないんですよ。メジャーデビュー一発目のシングルなのに(笑)。カラオケには入ってるんですけど、ウチのファンのあいだでも知る人ぞ知る曲扱いになっちゃって。
──2011年と言えば、メジャーレーベルがYouTubeを宣材として捉える直前の過渡期でしたからね。ビクターもソニーもYouTubeに対して懐疑的だったのを覚えています。
ヤジマX:2012年くらいまではそんな感じでしたよね。だからそれ以降、ビクターからデビューしてミュージックビデオをがんがんYouTubeにアップしているバンドを見ると、メジャーデビューするタイミングが良かったねと凄く思います。