チームでいいものを撮ろうとしてくださっている
――今作のキャスティングを聞いたときはいかがでしたか。
橋爪:これだけ実力がある皆さんが良くそろったなと思いました。凄く素敵な役者さんが演じてくださったので驚きました。
――現場見学には行かれましたか。
橋爪:3回行きました。バーのシーンと僕の会社のシーン、もう1つは冒頭のシーンです。照明やカメラワークもこだわれていて素晴らしかったです。冒頭のシーンを見学した際はそのシーンには出演されていない古川琴音さんも見学に来られていて、キャストさんも一緒にチームでいいものを撮ろうとしてくださっていると感じて嬉しかったです。
――映画の好きなシーンはどこですか。
橋爪:予告にも使われている、北村匠海さんが古川さんと走るシーンは好きです。もがいていて、明るい未来なのかは分からないけど、走っている姿が胸に迫る映像になっていて役者さんの姿も素敵でした。
――こんな演出をするんだと驚いた部分はありましたか。
橋爪:冒頭のシーンです。あそこは脚本ではどう撮るのか一番分からないシーンでした。実際の映像も幻想的で、完成したものを観てこういうことを狙っていたんだと思いました。本当に1カットで撮影されていたので、みなさん大変だったと思います。あとは火の使い方も印象的ですね。
――北村さんがライターを扱っているところも素敵でしたね。
橋爪:あのシーンは実際に北村さんが演じられていて、失敗できないので大変だったと思います。誤魔化しが効かないシーンですが、そこからこの映画を始めるというチャレンジしてくださったのも嬉しかったです。
――冒頭のシーンも含め、どこかおとぎ話の世界のような雰囲気もある作品でした。でも、作中で起きていることはリアルな事で身近で起きてもおかしくない。冒頭の浮世離れしたシーンとほかの現実的なシーンが綺麗に繋がっていて分断されていないは、清水さんが持っている作品の画作りの素晴らしいなんだなと感じています。どのシーンも心に残る画ばかりでした。
橋爪:そう言っていただけると、みんな喜びます。清水さんや川上さんもそうですけど、衣装の服部昌孝さんや美術や照明のみなさんの力ですね。今はそれぞれに素晴らしい作品をつくられている方々ばかりですが、これだけいろいろな所で活躍される前から清水組として一緒にやってこられた方々なんです。そのチームがそれぞれに第一線で活躍されてレベルアップして、また集まっている。
――ほかで経験したものをそれぞれに持ち寄って、ブラッシュアップしているということですね。
橋爪:それを自分が原作した作品で発揮していただけたのは凄く嬉しいです。テクニカルな部分だけではない、清水組というチームで今までもやってこられて一体感も大きいと思います。
――冒頭のシーンがあったので、リアルなドラマのシーンもこれは現実なんだろうかとも思ったりもしてしまいました。
橋爪:分かります(笑)。冒頭のシーンもあえて歪めているんです、そういった所も細かいですよね。
――北村さん演じる〈僕〉と “モボ”がリンクする感じも凄かったです。
橋爪:映画を観ることで解る仕掛けになっていて良かったですよね。『スクロール』はわかりやすく泣けるという作品ではないので感想を語るのも凄く難しい作品だと思います。それでもどこか気になるという部分がある作品になっていて、僕はそういった作品が好きなのでこの映画もそうなっていて凄く嬉しかったです。清水さんがコメントで「何回でも観てほしい、できれば人と話してほしい。」とおっしゃっていましたが、本当にそういう映画になっていたんじゃないかなと思います。
観ている人と距離を作りたくない
――原作もそうですが『スクロール』は大学時代の友達が亡くなったというのも大きな事件になっています。コロナ禍ということもあり、以前より死を近くに感じる今の社会状況にもリンクしている部分があるなと感じました。
橋爪:死というものを近くに感じることになりましたが、近しい人がなくなった時にお葬式にいけないということもあって、凄く矛盾した死を突き付けられた気持ちを昇華することが出来ない数年でもあったと思います。
――お別れがちゃんと出来ないことコロナ禍だからと無理やり飲み込まなければいけないということもありますね。
橋爪:今はそこからコロナ禍前と同じ社会に向かっていこうとしている。
――そのことを受け入れられるのかというと難しいですね。
橋爪:そういう移り変わっていくタイミングで公開されるということには運命的なものを感じることはあります。
――世相と作品が描いている部分が期せずして重なった部分はありますね。原作の『スクロール』に絞って言うと原作はユウスケと菜穂の二人の物語で、映画ではさらに〈僕〉と〈私〉も加わって物語が紡がれています。
橋爪:そうですね。
――しかも〈僕〉は名前が出てこない、そうすることで観客が自己投影しやすい部分もあるなと感じました。
橋爪:〈僕〉と読んでいる・観ている人と距離を作りたくないと思ったんです。名前を付けるとどうしても他者になりやすい部分があるので、名前を出さない形で通しました。
――その考えはばっちりハマっていると思います。人は誰しも変わりたいと願望はあるけど、今手にしているモノを手放すのが怖いという気持ちは誰でも持っていると思います。だったら外的要因から力技で壊して欲しいと願ってしまう気持ちは本当によくわかるなと思いました。作品としては20代にフォーカスしていますが、どの年代の方にも分かる作品だと感じています。
橋爪:そういっていただけるのはとても嬉しいです。
――原作でもその部分は感じていましたが、映画化し、画と音がつくことでさらにダイレクトに響いて、心がザワザワしました。それは清水監督とスタッフのみなさんの素晴らしい化学反応の賜物だと思います。
橋爪:ありがとうございます、清水さんにも伝えたいですね。
――物語自体は淡々と進む派手な作品ではないですが、一映画ファンとして本作を観られていかがでしたか。
橋爪:おっしゃる通り、静かな作品です。
――どうしても刺激を入れたくなってしまいますよね。ただ、刺激的にしてしまうと原作の雰囲気からはかけ離れてしまうのでその難しさはあるなと感じています。
橋爪:「鈍色の青春を駆け抜けて」と銘打っていますけど、本当にその通りの映画になっていると感じています。その作品を北村匠海さん・中川大志さんに主演していただいて、さらに松岡茉優さん・古川琴音さんが加わって、他にも多くの方に参加いただいてとてもありがたいです。映画『スクロール』はジャンル分け出来ない作品になっているとおもっていますが、そこが観ていて面白かったです。僕が何かを描くのであれば、そういった何かに括られない僕が作る意味を持ちたい作品にしたいと思っています。今回の映画はその創作に対して感じている気持ちを映像化していただけたと思っています。映画ファンとしてもそういった作品が好きなので、この映画を観た人の胸にも何かが刺さってくれると嬉しいですね。
©橋爪駿輝/講談社 ©2023映画『スクロール』製作委員会