橋爪駿輝が20代の頃に感じていた閉塞感・不安といった鈍色の感情を書いた小説『スクロール』。社会に出ることでより浮き彫りになる現実を前に変化を求める気持ちといま居る場所を手放せない臆病な感情の中で葛藤する姿が清水康彦の手によって映画化された。映画化の今あらためて本作に込めた思い、そして映画『スクロール』について原作者である橋爪駿輝に聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
一番何も計算しないで書いた小説
橋爪駿輝:そうですね。ただ、今回の映画は短編集の1篇を抜き出したというより、全編を通した映像化でメインとなったのが『スクロール』という形です。
――そうですね。
橋爪:小説のタイトルが『スクロール』になったのは、編集者の方からのアイデアで「『スクロール』が君の書いている作品の精神性に一気通貫しているんじゃないか。」ということで表題となりました。
――デビュー作が映像化される今のお気持ちはいかがですか。
橋爪:とても嬉しいです。ですが、どこか現実味がない気持ちもあります。その気持ちはずっと持ったままかもしれませんね。
――映画になると感じ方は変わりましたか。
橋爪:やっぱり映像と小説は別物ですね。今作の脚本を推敲する前に清水康彦さんからお電話をいただいたんです。
――どういったことをお話しされたのですか。
橋爪:書いていた時の僕がどういった心境・精神状態だったのかを聞かれました。『スクロール』を書いていた時、僕は人生に迷っていて満たされないものがあると感じていましたので、そういったことをお話ししました。完成した映画ならではの部分もありますが、当時の自分を思い出す作品になっていました。僕の気持ちを大事にしていただけたとても素敵な映画になっていて、とてもありがたかったです。
――本作に限らず情景を思い浮かべながら小説を書かれているのですか。
橋爪:僕は頭の中の映像を文章にしている気がします。心情が書けるというのは映像にはできないことなので、そういった部分を書くのは楽しいです。時間がかかるので大変な部分でもありますけど(笑)。この本は一番何も計算しないで書いた小説になっています。文庫にするにあたって直しを入れた部分もありますが、当時の気持ち・勢いでないと書けなかっただろうなとも感じました。
――『スクロール』は大変な時期に書かれた小説とのことですが、そういった作品が映像化されるというのはいかがですか。私自分に置き換えると恥ずかしさもあるなと。
橋爪:僕が編集さんから褒められたことの中に「橋爪くんは恥が欠落している。表に出すことへの恥じらいがないから、いいものを書ける可能性があるね。」ということ言われたことがあります。なので、映像化されても恥ずかしいということはないですね。
清水さんがやりたいことが詰まっている
――この映画は「エポックメーキングとなる作品を作りたい」と清水監督・チーフプロデューサーの小林有衣子さんが考えていた中でお声がかかり映画化に進んだということですが、橋爪さんにとっても『スクロール』はそういった作品だったのでしょうか。
橋爪:結果的にそうなったとは思いますが、書いていた時は意識していませんでした。
――意識しない中でも橋爪さんの精神性が強く出ていた作品になったということですね。先ほど作品を書かれた際の心情・精神状態についてお話されたとのことですが、映画化にあたってお話しされたこと・リクエストされたことはあったのでしょうか。
橋爪:清水さんも撮影の川上智之さんも一緒に仕事をしたことがあり、清水組をチームとして信頼していたので何もオーダーはしていません。第一稿の脚本は気を使っていただき原作をそのまま落とし込んだものだったので、「このままでも大丈夫ですし、変えたいところがあれば好きに変えていただいても大丈夫です。」とお話したくらいで他はお任せしていました。
――すべてを任せられる方だったんですね。
橋爪:その通りです。
――脚本を「好きに変えていただいても大丈夫です。」と言われ、実際に映画としていいものになるように変更された部分もあります。最終稿を読まれていかがでしたか。
橋爪:台詞のあいだにあるト書きが凄く書き込まれていて、撮りたいものが見える脚本だなと感じました。物語としても素晴らしかったです。清水さんがやりたいことが詰まっているなと感じ、安心しましたし頼もしかったです。
――おっしゃられる通り、清水さんの脚本も魅力的でした。
橋爪:本当に各キャラクターの心情や仕草が細かく書かれていて、これをキャスト方に演じていただいて映画になるとどんな風になるのかは楽しみでした。