上手くいっているんじゃなかろうかという予感があった
――精神面では大人にならなければいけない時期ということで、大きな変化がある大切な時期だと思います。“マヨナカキネマ”というレーベルになったのはたまたまということですが、『ヘタ恋』でお二人が組んでこういった作品にしようというのはどういう形で進めていかれたのでしょうか。
いまおか:最初に佐藤さんからの大元となるプロットをもらったんです。
佐藤:それが「メンヘラの子がいろんな壁にぶつかり、上手くいかないながらもとにかく頑張る。」みたいな話でした。その時のプロットはここまでの形になっていたわけではなくて、それをいまおかさんにちゃんとしたプロットにしていただき、さらに脚本にしていただいたという流れでした。
いまおか:二人で話しているときに「メンヘラの子ってめんどうくさいんだけど、時々凄く可愛いときがあるんだよね。」みたいな話をしたんです。確かにそういうところあるんだろうな、それはどういうところなんだろうと考え出したのが始まりでした。
――『ヘタ恋』は女の子だけではなく男の子もメンヘラ・ストーカー気質があって、二人とも人づきあいが苦手ですよね。
佐藤:彼も本当に表現がヘタなんです。メンヘラの正確な定義はわからないですが、『ヘタ恋』の二人はコミュニケーションが凄く下手なんでしょうね。僕自身もコミュ障な所があるので、彼らにはとても共感しています。思ってもないことを言ってしまって、なんでこういうことを言ってしまうんだろうと悩むことがあります。
いまおか:こういう恋愛ものは実体験が反映されるところがありますね。男の子が好きな子を待ち伏せするシーンがあるんですけど、そういえば俺もこういうことをしたなと。
佐藤:本当ですか、ドン引きするシーンでしたけど(笑)。
いまおか:大学生の時にどうやったら好きになってもらえるかなと考えて、その子の家の近くで待ち伏せしたんです。銭湯帰りの彼女にいきなり抱きついてキスしようとしたら、思い切り突き飛ばされて「もう、普通に会えなくなったじゃない。」と言われてしまいました。
佐藤:それは気まずい。
いまおか:そういう過去のひどい出来事をシナリオにして浄化している部分があるんでしょうね。当時は本当に落ち込みましたけど、時間が経ってネタにすることができたということですね。
――人付き合いが苦手な二人も喧嘩してもシロクマアイスを食べて仲直りしていて、そういった部分は観ていてほっこりしましたね。同じキーアイテムでは冷蔵庫も二人の関係性を表している部分もあって、作品のポイントになっていましたね。
佐藤:あれ面白かったです(笑)。確か、利倉亮さんが冷蔵庫に意味を持たせようとおっしゃられたと記憶しています。冷蔵庫もシロクマアイスも本当に凄く面白く機能していて、二つともいい記号になってました。シロクマアイスはいまおかさんのアイデアですけど、何故シロクマアイスにしたんですか。
いまおか:SEXシーンの時にコンドームを付けるんですけど、その間ができるのは男子も女子も気まずいだろうなと思ったんです。そこで何か話さないといけないと思って「地球の温暖化でシロクマ減っているらしいよ。」みたいな話を書いたんです、そのまま書き進めたら女の子の台詞で「シロクマアイス好きなの」って書いちゃって。
佐藤:偶然なんですか。
いまおか:思いつきなんです。じゃあ、要所でシロクマアイス食べようってなっていったんですよ。そういうことが思いつく脚本は、上手くいっているんじゃなかろうかという予感があったんです。『ヘタ恋』は佐藤さんが撮るから自分の映画より頑張って書きました。
佐藤:本当ですか、気を使っていただいたんですね。
いまおか:人が撮るからプッシュじゃないけど、何とかしてやるって普段より頑張って書きました。
佐藤:ありがとうございます。
――冷蔵庫もシロクマアイスも偶然とは思えないキーアイテムになっていたので驚きました。それだけ、物語になじんでいたということですね。
佐藤:そうですね。
――主演の二人を演出するうえではどういうところに気を使われましたか。
佐藤:お二人とも凄くベテランという訳ではないので、「とにかく感情をのせてください。」と伝えました。僕の中に気持ちをのせてくれれば、身体表現や表情は良くなるだろうという持論があるんです。結果、そういう風になっていたと思います。この映画ではいつもよりも密に俳優部とコミュニケーションをとりました。『ヘタ恋』はいまおかさんが書いた脚本だったのがよかったと思います。僕と主演二人で、「これはどういうことなんだろう」と謎解きみたいなことをして、キャラクターたちの感情をみんなで考えながら進めていきました。その時間をとったので、二人も感情をのせやすかったんじゃないかなと思います。僕も演出しやすかったし、いい経験でした。
いまおか:訳が分からないシーンがいくつかあった方がいいってことかな(笑)。
佐藤:そんな気がします。作品について一生懸命考えますから。
いまおか:1つあれだったなと思っていることがあって、『ヘタ恋』は女の子がよく泣くんです。泣く芝居は難しいので、大変だったろうなと思っています。
佐藤:街山みほさんはちゃんと気持ちを入れて本当に泣いていたので、凄かったです。芝居が技術的にちゃんとできる自信がなかったからなのか、ちゃんと気持ちをいれられるように「泣けるまで待ってください。」と言ってくれたので、彼女がOKになったらスタートする形で撮りました。確かに泣く芝居は凄く多かったので、大変だったと思います。
いまおか:書くのは簡単なんだけどね。いろんな泣き方があったしなかなか芝居を要求される役だよね。
佐藤:本当に頑張ってくれました。
――表情もちゃんと作らないといけないし、映画的に綺麗になるようにしないといけないしで、難しいですよね。
佐藤:走りながら泣くシーンもありましたし、しかも寄りで撮っていたので誤魔化しが効かないですし。本当によくやってくれました。
いまおか:二人の演技もよかったけど。ロケーションもいいよね、高台の風景とか印象的でした。
佐藤:僕も本当にそう思っています。レジェンド・ピクチャーズさんのおかげです。このメインビジュアルの高台も綺麗で、お気に入りです。