『オルガン』は遠くへ去ってしまった写真家の兄が残した作品たちを通して、当たり前でありながら普段は目を背けてしまうことに向き合う瞬間を描いた静かな映画となっている。短い時間でありながら濃く命について描いた本作にどう向き合ったのか、主演のアユニ・Dに話を伺った。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
ドキュメント的な要素も練りこんだ作品にしよう
――『オルガン』は映画好きな人に刺さる作品だと感じました。
アユニ・D:監督をしていただいたエリザベス宮地監督も映画が凄く好きな方なので、そう言ってもらえるのは嬉しいです。
――今回、演技に初挑戦されたわけですがいかがでしたか。
アユニ:本作は脚本があるので演じてはいますが、宮地監督にドキュメント的な要素も練りこんだ作品にしようという思いがあり私のパーソナルな部分を盛りこんだ役にしてくださったので、演じているという感覚はそれほど強くなかったです。組むことが決まって最初にしたのが、アユニ・Dの実態調査みたいなことを話し合うことだったんです。そこで私のパーソナルな部分を引き出す時間を作ってくださいました。宮地監督はBiSHのMVも撮って下さっていて、もともと私のパーソナルな部分を知ってくださっていましたが、家族構成やどういう生き方をしてきたかなどを改めて聞かれました。
――どういった部分にアユニさんのパーソナルな部分を盛り込まれているのでしょうか。
アユニ:例えば、私には実際に兄がいるのですが、小さいころから「にーに」と呼んでいます。ほかにも「家族とはこういう関係です。」と答えたことが、脚本に落とし込まれていました。
――フィルムの中のあーこは普段のアユニさんからの地続きの存在なんですね。
アユニ:そうですね。私だけでなく兄の竜一役を演じられた石川竜一さんもそうです。石川さんは写真家であるとともに猟師もされているので、竜一も石川さんのパーソナルな部分を盛り込んでいる役になっていると思います。私も石川さんも役と向き合うというよりも自分自身と向き合うという感覚近かったです。
――お二人とも普段の自分に近い役柄だったんですね。本作は生死感についても取り上げている作品でしたが、脚本を読まれて最初に感じられたことを伺えますか。
アユニ:生死というものについて改めて考えさせられた作品でしたね。生きていくうえで、今では当たり前になっていること、そういうものに向き合えた時間でした。いろいろな考え方や価値観がありますが、正解がないことなので最初は向き合うのが怖かったです。
――当たり前になっていることに向き合わなければいけないというのは怖さもありますよね。
アユニ:そういった感情のままでいいのか悩みましたが、宮地監督からは「感じてきたことをそのまま出してくれればいいよ。」と言っていただけたので、一歩踏み出すことができました。普段、目を背けていたものに対して向き合う力をくれる作品にもなりました。
大きい財産になりました
――共演者された石川さん・高良健吾さんはどのような方でしたか。
アユニ:高良さんには台詞1つ1つに圧倒され、演じるということについて学ばせていただきました。石川さんは本当に不思議な方で、自分が知らなかった世界を見せてくださる方でした。お二人とも宮地監督の大事なご友人だそうで、そういった大事にされている友人とめぐり合わせてもらえたのは嬉しかったです。
――「いくつものとんでもない経験ができた」おっしゃられていましたが、どのような経験をされたのでしょうか。
アユニ:本作では服部文祥さんという石川さんの狩猟の師匠をされている方にもご協力いただいているのですが、服部さんには狩猟シーンもご協力いただいていて、私も鹿を狩って解体していくシーンをご一緒させていただいきました。あとは雪山のシーンでもリアリティを出すため、極限に近い状況を表現できるように助けていただきました。1日中、雪山を歩いたので大変でしたね。
――本当にドキュメンタリーのような撮り方をされたと。
アユニ:そうです。そういったことも含め撮影期間で経験したことすべてが、自分の人生において凄く大きい財産になりました。
――そういった芯に迫った制作スタイルだからこそ、物語も画面の力も凄かったですね。
アユニ:嬉しいです。
――本作は遠くへ去ってしまった兄の荷物を受け取りにやってくる、そこでアユニさんと高良さんが出会いそれぞれの竜一に対する思いの違いでぶつかるという物語です。二人とも竜一のことが好きなのは同じですが、その視点が少し違っていることが面白かったです。
アユニ:あーこは家族として好きですから、家族とファンの違いが出ていましたね。家族となると作品や映像だけではないプライベートの思い出もあり、みんなが知らない部分も見てきている。逆に家族だからこそ兄のつかめない部分もある。そこが描かれていましたね。
――近いからこそ見えなくなる、感じ方が変わる部分がありますよね。
アユニ:家族だと頭の中の記憶が多くなるんでしょうね。
――高良さんが演じる友達も悪い人ではないですけど、見方によっては悪者にも見えてしまう部分もありましたね。
アユニ:望むところが違いますよね。