戦う意思を保つのはなかなか出来ることではない
――この作品は因果応報を描いている部分もあり、服役も正樹自身の身から出た錆という部分もあります。その因果が自分だけに降りかかるのであれば耐えれますが、奥さんや子供にも被害が及んでしまった点についてはどう感じられましたか。
奥野:そうですね。7年間服役するだけでなく、家族が騙されてお金を脅し取られてというのは余りにも大きなマイナスです。正樹はそのことを知って後悔することになりましたが、それを経たからこそしっかりと更生できた部分もあると思います。そういう面で見れば服役したことがプラスに転じるきっかけにもなったと思います。
――捕まらないでいたらもっと酷いことになっていた可能性もあって、元々持っていた真っ直ぐなところも保てていなかったかもしれないですからね。灰色の壁の中にいれられたことは大きなマイナスではありましたが、そういった純粋さを守ってもらえた部分もありますね。
奥野:そうですね。罪を精算できるきっかけという意味でも、正樹にとってマイナスだけではないと思います。
――そんな正樹を支えたさゆりさんが強い女性ですね。
奥野:吉田さんも「この映画で奥さんが凄いんだという事を伝えたい。」と仰ってました。これだけ長い間を待っていてくれていたというのは正樹とは違う強さを感じますよね。
――待ってくれている人が居たから正樹も心が壊れずに出てこれたわけですから。
奥野:話を聞いて、実際に演じてみて、二人の関係性は羨ましいなと思いました。さゆりさんみたいな人が僕も欲しいですね。さゆりさんはまさにヒーローで、彼女という存在が居なければ心が折れていたでしょうから一番強い人です。
――本作で奥野さんも映画初主演という壁を乗り越えられたわけですが。
奥野:公開されていないので、まだ乗り越えてないです。いまよじ登っているところです。怖さもありますが、どんな反応が来るのか楽しみです。
――特にここを注目して欲しいという部分はありますか。
奥野:アクションの話で言うと今までのヤンキー映画とは違うテイストのアクションなので、そこは1つの魅力だと思います。あとは、正樹の心情の変化は面白い部分だと思うので注目していただけると嬉しいです。
――最初は怖いだけでしたが物語が進むにつれて正樹はちゃんと芯がある人間だという事がわかってくるので、男の目線から観ても魅力的な人でした。
奥野:男心をくすぐられる方ですよね。
――出所後も逃げずに最後の壁と対峙するのも凄いですよね。
奥野:そうですね。僕なら逃げてしまいます、そこに立ち向かう精神力は凄いです。戦う意思を保つのはなかなか出来ることではないことです。
――だからこそ、さゆりさんも信じて待てたんだと思います。捕まった時点で離婚を言い渡されてもおかしくないですが、待っていてくれたという事はその芯の部分が伝わっているんだなと思いました。
奥野:お二人ともカッコいいですよね。
“言葉の力”というものを改めて認識させられました
――役者というお仕事は次々と新しいことに挑戦されるわけですから、闘っていくお仕事だと思います。奥野さんが役者として闘っていく中で心情にしていることはありますか。
奥野:僕は闘っているという意識はなくて、楽しんでいます。他の人の人生を生きられるものってほかにないじゃないですか。普通ではやれないことが経験出来る、自分が生きてきた人生とは違う人生に触れることが出来る、それが楽しいです。
――役者という仕事を続けている中で発見した事はありますか。
奥野:沢山あります。今回の吉田正樹役に限らず、今まで演じてきた全ての役に影響されています。『灰色の壁』で言うと、“言葉の力”というものを改めて認識させられました。他の役を演じる中でも、その時の役に付ついて勉強していくなかで今まで知らなかったことを知れるので、常に発見があります。
――今作で感じた言葉の力という部分についてお伺いできますか。
奥野:たった一言の影響で吉田正樹は服役することになり、人生が大きく変わり、周りの人間の人生も変えてしまいました。言葉というものの持つ力の大きさを僕自身も改めて感じる事が出来ました。皆さんにも言葉の持つ力の大きさについて改めて認識していただけたらなと思います。こういうと説教臭くなってしまいますね。無理に教訓として受け取ると考えずに映画として単純に楽しんでいただけたら嬉しいです。
――奥野さんが今まで貰った言葉の中で力をとなったものはありましたか。
奥野:『仮面ライダージオウ』に出演していた際に生瀬勝久さんにいただいた言葉で「お芝居は生ものだから現場で生まれるものを大切にしなさい。」というものがあり、それはずっと頭の隅にあります。その言葉を受け、役を演じる中でも自然体でいる事、セリフも本当に自分が言うように言う事、ナチュラルでいるという事は常に意識しています。
――実際に本当に思っている、感情が乗っているように感じるセリフ・演技に見えました。
奥野:ありがとうございます。
――延期を重ねて1年越しの作品がいよいよ公開となりますね。
奥野:本当に映画公開できることを嬉しく思っています。この映画を通じて何か受け取ってもらえれば嬉しいです。
――吉田正樹の人生の夜が明けて希望を感じる事が出来た、気持ちがすっきりとした映画でした。
奥野:ありがとうございます。希望に繋がる、力を与える作品になれば嬉しいです。
©2022「灰色の壁 大宮ノトーリアス」製作委員会