ライブでしかできない表現力をもっと上げていきたい
──その辺りは2枚組CDの内ジャケットを確認していただいて(笑)。マモルさんの表現は手作りが基本で、その朴訥として温かみのある音楽もアートワークも30年近く一切のブレがないことが今回の『PRIVATE TAPES 1995-1998』で実証されたとも言えますね。
マモル:まあ、何でも自分でやるのが面白いんだよ。自分でものを作るのがただ楽しい。そういうのが単純に好きなんだろうね。
──近況としては、コロナ禍以前には及ばずともライブの本数が着実に増えてきたところですね。
マモル:バンドはまだちょっと様子を見つつだけど、ソロの弾き語りツアーはやれてきてるかな。今回の『PRIVATE TAPES 1995-1998』を持ってツアーに行けば、次は何とか乗り切れそうだなって感じだね。こないだくらいからカセット時代の曲もライブでやり出してるけど、なかなか面白い。ただ、「マズイかうまいか食って判断」をやろうと思ったら難しくてやれなかった。3拍子が4拍子になる面白い曲なんだけど、家で練習してこないとできないと思った。マズイかうまいかを食って判断するっていう曲のテーマも自分で笑っちゃったけど(笑)。
──食べ物をテーマにした曲で言えば「ひじき」も素晴らしいですね。「ひじきはすごいぜ/冷たくなっても うまいんだ」「ステーキなんて 冷めたらマズくて 食えねえよ」なんて誰でも書ける歌詞じゃありませんし(笑)。
マモル:今思うと、ホントにやりたい放題だね(笑)。まあ、今だって同じことはやれるけどさ。思ったことを唄えばいいだけなんだから。
──今も新曲はコンスタントに作り続けているんですか。
マモル:自分のライフワークだからもちろん作ってるよ。ただ今は絵を描くほうが面白くてね。コロナの自粛期間中にパソコンで絵を描くスキルを身につけてさ。
──まさに「絵をかいて暮らしてるよ毎日」ですね。
マモル:そうなんだよ。WEB用にライブのフライヤーを作るのも、今までは写真を貼り付けてたけど自分で描いた絵を使うようになってね。そういう絵も描いていけば作品として残るから。
──それがいつかまとまった作品として発表されるのが楽しみです。今年は「いかすぜライブハウス」以来の新曲も期待して良さそうですか。
マモル:新曲とは言えないかもしれないけど、今はカバー・アルバムの制作を始めてる。半分は外国の曲を自分なりに日本語に直して唄ってみたり、あまり知られてない地方のミュージシャンのカバーを入れてみたり、もう十数曲デモができてるよ。権利の関係もあるので、もしかしたら一般流通はできないかもしれないけどね。まあどうなるか分からないけど。実は今回のカセット音源復刻も、1曲だけCDにできなかったのがあるんだよ。それも外国曲を僕が日本語に直して唄ったカバーで、当時ロフトで録ったライブ音源でさ。そのテイクがめちゃくちゃ良かったんだけど、それも公に出すとなるといろんな問題があって収録を見送ることにした。
──アーティストの純然たる表現が法的な権利のため世に出せないというのも解せない話ですけどね。
マモル:まあ、中にはリスペクトの足りないふざけたカバーもあるから権利者のほうでもいろいろ制限があるんだろうね。僕の場合は日本語の訳詞なんて大層なものじゃなく、ただの替え歌なんだけど。(忌野)清志郎さんが『COVERS』でやってたみたいなさ。でもたとえば清志郎さんが訳詞した「Daydream Believer」を唄うのは申請すれば許されるけど、新たに「Daydream Believer」の訳詞を作るのは今はダメらしいんだよね。こないだDECKRECのネモやん(ネモト・ド・ショボーレ)とも話したんだけど、替え歌って日本の文化だったはずなのにね。でも今はちゃんとリスペクトしてカバーする人といい加減なカバーをする人の線引きも難しいし、そこで闘っても意味がないからうまいことやるしかないよね。だってしょうがないんだよ、別に悪気があるわけじゃないけど面白い日本語詞が頭の中に浮かんできちゃうし、浮かんできちゃった以上はその通りに唄いたいんだから。そういうのは自分の中で染みついた感覚だしね。
──月並みですが、2022年はどんな年にしたいですか。
マモル:変わらずロックンロールをやり続けたいね。抱負とかは特に何も考えてないな。コロナ禍の鬱憤も意外と自分では解消できたしさ。休んでる間に「いかすぜライブハウス」のMVとして自分でアニメーションも作れたし、絵を描くスキルも上がったし、休んで家にいたぶんだけ普段できない創作活動もできたから。ウクレレも練習できたしね。ライブをちょっとずつ再開し始めた今思うのは、ライブでしかできない表現をもっと大事にしたいし、その表現力をもっともっと上げていきたいってこと。それはソロでもバンドでもね。やっぱり音楽って素晴らしいし、素晴らしいことをこれだけ長くやらせてもらってる以上、その恩返しをしたいって言うとクサいけどさ、自分なりの音楽という表現でお返しができたらいいなと思うよ。歌を唄うなり絵を描くなり、僕には何かを表現することしかできないからね。