この状況で、ずっと同じメンバーでバンドをやれてるなんて、奇跡やから
オンライン配信も含めたライブでは、既存曲や今回のアルバムに収録される新曲を中心に、約1時間で30曲前後を演奏する怒涛のパフォーマンスを見せている。予定調和を持たない楽曲をテクニカルに聴かせるのではなく、“初期衝動”に溢れたハードコア/パンクのイズムで表現するそのスタンスは、誰が見ても面食らうものとなっている。そうしたライブの充実とは裏腹に、通常であればニュー・アルバムの制作と並行して行なう予定であった新曲作りに関しては、あまり進んでいないのが現状だ。
「2020年は3曲しか書けてなくて、2021年はまだ1曲。アルバムの制作が優先なんで、“焦らなくても良いよ”とはメンバーからは言われてますけど、自分に対しては“何もやってへんな”、みたいな気持ちはすごくありますよ。……というか、メンバーの中でこれだけメソメソしているのは私だけなんですよね。みんなは練習もしてるし、それぞれができることをしていて、ポジティブな感じはしっかりとあって。──この前、ビリー・アイリッシュのドキュメンタリー『世界は少しぼやけている』と、デビッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』を見たんですよ。そこで感じたのは“自分も早くそっちに行きたい!”ってことでした。そのためには、ついてきてくれているメンバーにはいつも刺激を与えておきたいんですよね。それが今の自分にはできていないけれど、モチベーションはそこにある。この状況で、ずっと同じメンバーでバンドをやれてるなんて、奇跡やから」
作詞・作曲を手掛けるあっこりんりんの立場と、それを見守るメンバーの立場は、ひとつのバンドの中でも当然違いがある。バンドに対する思いは同じでも、あっこりんりんの生み出す種がなければ、新たな曲として育っていくことはないのがおとび~の選び取ったスタイルだ。特にあっこりんりんは、創作者として現状に焦る視点と、俯瞰的にバンドを見る監督としての視点の両方を持つがゆえ、その揺らぎに苛まれている。
「(現状が)怖いんでしょうね。創作できていないし、逃げているなって気持ちがある。しかも、仕事辞めたからとか、恋愛してないから歌詞ができへんとはまた違う、コロナ禍のようわからん感じがあるから、曲が書けない。……でも、気づいたらライブハウスをおさえていたり、配信やろうって言ってる自分がいる(笑)。MVにもジャケットワークにもグダグダ言いながら……自分で全部やれるわけではないから、人にああだこうだ言ってやらせている部分もあるからこそ、不甲斐なさは感じています」
ライブは今、どこに出ても恥ずかしくない気持ちは強いんで
アルバムの完成を誰よりも本人が望んでいるから、そこに妥協はできない。妥協はできずに完成は遅れているものの、バンドの生命の源であるライブ活動は止めたくはない。おとび~という居場所は、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるかのような複雑かつピュアな衝動が折り重なる巣窟であり、一方で、自分たちが築き上げた代えがたい桃源郷でもある。つまり、なかなか“けったい”な存在なのだ。とは言え、そういった一筋縄ではいかない共同体だからこそ、あっこりんりんが飽きずに愛せるものなのかもしれない。
「制作が終わってないから、まだドキドキしてるんです。最悪、年明けのクアトロにはできていると思うんですけどね……(※編注:本当にもうすぐ完成の予定、だそうです)。ライブは今、どこに出ても恥ずかしくない気持ちは強いんで。去年、海外ツアーに行けていたら、それはそれでレベルが上がっていたかもしれないですけど、今とはまた違う進化の仕方だったと思います。それこそ、昔テレビで放送されたツアードキュメントを見ていたら、“下手くそやな~”って思いましたし。今、この演奏力で出演していたら爆売れしてたんとちゃうかなって(笑)。それくらいの気持ちはあるし、メンバーと一緒に、“自分らがやってることは面白い”って思い続けたい。最近はちょっと、会えない時間も多いんでその瞬間が減ってきているけど、みんなの面白さは引き出していきたいから」
秋に入り、ようやく日本国内の状況は落ち着きを見せ、来たる2022年に向けて準備を進めているおとビ~。2021年11月には久々に、ひろちゃんバースデーを含む主催ライブのほか、吉本興業からの刺客「ジュースごくごく倶楽部」とのツーマン、京都の一大フェス『ボロフェスタ』など、趣旨の異なる複数のライブに参加できる見通しだ(※編注:無事、開催された)。
そして2022年の3月~5月には、北米~ヨーロッパを巡る24本のツアー『SUPER CHAMPON 2022』の開催が発表された。この2年がもたらした混沌は、まだまだ尾を引くであろうことは間違いない。だが、あっこりんりんは、すべてを好転させるチャンスを狙っている。よよよしえ、ひろちゃん、かほキッスという鉄壁なメンバーと共に音を出すという、大きな手札が残っている限り。
「……他のメンバーがどう思っているかはわかってはないですけどね、友達でもあるけれど、何でもかんでも弱音を言う仲でもないから。“最近どう?”みたいな言葉、よう言えへん(笑)。言えたら言えたで良いんでしょうけど、言わなくても面白い曲出したらみんな面白そうに(アレンジを)考えてくれるし。ただ、信頼と甘えを取り違えないように。今日好きって言われても、明日は好きかわからんやんって私は思ってしまう人間やから。それは怖いけど、バンドはやっていきたいので」
「これ、インタビューにまとまりますかね? もうちょっとポジティブなときに話を聞いてください」と照れくさそうに、通話画面の向こう側で挨拶をしてくれたあっこりんりん。ニュー・アルバムの最後の詰めの段階というセンシティブなタイミングであったが、苦悩の先にある世界を信じ、そこに向かって歩みを止めていない姿勢が窺えた。
最高のメンバーによるライブと、最高の作品。そのふたつを手に入れた彼女が堂々と舞台に立つ日は、そう遠くないはずだ。