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INTERVIEW

トップインタビューおとぼけビ~バ~ - アルバム完成直前だからこそ言えた、創作への苦悩とバンドへの信頼

アルバム完成直前だからこそ言えた、創作への苦悩とバンドへの信頼

2022.01.11

 2021年8月、渋谷クラブクアトロでのワンマンが予定されていたおとぼけビ~バ~。ワンマンは2022年1月、万全のコロナ対策を行なった上でついに開催される予定であるが、延期直前にバンドの"監督"であるあっこりんりんに取材したのが本記事である。ニュー・アルバムの制作が佳境を迎える一方、コロナ禍によってライブ活動がままならないこと、さらに創作面でのスランプなど、あけすけに語られた内容となっている。その中でも貫かれた、バンドに対する自信。もがき続けるあっこりんりんの苦悩と、その先にある希望とは──。(interview:森樹)
※編注:2021年8月に取材した内容に、2022年1月の最新情報を加えて構成しています。アーティスト写真:江森丈晃 / ライブ写真:Jumpei Yamada <LIVE at WWW 2021年3月27日>

Introduction

 「安全なぼくらは旅に出ようぜ/思いっきり泣いたり笑ったりしようぜ」──2021年8月末、開催にも賛否両論あったフジロックの配信を自宅のテレビで観ていると、くるりの名曲「ばらの花」が聴こえてきた。歌詞が書かれたときにはそんな意図はなかったはずではあるが──2021年夏、僕らは安心に旅に出ることも、思いっきり泣いたり笑ったりすることも、すっかり難しい状況になっていた。そう考えると、少しばかり感傷的になったのも事実である(と同時に、錆びれない、揺るぎない詞というのは、あらゆる状況の変化を、言葉の意味すら変えながら的確に描写できることの証明ともなっていた)。

 一方で、ライブという武器を奪われた現状というのは、ミュージシャンにとってどれほど苦しいものであるかを、現場ではなく配信という形で、改めて考えさせられる時間でもあった。

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 2020年初頭から『YAMETATTA TOUR 2020』と題し、北米~ヨーロッパをフェスも交えて巡る予定であったおとぼけビ~バ~(以下、おとビ~)にも、ご多分に漏れずコロナ禍が直撃した。

 京都を拠点にしつつ、国内を含めた世界をその活動範囲として捉えている彼女たちからすれば、国内から動けないことはもちろん、ライブ活動まで取り上げられてしまうことはまさに死活問題であった。そんな中でも配信やグッズ販売をはじめ、DIYかつ多彩なアイディアで2020年をサバイブし、そろそろ──と思い始めた2021年も、事態は好転しなかった。渋谷クアトロで行なうはずだった日本最大級のワンマンライブは延期となり(2022年の1月を予定)、ベース・ひろちゃんのコロナ罹患に伴うライブ延期など、状況は悪化する一方。バンドとしての創作活動が停滞するのも、無理はないことだった。

ニュー・アルバムは絶対聴いてほしい。がゆえに、ちょっと考えすぎている

 「とても良いバンドなんですよ。とても良いバンドなんで、はよ(上に)行きたいし、絶対このアルバムは聴いてほしい。がゆえに、ちょっと考えすぎている感じです。気合い入れすぎて」

 おとビ~の“監督”であり、バンドの中心的な存在であるあっこりんりんにとっても、コロナ禍による活動制限は心身共にダメージを与え、難しい日々を余儀なくされた。だが、その中でもコツコツと進められていたニュー・アルバムの制作が、様々な崩壊をつなぎとめる大きな支柱になっていたと言えるのではないだろうか。『YAMETATTA TOUR』の前から制作がスタートしていたこのアルバムは、今年の夏(※2021年の夏)、最後の詰めの段階まで来ている。

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 全18曲、総収録時間22分。「アイドンビリーブマイ母性」、「ジジイ is waiting for my reaction」など、楽曲タイトル以外、すべてが速く、短くなっている近年のおとビ~のモードがダイレクトに反映されたかのような、速射砲の如き感情の“ざわめき”たち。ストップ&ゴーの多用、変則的なリズムチェンジ、あらぬ方向からにょきっと顔を出すポップなメロディなど、一見バラバラに見える要素が、4人の阿吽の呼吸によって生み出されるラウドな音塊の中で光を纏い、駆け抜ける。稀有なスタイルに辿り着いたそのサウンドの中心には、作詞・作曲を務めるあっこりんりんの存在があるわけだが、まずは彼女にアルバムの制作を振り返ってもらった。

 「1月に京都と大阪で新春企画をやって、3月に渋谷のWWWでzoomgals、Have a Nice Day!とイベントに出演したあと(『十代暴動ナイト』)、コロナがひどくなりそうだったんで、活動のメインをレコーディングに切り替えたんです。実は2020年の海外ツアーの前に少しだけ録音していていたんですけど、コロナのときに練習ばかりしていたメンバーの演奏力が爆上がりしたので(笑)、全部録り直すことになって。オケは細かいところを直したくらいでサクッと録り終わりましたが、なかなか私の歌が……歌詞も全部、できているんですけどね。ライブと同じように歌ってもなんかしっくりけぇへんくて」

短いから適当だと思われるのは嫌。全部シングルにできるのが目標なんで

 ライブバンドとして知られるおとビ~ではあるが、音源に関しても尋常ならざる思いをもって制作に取り組んでいる。たとえばおとビ~の名刺代わりの作品『ITEKOMA HITS!』(2019)は、「ライブ以外で聴くおとビ~」として、アレンジ、ミックスも含めて本人たちも納得の完成度であったというが、さらなる進化を目指すのは当然である。そもそも、あっこりんりんは“ライブと音源は別”という確固たる信念を持っている。自宅のスピーカーや通勤途中のイヤホンで、歌詞を感じ取りながら聴く音楽としてのこだわりが、ライブとは異なるハードルを自らのボーカルやコーラスワークに課すことになる。

 「かわいい声やシャウトを使い分けるのが私のこだわりなんですけど、以前よりも曲が難しくなっているし、滑舌も含め、単純に私のボーカルが演奏に追いついていないところがあるんですよね。レコーディングしたら、全然きちんと歌えていない曲もあった(笑)。そういう“楽器”として自分の声をどう使おうかとあれこれ悩んでいるうちに、時間が経ってしまったところはあります。自分で(音源を)聴いていても、“これちゃうな”、となるんです。ライブでは完璧でも、勢いや熱量だけではダメ。そのジャッジを下せるのは私だけなので……アルバムには、“こういうことしてたんや”とか、“こういうこと歌っていたんや”とか、歌詞も含めて別の納得のさせ方があると思うし、短いから適当だと思われるのは嫌。全部シングルにできるのが目標なんで」

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 ボーカル録りが難航したこともあり、2月からスタートしたレコーディングも、終了予定からは3カ月以上、後ろ倒しになってしまう。最後の最後、これで完成、というクオリティに達するまでのほんの少しの上澄みが、あっこりんりんにとって非常の大きな壁となった。そこには、海外ツアーも経てたくましくなったパフォーマンスに合わせ、音源にも同じような成長を追い求める音楽家としての苦悩があると言える。

 「細かい調整だけで3~4カ月かかっていますね。私がちゃんと仕上げないといけないんで。ずっとレコーディングしていたわけじゃなくて、家でウンウンうなってただけなんですけど(苦笑)。一旦歌を録り終わって、そこから(ギターの)よしえちゃんを呼び出してコーラスを録り直したり、曲によって、アレンジもちょっといじったり。結果的に変えたことで良くなったんでホッとしました。曲順も含めて、なんとかこれ以上やっても一緒、というところまでは来ましたけどね」

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LIVE INFOライブ情報

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おとぼけビ~バ~ クアトロワンマン2021
出演:おとぼけビ〜バ〜(ワンマン)
2022年1月12日(水)渋谷CLUB QUATTRO
※2021年5月10日(月)→8月13日(金)振替公演
OPEN 18:30 / START 19:15
前売¥3,500 学割¥1,500 ジジイ¥12,000
※当日入場時にドリンク代¥600いただきます。
問い合わせ:渋谷クラブクアトロ 03-3477-8750
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