年齢的にも自分を総括してみるという時期というのもあるんだと思います
――そこは観てもらって、どう感じていただくかということですね。本作は、シリーズ構成として上江洲(誠)さんも参加されていますよね。
安藤:アニメーションは、漫画や小説のような作家個人で全てを担うというのはどうしても無理なんです。私自身サブカル全てに精通しているわけではないですし、この作品もスタッフみんなに意見を出してもらってそれを集約して出来上がっています。それであれば脚本のスペシャリストとして上江洲さんに入っていただいた方がいいと思ったんです。それに監督本人が全部仕切ってやる事が、必ずしも面白い作品に繋がるわけではないですから。
――暴走しそうになった時に、ブレーキを掛けてもらった方がいいこともありますからね。
安藤:私自身がそうやって集団作業の中で作品を作ってきたので、その方がいいなと思ったんです。みんなで意見を言い合って制作しているので、時にはぶつかることもありますが。
――喧嘩に発展してしまうようなことも。
安藤:喧嘩とまではいわないですけど、険悪な空気にあることも無きにしも非ずです。別に仲たがいしたとかではなく、制作していく中で熱くなってという事なのでそこは安心してください。
――それだけ、みんなが真剣に作品に向き合っているという事なんですね。今作はオリジナル作品ですが、スタッフは安藤監督が集められたのでしょうか。
安藤:比嘉さんがオリジナルをやりたいとスタッフを集めた中に私が居たので、どちらかというと私もお声掛けしてもらった1人ですね。オリジナルをやりたいという思いはもちろん持っていたので、引き受けさせていただきました。
――安藤監督と比嘉さんがオリジナルをやりたいと考えていたタイミングが一致して動き出したという事なんですね。
安藤:30代になり、そういう気持ちが芽生えてきたタイミングでした。30代半ばでオリジナル作品を監督される方は多いんです。富野(由悠季)さんや庵野(秀明)さんがそうであるように、年齢的にも自分を総括してみるという時期というのもあるんだと思います。
――20代にガムシャラでやってきたなか、30代で少し落ち着いて考えるタイミングでもありますね。どうでしょう、安藤監督は『逆転世界ノ電池少女』を制作することで自身を総括できていますか。
安藤:自分ではわからないですね。作品を作ることでいっぱいいっぱいなので、総括というところまで意識は行っていないです。
――そうですよね。
安藤:オリジナル作品という事で自身をさらけ出しているのは本当なので、結果として総括になっている部分はあると思います。
――それだけ自身を盛り込んでいる作品なのである面では業の深い作品になりますが、富野監督作品が好きな安藤監督のオリジナルにしてはキャラクター含めてビジュアルや音楽はポップな形ですね。
安藤:やはりエンタメなので、見ていただきやすいという点を意識した部分はあります。スーパーアニメーターである渡辺(明夫)さんに、分かり易いキャラクターにしてほしいとお願いし原案デザインをしていただきました。変化球すぎると誰にも伝わらなくなるので、基本はストレートばかりになるようにしています。
――大事な考え方だと思います。作中のキャラクターは各業界のオタクを集めていますが、スタッフ皆さんと各文化圏のお話をされたのでしょうか。
安藤:私では分からない文化もありますから、そこに精通している方に助けてもらっています。例えば、黒木ミサの“ワードニャ”という肩書はゲームの『ウィザードリィ』の“ワードナ”からとった名前で、これは上江洲さんからのアイデアです。
――こういう表現はあれですけど闇鍋感もある作品ですね。
安藤:まさにその通りです(笑)。
――だからこそLOFT/PLUS ONEが出ているという事に意味があったんですね。初のオリジナル作品ですが、オリジナルだからこその難しさはありますか。
安藤:原作があれば、何かあった際に戻ることも出来ます。今回映像に関しては全て私の頭の中にしかないので、そこを伝えなければいけない難しさはあります。自分の中にしかないので、外に頼れるもの・戻れるものがないんです。例えば、TVアニメのお約束でもあるアイキャッチやOP・ED、私はそれが苦手なので原作のアニメ化ではとにかく原作を読み込むんです。そこから要素を拾い上げて反映するんですが、オリジナルだとそういうことが出来ないのでそれが辛いです。
――全て自分で決めなければいけないということは怖くありませんか。
安藤:不安がないかというと嘘になりますが、その気持ちに押しつぶされないようにはしています。みなさんのリアクションを聞いたり・見れたりするとその不安は解消されますね。作品を観た感想をいただけるのがとにかくありがたいです。SNSでもどんどん感想を書いて欲しいです。
――現場ではどのようにして、作品の世界観を共有されているのでしょうか。
安藤:こういった趣味に走った内容なので同じ文化圏が好きでも、世代によって言語が違う事もあって若いスタッフに伝わらないことがあるんです。
――それはありますね。私も若いスタッフと話していて感じる事があります。
安藤:なので、総作画監督の黒澤(桂子)さんに各話1P漫画を描いてもらい作品イメージを共有しています。元のネームを私が描いて、それを漫画にしてもらう形です。そうすることで、細部すべてではないにしても作品の世界観はつかんでもらえるので、あとは要所で説明をしていく形で進めています。
――本当に安藤監督のすべてを注ぎ込んでいる作品なんですね。
安藤:そうですね。たまに暴走しそうになった時に、比嘉さんが止めに来てもらっています(笑)。
――何かあった時のブレーキ役もいると(笑)。
安藤:実は、作中に自分たちをコッソリ出そうとしたんですけど、そこは比嘉さんのチェックが入りました。
――アルフレッド・ヒッチコック監督やアニメではワタナベシンイチ監督など自身の作品にカメオ出演というのは良くある話で、そこを見つけるのも作品をみる楽しみ方の1つですけどね。
安藤:そうですよね。まぁ、本編でどうなっているかは実際に観て確認していただいてということで。
――わかりました、探してみます。こうやって、色んな文化を出して、ロボットも出してだと、デザインも含めて作画のカロリーも凄そうですけど。
安藤:そこは、スタッフみんなが本当に頑張ってくれています。ロボットはCGになりますが、担当していただいた方が立体造形もされている方なので、奥行きを感じる素晴らしいもの作っていただけました。