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INTERVIEW

トップインタビュー根岸孝旨×クロダセイイチ(Genius P.J's)- 音楽だけを目標にしていると煮詰まってしまう、自分が感動するものを作りたい

音楽だけを目標にしていると煮詰まってしまう、自分が感動するものを作りたい

2021.09.13

なにかをしなければ俺は死ねないと思った

クロダ:自分自身も音楽の熱力が少し薄まっているような気もしていて、これから自分が新しいことをできるのかっていう不安があるんです。根岸さんが、今のようにまた音楽をやりたいって思えるきっかけはいつだったんですか。

根岸:発想の転換ですね。自分は音楽だけを目標にしていると煮詰まってしまうんだな、って気づいたんです。僕はもうすぐ60歳になるけど人のためになることができただろうか、と振り返ると、なにもしていないなって思ったんですよ。今後はそっちを目標にしたいと思うと、もうグチグチ言っている場合じゃないなと気持ちが奮い立ったんです。今までは、「いい家に住みたい」とか、「ハワイに別荘が欲しい」とかバブル時代的な発想が残っていたんですけど、そういうことじゃないなと。今の時代的にわかりやすく言うと、医療施設が足りないのならばそこに寄付をしたい。それができるような人間になりたい。でも、それって自分がある程度しっかりしないとできないことなんですよね。

クロダ:確かにそうですね。自分自身の生活もありますし。

根岸:今までいろんな人にお世話になったのに、自分はなにも返していない。なにかをしなければ俺は死ねない、って思うようになったんですよ。このままでは恥ずかしい気がして。実は、コロナの出始めのころは気持ちが落ちていて、死にたいなともよぎってしまって……。もう自分は罹患してしまえばいいのにとすら思っていました。今だったらまだ、「惜しい人を亡くしたね」ってみんなに思ってもらえるのかな、なんて考えたりもして。でも、そういう考え方は人間としてだめだったな。そこからかな。音楽のモチベーションではなくて、人間のモチベーション。そこが下がっていると全てダメになってしまったんです。とりあえず物事に優先順位をつけてまっさきにやらなくちゃいけないことからやろうって。ただ、優先順位の上位にある「部屋を片付ける」がずっとできていないですけど。部屋の汚い人は仕事できないからって言われています(笑)。

クロダ:根岸さんでもそんなこと言われちゃうんですね!

根岸:年下にご意見番がいるんですよ、厳しいですよ。でも確かに自分のアレンジでもそうだけど、あれはどこだっけ? って思うとますますとっちらかっちゃって。片付けは大切です(笑)。

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クロダ:さきほどコロナのお話しが出ましたが、この期間で音楽へのスタンスだけじゃなくて毎日の生活でも変わってしまったことはありますか。

根岸:前は受け身でいても刺激がどんどんきていたのに、ライブができなくなったことで、自分から動かないと刺激を取り込めなくなりましたね。でも今は出歩いちゃうのもだめだし。ネットからだけ情報を得ていると自分がやられちゃうから、月並みですけど本を読んでちょっと体を動かしたら調子も良くなりました。

クロダ:それよく聞きますよね。夏はジョギングもなかなかしずらいですけど、体を動かすのはメンタル的にも良いですか?

根岸:8月前半の暑さはすごかったからジョキングもできなくなったけど、体を動かすってやっぱりいいですよ。でも夏は危ないよね。高校野球を夏にやるのもちょっと危ないよ、日本の軍国主義の名残だと思うけど、スポーツは逆境があってこそ、気合いで乗り切れっていうのは危険。少なくともスポーツの祭典を8月にするのは危険だからもっといい時期に変えるべきだし、時代に合わせて変えていくべきじゃないかな。ただ、コロナの最大の弊害はコロナ自体の怖さはもちろんもあるけれど、ネットの荒れ方だと思う。ひとつのトピックに対して、なんで言わないんだって言われたり、言ったら言ったでなんでそんなこと言うんだって言われたり。魔女狩りのようだよ。人は生きていたら絶対に誰かに失礼なことをしてしまっているので、なにか問題があったらそこを認めない許さないっていう風潮はこわいと思う。みんなヤケクソになって攻撃をしている気がする。匿名じゃなくちゃ言えないようなことばかり。

クロダ:ほんとうにそうですよね、なんでもありになってしまっている。根岸さんはこれからまだやってみたいことや願望はありますか。

根岸:やっぱり自分が感動するものを作りたいですね。もう4年以上前だけど、シガー・ロスを国際フォーラムで見たときに2曲めあたりから涙がとまらなくなったんです。新譜を聴かないでライブに行ったから知らない曲ばかりだったのに、こんなに感動するのはなぜだろうってくらい。先入観なく見たら今までにないくらい感動して、僕もこういう空間を作れたらいいなと思いました。あまりに感動したからサウンドを分析してみようかなって意欲も出たし。

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クロダ:初めてロックを聴いたときのような初期衝動的な感動って、だんだん薄まってしまいますよね。まだそんな感覚はこれからももっていられるのかなって自分自身に不安になるときがあります。

根岸:でもね、音源だけ聴いていたり、YouTubeで見ているだけだったらここまでの感動はなかったと思います。やっぱりあの場で聴いたからなんですよ。音楽をやっていない人のなかには、「ライブなんて形態は古くなっていく、これからは配信の時代」って言う人もいるけど、僕はそうじゃないと思う。ライブやフェスに足を運ぶ人は、その空間じゃないと味わえない感動を知っているから行くんですよね。ライブという伝統はなくしたくないし。それに、ライブじゃなくちゃ伝えられないアーティストもいる。Coccoだって音源よりもライブを見た方がすごいし。ライブ会場ではお客さんたちが泣いているけれど、きっと音源だけを聴いても毎回泣いたりはしないですよね。だけどライブの空間では涙が出る、その空間自体を作りたいです。

クロダ:ライブという伝統っていう言葉はすごく深いですね。現場ならではの空気感ですね。

根岸:ライブには人の心を動かす威力があるんですよ。シガー・ロスがすごいのは歌詞もデタラメだったりするのに、音だけであんなに感動させるんだから、「すげえな!」って思います(笑)。こんな風に盛り上がれるし、また70年代とか80年代のソウルミュージックの細かいアレンジのかっこよさに気づいていつまでも興奮している自分がいるから、僕もまだまだ大丈夫だなって思っています(笑)。

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ニューシングル「ゆらぎの庭」
(クロダセイイチ Recording・Masteringにて参加)

2021年9月9日リリース
作詞・作曲:しずくだうみ
編曲・ミックス:杏
レコーディング・マスタリング:
クロダセイイチ(Genius P.J’s)
レーベル:そわそわRECORDS
配信リンクはこちら

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