政治が原因の不条理な状況はあなたのせいではない
──音楽の三浦(良明)さんとストレイテナーの大山(純)さんはすぐに引き受けてくださったんですか?
内山:これは、音楽的に奇跡のような出来事だったんです!音入れの前日に音楽的なトラブルがあって、もう絶対に間に合わないなっていうピンチがあったんですよ。プロデューサーの杉田(浩光)が大山さんと飲み友達だったらしく、「いつか映画音楽をやりたい」っていうのを聞いていたそうなんです。だから、今だ! と思ったのか、「明日、時間ない? ギター一本でいいから来てよ」って誘って、大山さんはなんのことかわからないまま2トントラックを連れて来てくれて、映像を見ながらアナウンスブースでどんどんアドリブで演奏。まさに、音楽が舞い降りてくる感じで音を入れてくれたんです。ギター一本でいろんなことをやってくれて、ほんとうにかっこよかったです。あれは奇跡でしたね。大山さんは、音楽を全部収録し終わってから、「これは映画だったんですね」ってわかるくらいなにも知らされない状態だったのに。
──それがこんなにバシっとハマって。
内山:特に博打打ちシーンの音楽に迷っていたので、うわぁ、きた、これだ! って思いました。ドラマチックでしたね。
──石破(茂)さんや村上(誠一郎)さんがあれだけ語っているのはすごいことですよね。
内山:石破さん・江田(憲司)さん・村上さんは、古賀さんが出演を働きかけてくれました。菅さんのことをよく知った関係性で話してくれる人に出てほしくて。村上さんはもともと自民党の中でもちょっと変わった立場の人ですけど、自民党のなかでもこういう想いがあるんだっていうのを話してくれました。石破さんは彼のなかのやるせなさを含めて語ってくれたのかなと思います。小選挙区制導入について小泉(純一郎)さんが反対で石破さんは賛成をしていましたけど、結局小泉さんの言う通りの結果になってしまった。だから、彼の言葉を受けて僕らがどう考えていくべきなのかっていう重みを感じました。
──後半に学生団体ivoteが出演しているのもすごく良かったです。映画の解説にも書いてある、「僕らがいま彼らの言葉を聞かないとまずいと思った。こんな国にしてしまった僕らに責任がある」という監督の想いが伝わってくる場面でした。
内山:若い人から話しを聞きたい気持ちはずっとあったのですが、これもたくさん断られました。この映画は一見、強い反政権映画だと思われがちだったので、本人は出てもいいけどまわりが嫌がってNGになったりもして。ivoteの彼らは、学生の考え方を知りたいことと、選挙は大切だという想いが周囲に伝わらないことに苦労している様子を撮りたいという想いを伝えたら、それならば……と出演してくれました。それぞれ考えが少しずつ違って、みんな自分自身の言葉を持っている。すごくリアルな想いでした。僕は、街頭インタビューには意味がないと思っているんです。作り手が、もともとの意図する答えをバランスや印象を考えた順番で並べているだけだから。そうじゃなくて、ちゃんと意味のある言葉にはどうしたら出会えるのか考えて。今後、学生だけを集めた試写会もやることにしました。意見交換をしたいんですよ。
──特に若い世代は、自分たちが大変だということすら気付けないままずっとただただ大変な状況が続いている人がたくさんいると思うんですけど、「どうして大変なのか」「政治のどこが原因で今の現状になってしまっているのか」の説明をするのはなかなか大変ですよね。
内山:編集でまるまる落ちてしまったんですけど、コロナ禍での炊き出しも撮影に行ったんです。とにかく若い人が増えていました。話しを聞くと、仕事が急になくなったという人が多かった。それって非正規雇用の厳しい条件がもとの原因なんだけど、なぜ非正規なのかっていう答えを自分自身の責任だと思っているようなのです。そして、それは正規雇用を減らすように進めた政治が原因なんだと伝えても、ピンとこない。だって、彼らにしたら今日明日のご飯や泊まる所は? という直近の生活自体が大変な状況だから。すぐにお金をもらえるほうが大事になってしまう。数十年前なら、同じ肉体労働でも十分に生活や家族が持てた時代があった。全て政治の責任とは言えないかもしれないけど、政治の進め方で、今より少しは豊かになるかもしれない。それを伝えなくては…と思うんです。自民党のやり方によっては選挙前にまた補助金を出してくるかもしれないけど、それってまた同じことの繰り返しですよね。これだけ政治が原因の不条理な状況に陥っているのに、政治が自分ごとにならないのはもどかしいです。
──監督は『世界ふしぎ発見!』『歴史ドラマ・時空警察』など有名な番組を作られてきていますが、経歴には『アナザーストーリーズ「あさま山荘事件」』、『よど号ハイジャック事件』なども担当されていますよね。
内山:僕の娘は18歳なんですけど、選挙には行っても実際そこまで政治への興味は足りていないんです。でも、若い世代が政治に興味を持てないのは僕らが橋渡しをできなかったということだし、こんな政権にしてしまったことを自分たちの世代が許してきたということなんですよね。マスコミとしての責任もすごく感じるし、次の世代への一歩のためにも、布石を打っていないとあまりにも無責任だな、と。あとは純粋に好きなんですよ、学生運動の現象も好きですし。ああいったエネルギーが今はなくなっているので、もっと政治をエンターテイメントにできる方法はないかって考えています。あさま山荘に関しても難しい番組の作りにはしてなくて、鉄球操作の職人や、現場で直面した最大のピンチは「おしっこの我慢だった」とか、突入した機動隊員が、死を覚悟した直前に無念に感じた「妻への言葉」だったりと、人間ドラマとして見せることで世間により深く伝わるかどうかの挑戦が好きなんですね。
──今回も若者を取り上げていて、若い世代へ希望を見ているような印象をうけました。
内山:僕の世代って、すこし上の世代がもたらしたバブル余波をひどい意味で受けているんです。そこに対して、あまりにも無責任にやってきやがってって思うから、せめて僕らはいい形で次の世代に橋渡しをして、今の状況を変えられたらと思います。今回、撮影途中から、菅さんより年上の話しを聞くのはやめようと決めました。自民党を見ても老害ニッポン、利権まみれを感じますよね。とにかく議員も経済も若い世代に移行すべきです。あとは、もっと自分も面白がりたいし、みんなで世の中を面白がらせてやろうぜ!っていう気持ちが大きいですね。