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トップインタビュー神谷純 (アニメーション監督) - 「やくならマグカップも」主人公たちの生きている場所が魅力的に見えたとしたら成功かなと思っています

「やくならマグカップも」主人公たちの生きている場所が魅力的に見えたとしたら成功かなと思っています

2021.05.20

キャラクターの気持ちがリアルタイムものとして届くように

──神谷監督は『やくも』のドラマをどのように構成していったのですか。

神谷:15分でも普通の作品を1本観た気持ちになっていただいて、12本すべてを観たときにジワリと作品に横たわる気持ちのドラマを受け取ってもらって、それが気持ちのいい感動に繋がったら嬉しいなと思って物語を構成しています。

──物語のテンポがほんとに心地良く、しっかり描かれているドラマとともに観ていて多治見の魅力も伝わってきました。普通は情報過多になると思うんですけど、それがなくスッと入ってきました。

神谷:物語が駆け足にならずにキャラクターの気持ちがリアルタイムものとして届くようにしつつ情報を入れるというのは、一番苦労したところです。

──陶芸の知識も解って、その視点でも面白かったです。

神谷:僕も全く知らないところから入っているので、監督をしつつ「へぇー」と学びながら作っています。

──陶芸は手元の作業なので絵としては地味になってしまうと思うのですが、演出・画作りではどういったことを意識されたのでしょうか。

神谷:陶芸をやっているところを実況的にやってしまうと単に女の子が座ってぐるぐる轆轤(ろくろ)を触っているだけになってしまうので、やっているさなかの感情をどう表現するかということを意識しました。

直子.png

──感情の表現とは。

神谷:轆轤を回しながらも心はそぞろとか、気持ちが揺らいでいるなど、感情表現の方法として積極的に使っていったんです。陶芸の時間でキャラクターのドラマを浮き彫りにするような描き方にすると、観ている方たちもキャラクターの感情を感じてくれるんじゃないかなと考えたんです。陶芸シーンに関しては出来る限りそういう風に作っています。

──手からも感情は出ますからね。

神谷:具体的なところでは第2話で姫乃が何を作ったらいいか分からないとなった時に轆轤をもてあそんでいるところが分かり易いですね。

──ロケハンにもいかれたとのことですが実際に陶芸を体験されたのですか。

神谷:2020年1月にロケハンをした際に原作の監修をされている虎渓窯(こけいがま)という窯元さんにスタッフたちと陶芸体験をさせていただきました。その時の体験がほぼ第1話の描写になっています。

──作中の(豊川)姫乃が初めて陶芸に触れた姿は、神谷監督の体験と合わさって描かれているんですね。

神谷:姫乃もこの感じを体験するんだろうなと初めて体験した時の気持ちを忘れないよう宝物のようにして第1話に臨みました。

──私も陶芸の楽しさをアニメを通して疑似体験できました。

神谷:それを感じていただけたのであれば素敵なことで嬉しいですね。主人公たちの生きている場所が魅力的に見えたとしたら成功かなと思っています。キャラクターのドラマと住んでいる場所が溶け込むように魅力を感じさせるようにしました。

──素晴らしい描き方だと思います。

神谷:魅力的な姫乃たちが居る場所と感じていただけると現地に行くモチベーションになると思っています。僕らはそのきっかけを作る形にできればと考えています。

姫乃㈰.png

素敵な感動を届けられるんじゃないかなという確信をほんのちょっといただけました

──神谷監督も小池さん梶原さんの熱に充てられて『やくも』への愛があふれていますね。これだけドラマがある作品だとキャストのみなさんの演技力も大事になってくると思いますが、みなさんのアフレコは如何でしたか。

神谷:アフレコの面で言うとありがたかったのが実写パートの効果です。実写パートはアフレコに入る前に撮影されたんです。

──キャストのみなさんも実際に現地を体験してからアニメに入ってこられたんですね。

神谷:僕は実写パートには関わっていなかったので、完成したものを観させていただいたんです。それを観て驚いたのが、こんなにちゃんと轆轤を体験してるんだということです。轆轤体験がないまま第1話のアフレコに入ると感じが分からなくて時間がかかるんじゃないかと思っていたんです。

──確かに、経験のあるなしでは演技に大きな差が出てきますね。

神谷:思った以上にスムーズに進んでいったのでみなさん素晴らしいなと思っていたんですけど、体験してるからよりリアルになったんだと感じました。キャストのみなさんにとっても実写パートの成果がそのままアフレコに繋がっていたので、面白い現象を体感することが出来ました。実写パートの撮影で彼女たちも仲良くなったみたいで、関係性も出来上がっていたんです。

──そこも含めて姫乃たちになっていたということなんですね。

神谷:非常に雰囲気のいいアフレコ現場でした。4人の空気感も出来上がっていてそれが素敵に出ていました。実写パートのロケが面白い形でアニメにフィードバックされていて、それも経験したことが無いことでした。

──アニメではキャストのみなさんが先に現地を経験出来るというのはなかなかないですから。

神谷:陶芸となると自分で行こうとしないと経験できないことですからね。轆轤以外のこともやっていたので、実写パートを見てそれを知って「なんだ、教えてくれよ」って思いました(笑)。

──アフレコというよりもプレスコに近い感じだったんですね。

神谷:それに近い不思議な空気が出ていました。

──実写パートを観られていかがでしたか。

神谷:ロケハンで行きましたが駆け足だったので堪能できていない部分も多くて、もっと体験できればなと思っていたことをみんなやっているので羨ましかったです(笑)。

──ズルいと(笑)。それもあって、アニメと実写が一つの作品になっていると感じられて素晴らしかったです。

神谷:姫乃たちがやったことを彼女たちもまんま感じているという実写パートでしたね。

──出来上がった作品をプラネットの方は観られているのでしょうか。

神谷:はい。特に小池さんは感動していただけたそうで、「号泣した。」と言っていただけました。それを伺って、これから作品を観てくださる皆さんにも素敵な感動を届けられるんじゃないかなという確信をほんのちょっといただけました。12話までいくと感情のドラマが1つ大きく完結していくものになっているので、それを観たうえで感動していただけると作った甲斐があります。

──小池さんが感動するというのも解ります。私も日常ものだと油断して見ていたらすごいドラマがあって、ビックリしました。

神谷:ありがとうございます。第8話はとんでもなくふざけた話なのでそこもたのしみしてください(笑)。

──そうなんですね(笑)。それも含めてこれから先の展開が楽しみです。

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LIVE INFOライブ情報

TVアニメ&実写『やくならマグカップも』
 
CBCテレビ、BS11、TOKYO MX、MBS、AT-Xにて、2021年4月2日よりTVアニメ放送開始
 
<キャスト>
豊川姫乃:田中美海
久々梨三華:芹澤優
成瀬直子:若井友希
青木十子:本泉莉奈
 
土岐川幸恵:真山亜子
豊川刻四郎:石川界人
小泉真美:小川真奈
真土泥右衛門:内田彩 ほか
 
<スタッフ>
原作:プラネット・日本アニメーション
監督:神谷純
シリーズ構成・脚本:荒川稔久
キャラクターデザイン・総作画監督:吉岡彩乃
音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:日本アニメーション
協力:岐阜県多治見市/一般社団法人多治見市観光協会/「やくならマグカップも」活用推進協議会
製作:やくならマグカップも製作委員会
 
© プラネット・日本アニメーション/やくならマグカップも製作委員会
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