家とか血縁とか絆とかを信じてない家庭だってある
──今回の3曲は、どれも女性差別を憎んでいる。
イライザ:「家父長制にツバを吐け」は、私は家というものを信じてなくて。もともとの発端は兄であったり、あとうちの父がゲイなの。でも昔の時代の人だから、いつまでも一人じゃいられないってお見合いして母と結婚したの。父は家庭や子どもに興味がなくて。競馬に狂っててどうしようもなくて。だから私は家ってものを信じてないし、恐怖でしかない。そんな家庭だってあるのに、今の政権って家の信仰が凄いじゃない? 家とか血縁とか絆とか。恐ろしい。
──家父長制こそが女性差別を作ってるものだよね。
イライザ:そうそう。根源よね。
──自民党の改憲案は家庭第一とか言って女を家に閉じ込めておく、前時代的なものだし。
イライザ:そうそう。家父長制なんてものが未だに通用してる、恐ろしいわよ。同じ意見でも男性が言えば何も言われないけど、女性が言えば叩く。女性に対するその態度、日本は異常よね。政治家といういわゆる国の代表が女性蔑視してるんだから、ホント異常。
──女性差別だって気づいてない男性もいるしね。
イライザ:そうそう! 家父長制のもとで育ってきたからか、女性差別に無自覚な人が多すぎ。女性の上に立とうとする。そのくせ甘えてくる。
──そうそう! 女はお母さんじゃないぞ。対等に接しろってだけなのにね。
イライザ:そうそう! 崇めて欲しいわけじゃないのよ。たとえば、「女性には敵わないですよ、手の平で転がされてますよ」とか言ってるのも気持ち悪い。
──気持ち悪い!
イライザ:ねぇ。イヤだよねぇ。「女房には頭が上がらないですよ」とかゲェ~って思う。そう言っとけばいいやって思ってるのよね。そうじゃなく対等に、人間対人間で敬意をもって接してくれってだけの話。私はそういうことを自分の仕事でより知ることができたの。私の職業はSMの女王で。
──うんうん。
イライザ:自分がSMに身を置いて思うことは、マゾヒストの男性って男らしい姿をすべて放棄したくて、それでマゾという資質を自分に見つけ出したと思うのね。すべてを放棄した立場で、私という女王と対峙したいわけ。私のところに来るお客さんは、自分はどういう人間で、どういう弱さがあり、その上で何を求めているか、ちゃんとわかった上で来るの。素晴らしいなって。そういう意味で敬意を払ってるの、マゾ男性に。
──女王とマゾ男性って実は対等なんだ。
イライザ:そう。自分の弱いところを理解しているって凄いことなの。理解して自覚しているから、だから私のところに来る。もう敬意以外ないわよね。言ってしまえば変態性ってものを自覚している人が、自覚しているから行ける場所が私の仕事場なの。だから私は自分の仕事に誇りを持ってるの。
──うんうん。逃げ場所で居場所。そういう場を作ってる。素晴らしいなぁ。でね、今回の3曲は作ってからリリースまで時間が経ってたわけで。
イライザ:そう。曲を作ったのがだいたい2年ちょい前、レコーディングがコロナの前、そしてリリースが2021年の今。
──思ったこと、体験したことは、すぐに曲にするってことだけど…。
イライザ:貧乏性なのよ(笑)。そのとき、思ってることを曲にしないと気が済まない。たとえば恋愛してたら、今ラブソング作らなきゃもったいない! このめくるめく愛の日々を歌わなきゃもったいない! って思っちゃうの(笑)。今回のようなヘヴィな曲も、好き好きボーイフレンドみたいな曲も、それは同じなの。熱いうちに書きたいの。
──でも今回はリリースまで時間が経っていて。
イライザ:それがね、時間が経っても、何度歌っても、泣いちゃう。
──うん。
イライザ:泣いちゃうし、怒り再現みたいな。怒りはどんどん出てくる。辛い!
──それでも歌う。
イライザ:うん。歌うわ。なんなんだろうね。何回歌っても泣くし、ライブでもMCしながらたぶん泣いちゃう。怒りっていうのは、たぶん風化されないのよ。
──あたしも子どもの頃、最初に痴漢に遭ったときのこと未だに覚えてるよ。
イライザ:そうよね。私も。全然風化されない。
──たとえば性被害に遭って、時間が経ってから訴える事案があるけど、何年も前のことを今頃? ではないんだよね。
イライザ:何年も経ってやっと話せるようになったのよね。やっと。その時間にどれだけ苦しんだか。これからだって苦しいし。
それぞれ違う環境で生きてるんだし、一枚岩になることはない
──もうさ、曲もサウンドも歌詞も、激しさ、怒り、すべてカッコイイし感動的だし。でもなんていうかな、それで済ませてはいけないなという思いも出てきて。“me too”と思ったなら、自分はどうするか考えなきゃっていう。
イライザ:うん。でも私、ユニティ! みんな立ち上がれ! みたいなことは思ってなくて。受け止めるだけでいい。共鳴してくれたら嬉しいけど、私はアクティビストになって頑張るぞ! って気負いはないし。何かやるにしても自分の匙加減でやってくれればいい。それぞれ違う環境で生きてるんだし、一枚岩になることはないのよ。それぞれが自分のことを思ってくれればいいなって。
──そうですね。シスターフッドっていうのも同じ考えの女性というより、違う考えであっても尊重しようってことが土台にあると私も思うし。
イライザ:「女の敵は女」っていうのも男が言ってることよね。男が女を分断させて喜んでるのよ。
──ホントそう! そんなのに女は騙されないぞ。あ、まゆたんが来ました!
まゆたん:すみません!
──メチャメチャカッコイイe.p.です! 「わかんねぇならクソして寝てな」のドラムからスタートするとこや中盤の4人のコーラスでグッとテンポを落とすとこ、凄くいい!
まゆたん:やってても気持ち良かったです! イラちゃんはちゃんとイメージを持っていて、こういう感じでって伝えてくれるんです。そのイメージをメンバーで共有して、自然にあの感じになっていきました。
──歌詞については?
まゆたん:歌詞は真ん中にしようって意識しました。イラちゃんの歌詞はイラちゃんのパーソナルなことだけど、自分にもあるものだって感じます。それはいつもそう。もしかしたらスタジオとかでいろいろ話をするからかも。曲のこととか雑談みたいな感じで。同じ体験をしてなくても共感することが凄くある。ストレートに伝わってくる。今回もすぐ曲に入り込めました。
イライザ:そうだ、ジャケットのうさぎはまゆたんの家のうさぎなのよね。
まゆたん:そうなんです。私はうさぎやリクガメ、チンチラ、モルモット、デグー、リチャードソンジリスと暮らしています。
イライザ:メンバー全員が動物好きで。ホントは私の家のぽんちゃんをジャケットにって言ったんだけど、軽くスルーされたわ(笑)。
──ぽんちゃんはテディベアでは…?(笑)
イライザ:生き物です(笑)。