死んだからって許してたまるか
──ホントそう思う。今はネットがあるからかフェミニズムも広がってきているけど、イライザさんは昔からフェミニストですよね。
イライザ:大学で女性学を取得しましたとかそんなレベルじゃないんだけど、ずっと意識はしていました。20代の頃に穴奴隷で『We'll break male's fantasy. Fuck your myth of musculinity. Full of anger e.p.』、日本語だと『有害な男性性に対するファック』っていう7インチをリリースしたし。だから搾取にも敏感だったのね。
──ライブで配るチラシにも、以前からメッセージを書いてたよね。多くのバンドはライブの日程だけなのに、イライザさんはメッセージを書いていた。素晴らしいアイディアだなと思ってました。
イライザ:今もたまに発行しているイライザ新聞。かなり昔からライブで配ってたんですよ。動物実験反対とか女性差別についてメッセージを書いてね。昔、穴奴隷をやってた頃、ハードコアをやりたくて。私は穴奴隷ではギターでノイズをガンガン出しててノイズコアをやりたくてね。歌詞もどんどんポリティカルになっていったのね。でもね、だんだん息が詰まってやりきれなくなっていって。私の歌詞は本当に自分に起きた出来事を書いてるんです。穴奴隷の頃の歌詞は、アメリカのイラク侵攻反対デモに行ってたりヴィーガンだったりして、いろいろ学んだことを書いて。でもちょっとしんどいわ~って無性にロックンロールがやりたくなって。サタデーナイト! パーティーに行こう! って空っぽなやつ(笑)。今、10年以上経って戻ってきたっていうか、辿り着いたっていう感じ。
──メッセージとハードコアなサウンドがビシッと合致したのが今作。
イライザ:うん。今回の歌詞はパーソナル過ぎて。ホントに泣きながら、熱も出しながら書いたの。作るたびに寝込むのよ(笑)。楽しい作業ではなかった。なんていうの、禊みたいな感じかな。人生その繰り返しよ。
──コロナで自粛のときに作ったの?
イライザ:コロナ云々になる前にレコーディングして。曲を作ったのはもっと前で、2年ちょい前ぐらい。兄が死んだ後ね。兄が死んだことによって書こうって思って。
──前にちょっと話してくれましたよね、お兄さんのこと。
イライザ:具体的な話をすると、兄は2年ちょい前に死んだんだけど、兄には15才から会ってなくて。葬式にも出なかった。兄はセックス&バイオレンスの人で、そんな人と一緒に住んでたら私が標的にされる。私が15のときにレイプしようとしてきた。実の兄がよ。キモッて思って家出して。兄は精神を病んではいたんだけど、耐えられないですよ。私は家出先から高校に通ってたの。そしたら母親が学校の側で張り込んでいて、自分も家を出るから一緒に暮らそうって、母親とアパートで暮らしてたの。父親は競馬に狂ってたからね。そんな10代よ。世の中はよく「許せ」って言う。許すって文化があるじゃない? 許すことによって自分が成長する、次のステージに行けるみたいな考え方。でも私は、もしそれで成長したとしても絶対に許したくない。改めて曲にして…、よく死が免罪符になるっていうけど…。
──死んだ人のこと悪く言うなとかね。
イライザ:そうそう。死んだからって許してたまるかって思っていて。なかったことにするなんて絶対にできない。そこで書いた曲が「征服されざる者」。サマセット・モームの小説に「征服されざる者」って短編があって、そこから。原題は「THE UNCONQUERED」で今回のe.p.のタイトルにしたの。小説の内容は戦争中の話で、村に兵士が来て村の娘をレイプする。娘は妊娠するのね。戦争が終わって、兵士はレイプしたけど好きだから結婚してくれって娘の親に取り入って。親も結婚してもいいんじゃねぇかって。娘はレイプでできた子どもを産んでいて、その子どもを川に沈めて殺すの。なんか、凄いその気持ちわかるなって。子どもに罪はないっていうけど、そうであってもレイプした男を許すつもりはない。強い意志よね。
──加害者との結婚を親も認めるなんて、もう孤立無援だよね。
イライザ:そうそう。怒りの感情って、本当に嘘がないんですよ。本当に!
──私はイライザさんと同じ経験はしていないから傍観者の視点もあるかもしれない。でもやっぱり傍観者にはなれないんだよね。私自身にもきっとどこか体験してることで。
イライザ:そう。すべての女の普遍的なことだと思う。
──怒りが湧くし刺さるし涙が出るしグッとくる。それは自分の体験を歌うイライザさんの勇気に感動したのと同時に、きっと自分の心にもあるものだからだと。だから感動したんだと思う。
イライザ:そうだと思う。女性の中に絶対にあるものだと思う。凄くパーソナルであり、普遍的なテーマでもあるのよ。
──ホントに“me too”なんだよね。
イライザ:そうそう。たとえば私の経験は実の兄からの性暴力なんだけど、でも結婚して、ファミリーがあって、そこで虐げられてる女性も「征服されざる者」である女だし。各々の立場や居場所は違っても、すべての女がそうなんだと思う。私は『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んでとても共感したんだけど、私の環境はキム・ジヨンとは違う。でも、わかるわかるって読んでいた。だからね、すべての女たちの苦悩が含まれるのよ、「征服されざる者」っていう言葉に。
──うんうん。だから曲の中でコーラスがフィーチャーされているし、今作のジャケ写もメンバー4人それぞれのキャラクターや顔が見えるよね。それが凄くいい!
イライザ:メンバーそれぞれがそれぞれの場において絶対に経験してることなのよ。どんなに楽しく暮らしてる人でも女ゆえの苦悩は絶対にある。私のバンドのメンバーはそれぞれで自覚している。だから一緒にやってるの。亭主関白最高! って人はメンバーにいないからね(笑)。