ひねり出してひねり出して生まれたのが「一級品の間男」って曲
──水面下で続いているアルバムの制作ですが、現在の状況はいかがですか。
あっこ:アルバムを出したいという気持ちはずっとあります。ただわたしたちは曲が1分くらいしかないので、何曲作ったらアルバムとしてリリースしてもらえるんやろうかと悩んでいます(笑)。とりあえずは、こんだけ作ったから大丈夫? って聞けるところまで作ろうと。少なくともあと2~3曲は作らないかんなと思っています。じつは去年、仕事を辞める直前に少しだけ録っているんですよ。ただ、そこから凄まじくメンバーの演奏力が上がったので、録り直さないといけないなと。一応、来年くらいからレコーディングも再開する予定です。
──演奏力が上がったというのは、スタジオに入る時間が増えたからですか?
あっこ:2月のヨーロッパツアーで得た経験値もありますし、自粛期間が明けてスタジオに入り出してからは、やっぱり会社員時代よりは確実に練習時間が増えたんですよ。そのあと、わたしがほんまに病んでしまって歌うことができなくなってしまって。ちょっと休ませてもらって、わたし以外の3人でスタジオに入ってもらっている時間があったんです。しばらくして復帰したら「なんかめちゃくちゃうまなってるな」って(笑)。わたしがいるとスタジオでは新しいフレーズを試してみたりする時間も多いんですよ。でもいないときは、これまでのセットリストをやるしかないってことでノンストップでやったみたいで。
──あっこさんの不在が、3人の演奏力を向上させた可能性があると。
あっこ:強くなってましたね。体育の時間の感覚って言ってました(笑)。
──ちなみに新曲は、ライブでタイトルが明かされているものも含めて10曲くらいある感じですか?
あっこ:MVや配信で公開されている曲も入れると15曲くらいですね。ただ、そのうち5曲くらいが18秒程度の尺しかなくて(笑)。だんだんジングルみたいになってる。
──長さがそれくらい短くなるのは、言いたいことが言い切れたからですか?
あっこ:そうです。それ以上言いたいことがなかったら曲は終わりですね。一回、引き延ばしてみようと思ったんですけど、それは意味がなかったですね。蛇足。これが1曲1~2分の曲だと、わたしの中で全体像があるので。短すぎるとそれ曲じゃないって言われると思って迷ってたけど、それも最近どう思われてもええからとりあえず作ったれと思って。
──先日SNSでアップされていましたが、半濁音・擬音語だらけの曲とかあったじゃないですか。それまでひたすら意味や言葉にこだわり続けていたところから、ああいった振り切れ方をしたのには何か理由はあるんですか?
あっこ:あの境地に辿り着いたのはめちゃくちゃ最近で。たまにああいうモードになるんですよ。それこそ自分の好きなことや思いついたことを曲にしてきただけだったのに、いつしか経験積んで、みんなの前に立って、アーティストとしての自分が確立されはじめたことで、「何か伝えないといけないんじゃないか」みたいな気持ちが生まれてしまって。でも、そもそも何か伝えたいと思ってバンドはじめたわけではなかったんで、そこにやっと気づけたというか。やっぱり、ちょっと“考えてる”と思われたい自分がいたんですよ。もちろん、考えてはいますし、ミュージシャンなんでSNSじゃなくて音楽で伝えたいという気持ちもあるけど──意味なくても良いか、と。まあ病んでた時期はしっかり「孤独死こわい」っていう曲を持っていったのでメンバーが不安そうな顔してましたけど。好きなことを思いついたら言っていこうということで、擬音語ばっかりの曲と、急に舞い降りてきた「一級品の間男」という曲ができたんですよ。だってこの期間に「一級品の間男」という歌、作る必要ないでしょ?(笑) ひねり出してひねり出して間男って、なんやねんって感じですけど。
──タイトルの切れ味は近年飛躍的に伸びているように思います。
あっこ:どうなんですかね? 「嫁(あなたわたし抱いたあとよめのめし)」とか、「ハート(ハートに火をつけたならばちゃんと消して帰って)」とかに勝ててるんかなと。あの頃に比べてキャッチーじゃないかもしれないし、キャッチーだけど怖すぎるところまで来てるかもしれない(笑)。擬音語の曲も、こんなんもあってええかなってアルバムを意識して作ったものなんで。実際にライブでやったら盛り下がりそうやなって(笑)。
もともと言葉はかなり選んでいるので。そこはわかってくれる人だけでいい
──ライブを再開して、生でオーディエンスのリアクションを体感できたのは大きかったですか?
あっこ:最初は名古屋でのライブだったんですけど、なんか泣きそうでした。みんな口に出していたわけではないんですけど、「見たかったよ!」という思いが顔に出ているというか、ライブハウスに来たかったんやなというのは伝わってきました。みんなも苦しかったんやなと。わたしも1年ぶりに会うお友達みたいな感覚がありましたね。ひとりで新曲できないとかずっと悩んでいたけれど、お客さんも悩んでいたのがわかった。
──でも本当に、みんなどうやってこの状況を過ごそうかって考えていたと思いますよ。ヘルシーな生活を送る人もいたと思いますし、僕みたいにダラダラお笑いばかり見ていた人もいるはずで。
あっこ:それでもみんな仕事しているわけじゃないですか。でもわたしは仕事も辞めて、音楽一本で行きますって言っていたのに、スタジオにも入れなくて。スケジュールはめっちゃ空いているんですよ? それこそ、英語の勉強とか、今後に向けていっぱい家でできることもあったと思うんですけど、何もする気が起きなくてわたしも(お笑いの)動画見るくらいしかしてなくて。その間にみんなレベルアップしてるんやろうなと思うと、どうしようって。曲も寝ずに考えてたけど書けないし。
──言っても自粛期間でしたからね。あの時期を経て、これからどうするかだと思います。
あっこ:ようやく、仕事辞めたらやりたかったことをやりはじめていますね。裁判を見に行ったり、お笑いライブに行ったり。死ぬまでに一度は見たかったBKBのライブにも見に行けましたし(笑)。オススメされた映画やラジオ、動画とかも見ようかって思える気持ちが出てきて。
──曲が生まれてきているのも、そういった気持ちの変化が大きいかもしれないですね。
あっこ:そうですね。わたし、恋愛してないと曲が書けない体質だとか思われていますけど、全然そうじゃないんですよ。
──世間的には“ガールズバンド”と称されて、女性のルサンチマンを~って枕詞のように言われていますけど、あっこさんの歌詞はもっとパーソナルで男女ともに共有できるものだと思うんですよ。「アイドンビリーブマイ母性」も、子供への思いとか恋愛・結婚観で共感できる男性も多いと思います。
あっこ:でも、むっちゃきち○いだと思われてそう(笑)。最近は、コンプラ的なことはけっこう考えるようになりました。それで言葉遊びがおもんなくなってきているところもあるかもしれない。
──世代や時代が変われば「言って良いライン」も大きく変わりますからね。若い世代になればなるほど、コンプラを気にしているでしょうし。
あっこ:ただ、合わせようとまでは思っていないですけどね。性格的にも、もともと言葉はかなり選んでいるので。今までめちゃくちゃ叩かれたことはないし、そこはまぁ、わかってくれる人だけでいいかなぁ。
(ここからM-1準決勝の話に突入したので、割愛)
あっこ:芸人さんがすごいと思うのは、インスタライブやったりとか、ネタを続けていたりとか、あんまり病んでいる人がいないことなんですよ。見せてないだけかもしれないですけど、こんな状況でも面白いこと考えられるっていう強さがあって。
──それはありますね。これまで忙しくて考える時間が少なかった人とかは、前向きに状況を捉えている人も多いのかなと。
あっこ:そうですね。わたしはもう、来年のことはマジで考えてない。考えたくない。
──とにかく明日?
あっこ:そうです。先のことって言っても、今はまだ次の月のことくらいしか考えられなくて。だって、全部ポシャるかもしれないから。M-1準決勝を見た日、朝まで飲んでたらフランスのフェスが決まってて「えっ」てなったけど(笑)。来年、プリマベーラ(※スペインのフェスティバル)もありますけど、開催できるかはわからないので。
──フェス出演も事後報告なんですね。
あっこ:事後報告ですね(笑)。