SXSW(2017、2019)、コーチェラ・フェスティバル(2018)といった大型フェスへの出演、複数回のUK~USツアーによって、欧米はもとより、日本でもその評判と知名度を上昇させてきた京都在住の4人組ロック・バンド、おとぼけビ~バ~。彼女たちは2020年1月、メンバー全員が一斉に会社を辞め、バンドで勝負をかけることを決断する。そのキックオフともなった2月のヨーロッパツアー『YAMETATTA TOUR 2020』は、ソールドアウト多数の大成功を収めた。だが、コロナ禍によって大型フェスを含む以降のライブツアーはキャンセル・延期を余儀なくされ、予定も収入もなくなってしまう。オンラインライブやnoteでの情報発信など、その中でも積極的に動いているように思えたおとぼけビ~バ~だが、やはり先が見えない状況は彼女たちを追い詰めていた──。今週末、久々の東京公演を開催する彼女たちの中から、バンドのボーカル/総監督を務めるあっこりんりんに、この激動の2020年について話を聞いた。(text:森樹/photo:Jumpei Yamada)
配信ライブしかできない時期はもうカメラが怖くなってしまった。誰のために、何のためにこれをやってるんやろう? って
本当だったら世界各地を巡っていて、大きな喝采を浴びていたはずの彼女たちは今──京都という地に留まることを余儀なくされながら、それでも明日を見据えようと奮闘している。重要なのは、未来ではなく、明日を見ているということ。日々状況が変わるコロナ禍で、目の前にある事態だけに焦点を絞り、そこに全力を注ぐ。おとぼけビ~バ~・あっこりんりんが、沈んだ日々の中で痛感したライブの重要性。およそ1年ぶりの東京公演を前に、この2020年を語る。
──仕事を完全に辞めた2020年、本来なら海外を飛び回っている予定だったのが、コロナ禍で日本での活動を余儀なくされました。最近はようやくライブも再開でき、あっこさんも自粛直後に比べるとこの状況を冷静に見ることができているのかなと。
あっこ:2020年、「やるぞ!」と思ったときにこういう状況になったんで。最近は、その「やるぞ!」ってなった初っ端に最悪の状況がきたことで、逆に怖くなくなってきたというか、開き直れたので良かったのかもと思っています。ただ、予期せぬ事態で心を折られたのは事実ですけどね。会社員を辞めるときにすらお金をどうするのか、ちゃんと稼げるのか、と不安に思っていたのに、何もかもダメになったので(笑)。こうなったら、なんとか生きていくしかないですからね。
──とにかく日々、やっていくしかないですからね。
あっこ:それも希望があるからですけどね。来年すぐには無理かもしれないけれど、再来年には最悪なんとかなってるだろうという。でも、ライブハウスの状況が二度と元には戻らないっていう人もいるじゃないですか。そういうのは今は考えないようにしています。目先の話をとにかく考えるように。
──話はコロナ前に戻りますが、2月のヨーロッパツアー『YAMETATTA TOUR 2020』、バンドの調子はいかがでしたか?
あっこ:けっこう良い感じだったんですよ。12月までツアーの予定がパンパンだったし、日本よりも海外にいる時間のほうが長いだろうってくらいのスケジュールで。そのままやってたら「音楽だけで食えていけるな」って自信を持てたかもしれなくて。今は、配信だったりグッズ販売だったり、みなさんからのご支援でなんとかやっていけている状況なので。
──会社員を辞めて世界に打って出るというおとぼけビ~バ~の決断は他のバンドにも勇気を与えたと思いますし、それがファンからの継続な支援につながっているように思えます。
あっこ:でもまぁ……病みましたね、この状況には。ライブができないだけでこんなに病むんやと思いました。最近はミニツアーをさせてもらって正気を取り戻してきましたが、配信しかできない時期はもうカメラが怖くなってしまって。誰のために、何のためにやってるんやろう? って。どこ向いて歌って良いかわからんし、お客さんの反応も、あとでコメントでしか確認できない。ライブではご愛嬌の小さなズレとかも全部鮮明に記録されてしまうし。それがめちゃくちゃ嫌になった。ああ、それくらい生のライブが好きやったんやなって。
──改めてライブというものの大切さを知ることになったと。しかも、2月のヨーロッパツアーで海外の方々が熱狂しているのを間近で観ているわけですからね。
あっこ:配信は4人だけの空間でやっているから、それももちろん楽しいんですけど、ライブで湧き上がってくるヒリヒリした感じはなかなか出しにくいですね。
──バンドメンバー的にも、そういった考えはあっこさんに近しいものなんですか?
あっこ:どうなんですかね。基本的にはわたしが決めた方針をみんなに「どう思う?」って相談しながら進めるので。配信ライブをやっていた時期もそうだし、今のミニツアーをやろうというのも、わたしがお願いして。「客が5人~10人でも良いからやりたい」と。ライブがないと、生きてる気がしなかったんですよ。そこでメンバーが拒否するってことはなくて「やろう」と言ってくれたんで、ここまでやってこれましたね。何よりも、わたしが止まったことでメンバーのモチベーションが下がって、関係性が変わるのが一番怖かったから。
──それを防ぐためにも、あっこさんが欲していたのは生の現場だったと。
あっこ:そうですね。お客さんに対してとか、世間の目とか……もちろんわたしも今の状況は怖いと思いますし、何が正解かもわからないですけど、『VIPツアー』ということでなるべく少人数、○○人限定を謳うことで、来られる人は来やすいように。来週ライブあるって思うとモチベーションになるので。
──確かにSNSを見ても、ライブが間近に迫っているときのほうが気持ちが盛り上がっているのは伝わってきます。
あっこ:それと、ライブがないと曲も書けないんですよね。友達のライブも見に行けなかったし、ネットからしか状況もわからなくて。そのネットもちょっと病み気味だったでしょ? コロナの曲が出てきたり、敢えて距離を取った曲も出てきたり……そういうのを見て、わたしは何もできてない、活動止まってるって思われたくない気持ちがどんどん空回りして。
──ミュージックバトンみたいなものもありましたしね。
あっこ:あぁー、わたしたちには回ってもこないですけどね(笑)。
──バトンに参加している人たちも、この状況を持て余しているというか、どうやって発信するべきか悩んでいるのは感じられましたけどね。
あっこ:ほんまに家にいた、スタジオにも入っていない2カ月は、何もできていませんでした。普段は曲作りでギター使わないんですけど、ひとりで曲作らなと思って自粛中はいやいやギターも弾いていたんです。弾き語りでもなんでも、何か自分にできることがしたいっていう焦りはあったけれども全然ダメで。というか、弾き語りなんてやりたいことじゃないし、わたしの弾き語りぜんぜんよくないからそれも諦めて(笑)。ZOOMで曲作りっていうのも、わたしらは絶対にできない。0.1秒遅れただけで意味がない。それがわたしらの強みでもあり、めちゃくちゃ弱みでもあるんやなって。
──そうですよね。
あっこ:やっぱりわたしらライブバンドやなってなりましたね。だから、ヤバいともなったわけで。
自粛期間中は、みんなと同じことで悩んでいて、それは全然、歌にしたくなかった
──もともと、おとぼけビ~バ~の曲がルサンチマンだったり怒りだったりという感情から生まれているものだとして、それを音楽としてぶつける先=ライブがなければ意味ないですもんね。それはあっこさんの創作意欲にも大きく影響を与えるだろうなと思います。
あっこ:しかも問題は、みんなと同じことしか思わなかったんですよ。ルサンチマンとしても、ちょっとどうでも良いことだったりだとか、恋愛でも表現の仕方が違うってことがわたしらの音楽なんで。でも、あの時期は「コロナどうするんやろう」とか、「お金どうしよう」とか、みんな悩んでいたことと同じことで悩んでいて、それは全然、歌にしたくなかった。だから作れなかったというのはありますね。
──全員が全員、共有できることを言いたくはない。
あっこ:それ、わたしが言わんでいいやんっていうのはずっとありました。好きっていう感情をならではの言い方にするのはできても、コロナ怖いを個性的に言うことに意味はない。バンドのアルバムに、コロナのことを歌った曲を入れたくないなって思いもあります。生活の基盤が崩れて曲かけへんって、わたし、ぜんぜんパンクじゃないなと思いました(笑)。
──配信の難しさを先ほどから話してもらっていますが、自粛期間明けの8月、あふりらんぽとのツーマンはかなり刺激になったのではと思うのですが。
あっこ:今やからこそ、みんながみたいツーマンって考えたときにあふりらんぽに声をかけたんです。確かに、それまで配信はワンマンばっかりだったんですよ。それが、あふりらんぽが見られるってだけでもモチベーションになったし、頑張らな、負けたらあかんという気持ちが生まれたんで。そういうことやな、って思って12月にも対バンライブをそこそこ入れたんです。刺激されて曲ができることもあるし、あふりのライブも1週間ぐらい引きずりました。あの人らって身体全体がもう音楽って人たちで、わたしは胸の内の鬱憤を出すって感じなので。その違いを知った上で、どうやって戦っていくかと言えば、個性を伸ばしていくしかないなと痛感しましたね。
──なるほど。自分たちの土俵をいかに広げていくか。
あっこ:ずっと憧れていたあふりと一緒にやれて、ましてや褒めてもらえたりもして。わたしはもともと自信がないから、そう言ってもらえたのはありがたかったし、一個一個、夢を叶えている感じではありましたね。
──このコロナ禍でも、そう思えたのは大きいですよね。
あっこ:ブレないというか、やりたいことをしっかりやらなと改めて思いました。あふりらんぽも今の状況をポジティブに捉えていて、そこも見習わなあかんなと思いました。