発見・カタルシスがあるように作っていきました。
――『CJP』とも共通している点でいうと、『GP』も勧善懲悪ではないところが印象的です。悪役にも逃げ道・更生の余地を残していますが、あえてそういう描き方としたのは何故ですか。
古沢:そもそも、この人は善・この人は悪という描き方が好きじゃないんです。みんないい部分も悪い部分もあるわけだから。
――そうですね。
古沢:ただ、詐欺師を描く話なので騙される側の人間を思いっ切り悪くしておかないと気持ちよく観れないので、どう悪くするかはいつも悩んでいました。悪くしすぎてしまって大量殺人鬼にしてしまうと騙してお金を取ったから解決というわけでもないし。
――そこまでいくと、お金があるからどうという事ではなくなってしまいますね。
古沢:なので、何が悪いかわからないけど、とにかくすごく悪そうというキャラクターにしました。本当に憎むべきなのかもわからないようにしているので、善とか悪とかそういう概念で本当は脚本を書いていないんです。
――実際はそれぞれの正義・理念もありますから、単純に善悪で分別するのは難しいですよね。両作品のセリフにも「しくじったら見捨てる」があります。とはいえ実際は作中で困ったら助けていてます。そういった、各キャラクターの理性と感情のバランスはどう意識されているのですか。
古沢:本当はみんな絆があって大好きなんですという事でもなく、ただ人間はその状況になったら自分でも説明付かない行動をとったりするし、そこには自分でもわからない感情とか行動原理みたいなものが心の中にあると思っているんです。特に仲間意識があるというわけでもないんです。説明のつかない行動をとってしまうのが人間の面白さだし、ドラマやアニメでも人間を描く時の面白さなんじゃないでしょうか。
――そうですね。そこも単純に割り切れない部分になりますね。ドラマ部分で言うとあえて『GP』の人間ドラマをあれだけ濃く描いたのは何故なんですか。同じアニメ作品で言うと『ルパン三世』は各キャラのバックボーンはあまり語られていませんし、『CJP』もその点は振り切っていて本当に主人公たちのバックボーンが描かれていません。先ほども少しお話いただきましたが詳しくお伺いさせてください。
古沢:『GP』はTVアニメのシリーズなので実際の本編は20分くらいになるんです。そうなるとドラマのように毎回仕掛けてという事が出来なくて、複数の話にわけて1つのコンゲームをやることになるので、各話の中で見せ場を作っていくには人間同士のドラマを濃くしていくしかないと思ったんです。なので毎話このキャラはこんな過去があったんだという発見・カタルシスがあるように作っていきました。『CJP』は1時間あるので敵のゲストキャラに委ねて主人公たちは享楽的にだますという事ができたんです。
――確かに『CJP』の方が騙すことを楽しんでしますね(笑)。
古沢:『ルパン三世』は原作だと初期のころは設定すら各話で違っていたりするんです。本当はあの感じをやりたかったんですけど、設定は決めましょうという事でドラマの部分が濃くなりました。
――キャラクターごとの性格・バックボーンを表現する際、回想などはありますが自らほかのキャラクターに語ることはないですよね。
古沢:アビー(アビゲイル・ジョーンズ)の過去など、他のみんなが知っているのか分からないですよね。
――そうなんです。私たちは観ていて知っていますけど、登場人物たちはお互いあまり知らない感じですよね。
古沢:実際、人間は解らないものだし、こういう人だろうと勝手に想像していても実際に会ってみると違っていますから。「他者を分かった気になるな」と思いながら書いていました。
――基本は周りのキャラクターが「こういう子だから」と想像を交える形で語るようにされていますよね。この作品ではローラン・ティエリーがその役を担っています。ローランはほかのキャラの過去を知っているんですか。
古沢:実際にローランがどれくらい分かっているかもわからないですよ。一応、ローランは人間観察が優れているので、色んな事を察している形ですけど、彼も「そんなに人の内側に踏み込むなよ」と語っていますから。その距離感は拘っていた部分になりますね。
人生や過去を乗り越えていく姿に共感してくれたら嬉しい
――こういう作品ですとラストにはアクションシーンを持ってくることも多いですけど、あえて頭脳性をメインにしたのは何故ですか。
古沢:やはりコンゲームなので、脚本家としてはそうしなければいけない、勝負しないといけないと力を入れた部分になります。ただ、そこはアニメだと正解なのかは今も不安に感じています。なので後からカーチェイスのシーンなども加えていて、自分なりになるべく入れるようにしたつもりなんです。
――私個人としてはこういう頭脳戦が続いていく作品を観たかったので、出会えて嬉しかったです。ただ、コンゲームはシリーズとして続けるとなると話が進むごとにネタバレが増えていくことになりますから、意外性を保つのが大変だと思うんです。その点はどのように担保されているのですか。
古沢:担保はないです(笑)。自分の力の範囲で頑張るしかないので精一杯やりましたという事でしかないです。本当は騙した騙されたじゃないところで感動的なクライマックスを作れるのが理想です。コンゲームにキャラクターの心情や説明の付かない情念が乗っかった瞬間を作りたいなと思っています。そっちの方が、自分としても好みです。
――どのCASEも人間ドラマも素晴らしくて、そこも含めて楽しく観させていただいています。これからCASE4が始まって、次はローランに焦点をあて、さらに大きなスケールで物語が展開されるとのことですが。
古沢:CASE4ではローランの過去もある程度、明らかになります。そのカギを握るのがドロシーという女性で、ある種で最後の本当のヒロインになります。パンチのあるキャラクターなので、ローランとドロシーの関係性も期待して欲しいです。そこにエダマメとの物語が大きなループで結ばれるようになっています。その中で東京と上海のマフィア・ヤクザの対決も繰り広げられていく、それがCASE4です。
――伺っていると『CJP』のロマンス編のようですが。
古沢:全然違います(笑)。でも、荒唐無稽さは近いかもしれないですね。細かいネタも鏑木監督が遊んでくれているので、細かく観ている人はより楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。そして大団円に向かっていきます。
――楽しみですね、改めていままでの話も見返したくなりました。
古沢:色んな謎も解き明かされるので、コンゲームの騙し騙される部分を楽しんでいただくこともさることながら、主人公たちの人生や過去を乗り越えていく姿に共感してくれたら嬉しいなと思います。難しい話じゃないのでそんなに深読みしたりせず、今まで通り気楽に楽しんでいただきたいです。
――わかりました。でも、この作品で深読みしないでくださいというのは無理だと思います。
古沢:そうですかね(笑)。本当にピュアな気持ちで楽しんでいただきたいです。
――はい。騙されることも含めて楽しみにしています。
古沢:是非。本当に純粋に楽しく観てください。
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