『コンフィデンスマンJP』で知られる古沢良太が初めて脚本に臨んだTVアニメシリーズ『GREAT PRETENDER(グレートプリテンダー)』。アニメに舞台を変えても鮮やかに繰り広げられるコンゲームの爽快感は健在。そして今作ではよりこだわって書かれたという人間ドラマも胸を打ちます。このドラマ・エンタメとして魅力満載の今作に込められた思いを語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
贅沢な時間の使い方をさせていただいたなと思います
――毎話楽しく観させていただいています。どのCASEも仕掛けが見事ですが『GREAT PRETENDER(以下、GP)』は、いつ頃から脚本制作に入られたのでしょうか。
古沢:書きはじめたのは2015年くらいなんです。
――5年前になるんですね。『GP』の方が『コンフィデンスマンJP(以下、CJP)』よりも早く入られたということですが。
古沢:そうですね。ほかの仕事も並行しながらの執筆だったので、最終的に『GP』の台本全てが終わったのは去年なんです。確認したところCASE1は2019年3月でCASE4は2019年11月でした。
――他作品との並行があったとはいえ、かなり時間をかけて練られた形なんですね。
古沢:量が多く一気にできなくて中断しながらだったので、そういう形になりました。アニメ制作は、ほぼほぼ台本が出来上がってから画を作り始めてもらえました。贅沢な時間の使い方をさせていただいたなと思います。
――物語の流れが分からないと整合性が取れない作品ですからね。ただ、『GP』を作りながら『CJP』も入られていたという事で、ともに詐欺師を題材にしている作品なので似ている部分も多くありますが、同じ題材をアニメ・実写と同じ時期に書かれることになったのは何故ですか。
古沢:『GP』を書いていくなかで、純粋にドラマでも出来るかなと思い始めたんです。『GP』の方はあくまで主人公たちの物語として作っていますが、『CJP』は1話完結でゲストたちのドラマとして作れば切り口も変わるので、主人公たちに人間ドラマを何も背負わせないという風にすると新しいドラマになるかなと思ってチャレンジしました。
――おっしゃる通り切り口が違うので、どちらも新鮮な形で楽しむことが出来ました。TVアニメに関しては今作が初めての脚本とのことですが、実写作品との違いはありましたか。アニメは画なので実写作品より制限がなくなると思います、逆に何でもできるからこそ作品にリアリティラインを保つのが大変なのかなと思いますが。
古沢:そうですね。どれくらいリアリティラインを気にしないといけないのかは判らないまま書いていました。おっしゃる通り何でもやろうと思えば何でもできますから、鏑木(ひろ)監督に相談しながら書いていきました。
――鏑木監督やほかのスタッフさんとはどういったお話をされたのですか。詐欺のネタ出しの協力もあったりしたのでしょうか。
古沢:基本的には僕が書いて、意見をもらって直しての繰り返しですね。CASE2のエアレースなどはアニメだと普通に出来ると思っていたんですけど、やっぱり大変だったみたいですね(笑)。
――そうなんですね(笑)。確かに今はCGもあるしイメージでは何でも出来ると思っちゃいますよね。逆にアニメってこういうことが出来るんだと驚いたことはありましたか。
古沢:なかったですね。むしろ、意外と同じでした。今は、実写とアニメの境界は無くなってきてるんだろうなと思いました。頭に思い描いていたイメージをしっかりとスタッフと共有できれば、再現できてしまうということだと思います。
人生を描くことに力を入れて書いた
――物語はどんでん返しを何度も起こしていくお話ですが、脚本を書かれる中での視点はどのように保って書かれているのですか。だます側・だまされる側ともに意識しないといけないなので大変なのではと思いますが。
古沢:その都度で都合のいい方ですね。特定のキャラクターを意識したという事はないです。
――視点繋がりで言うと視聴者に近い視点のキャラクターが『GP』も『CJP』もチームの中に居ます。『GP』では エダマメ、『CJP』ではボクちゃんになります。作品の雰囲気として近いものでは『ルパン三世』があり、作品イメージの1つとして取り入れられていると伺っています。『ルパン三世』は視聴者に近い目線は銭形警部で外なんです。そこをあえてチームの中に入れたのは何故なんですか
古沢:泥棒と詐欺師はちょっと違うと思うんです。泥棒は怪盗と言えるんですけど、詐欺師には“怪”はつかないんですよね。
――確かに。
古沢:詐欺師は人を騙すので、どうしても人の心をもてあそぶ要素が入ってくるんです。それを気持ちよくお客さんに見せるためにはどうすればいいのかということを考えたんです。『GP』の脚本を書き始めた時にもオレオレ詐欺など詐欺は深刻な社会問題としてあったので、暗い犯罪物にしたくなくてアニメもドラマも圧倒的に明るいものにしたかったんです。そこをどうしたらいいかという事で、チームの中に視聴者目線のキャラを入れました。
――そうなんですね。仲間意識というと変ですが、自分たちに近いキャラクターがいたので感情移入もできて、物語の雰囲気もあって明るく楽しめました。本作の脚本を書くにあたって題材にされたモデルにされた作品はあったのですか。映画ですと『スティング』や『キャッチミーイフユーキャン』など詐欺を扱った名作も多いですが。
古沢:映画ではいま挙がったもののほかに『騙されてリビエラ』も好きですが、モデルにしたというわけではないですね。コンゲームとして鮮やかな仕掛けで視聴者も騙すみたいな、それがどこまで鮮やかに出来るかというのは、僕もそんなに得意でもないし自信があったわけでもないので、それよりも主人公たちの人生や騙された側の人生を描くことに力を入れて書いたつもりなので、そちらの要素に共鳴してくれると嬉しいなとは思っています。騙された騙されなかった、見抜けた見抜けなかったというのを楽しんでもらえるのも理想ではありますが、脚本を書く上でそこに力入れすぎるのも違うなと思っています。モデルという事ですとCASE1だと『ゴッドファーザー』や『フレンチコネクション』『アンタッチャブル』などのああいう雰囲気を意識しました。
――執筆を開始されたころも詐欺が社会問題だったとのことですが、実際の事件でモデルにされたものはあるのですか。
古沢:スポーツの八百長は昔からありますからいくつか取材して勉強して書きましたが、具体的なモデルはないですね。CASE3に関してはメーヘレン事件が好きなので贋作を取り扱いました。あとはフィリップ・モールドさんという美術評論家がイギリスに居て、イメージ的には取り入れさせていただきました。この人は立派なかたで罪を犯してはいないですよ。紛失した絵画をたくさん発見している人で「美術界のシャーロックホームズ」と言われている方なんです。フィリップ・モールドさんはカッコいい人で好きなので、それとは逆の悪い人物としてジェームズ・コールマンを作りました。