ラフさと構築された良さを両立させたい
──「FANG」はカッティングするギターと動きまわるベースラインが心地好い、洗練されたアーバンソウルといった趣ですね。
K:自分なりにソウル・ファンクを意識したと言うか。いい感じのコードリフができたからこの方向で行きたいと思ってね。
──傍観者ぶっていると野性の牙(FANG)を抜かれるぜという、これもある種の警鐘を唄った曲に感じましたが。
K:そんなところかな。“FANG”というフレーズが単純にいいなと思って。
──ミッドテンポで滔々と唄われる「いにしえランプ」もまたメロディアスでロマンティックな名曲で、アルバム終盤のハイライトですね。
K:「自由と闇」がバラッドだとしたら、もう一曲、別のタイプのメロウな曲を入れたくてね。アナログで言えばB面の終わりのほうに。A面とB面に一曲ずつメロウな曲が入ってるのが好きなのもあって。
──よくアイルランドの音楽で多用されているブズーキの音色が絶妙なスパイスとなって、曲の叙情感をさり気なく盛り立てていますね。
K:ブズーキをマンドリン代わりに使うのが好きでね。マンドリンの1オクターブ低いチューニングにしてるんだけど、アイリッシュ・ブズーキの本来のチューニングとはちょっと変えてる。それだと上手く弾けないから、独自のチューニングで。
──歌のテーマとしては、運命の針路を導いてくれる象徴として古いランプを登場させた感じですか。
K:ロマンティックな解釈だね(笑)。ちょっとレトロ感を出すツールとして使ったところはあるかな。「いにしえランプ」は実は自分の中では、臭みも含めてあえて80'sに寄せたところがあるんだよ。80'sの、バラードでもないんだけどちょっとメロウな曲ってあったじゃない? ポリスとかホール&オーツとかポール・ヤングとか。ああいう人たちがやるメロウな曲のコード進行とかのイメージを隠し味的に意識してみた。誰にも気づかれない隠し味かもしれないけど(笑)。
──いろんなタイプの曲を織り交ぜながらも、最後は「SUNRISER」のようにシンプルでブルージーなロックンロールで締めるのがGROOVERSらしいですね。
K:重ためだったり壮大だったりするバラード的な曲で締めるのもアリなんだけど、最近は小気味良いロックンロールで締めたくてね。軽快で重苦しくない曲で終わらせたくなることが多い。
──いちギタリストとして音色や録り方にこだわった部分は今回ありましたか。
K:どうだろうな。前作ほどああでもない、こうでもないとアンプのツマミをいじってないと思う。わりとラフだったかもしれない。基本的にはジャズマスターとグレッチの2本を使って、テレキャスターが時々出てくる感じ。あとは何か別の音がないかな? って時に4本目が出てくるみたいな。今回は曲が呼んでる音色を真剣に探すって感じじゃなく、もうちょっとラフだった。
──良い意味で年々ラフになってきている感じですか。
K:適当にやってるわけじゃないんだけど、たとえば「LOST STORY」みたいにストーンズっぽい曲は気分的に絶対テレキャスターとかさ。コード・リフで押しまくる「気晴らしが必要」みたいな曲ならフェンダーのシングルコイル系で太めの設定だよな、とか。最近はそういう気分とか感覚を優先させてるね。
──すでに四半世紀を超えるバンドだし、プリプロで細かいニュアンスを伝えることを特にしなくても一彦さんの思い描く設計図通りにレコーディングできる感じなんですよね?
K:そうだね。だから本格的なプリプロはほとんどやらない。レコーディングの前に1回か2回は確認のリハをやるけど、それはプリプロとは呼べないかも。設計図を書きすぎないほうが良かったりするから。ただ全然しないのもなんだからね。こう見えてレコーディングはちゃんと構築していくのが好きだから。どんな音にしよう、どういうダビングが粋か、どういうアンビ感で行くのがゴキゲンかとかにはこだわるけど、演奏自体はラフって言うか。ラフさと構築された良さが両立してるようなものを目指してる。それは毎回そうだね。
時代の流れに左右されない音楽
──前々作の『ROUTE 09』以降、緻密さとラフさの塩梅はかなり理想的なところまで来ていると思いますが。
K:そう思う。潤沢な予算を使って日数をかけてつくるやり方ではないけど、それができないなりのやり方を覚えたところがあるのかもしれない。それはやっぱり重ねてきた歳月もあるし、3人でずっと長くやってきて勝手知ったる部分が大きいんじゃないかな。だからと言ってあまりテキトーなのもイヤだし、レコーディングにはレコーディングのマジックがあるし、スタジオ・ライブみたいな感じでレコーディングするのは好みとしてはあまり好きじゃない。録音ならではの、凝ったことをやる楽しさも味わいたいからね。俺はビートルズなら後期のほうが好きだったし、レコーディングは記録と言うよりも録音芸術だと思ってるから。
──なるほど。ちなみにストーンズだとどの辺りの作品が好きですか。
K:好きなのは『メイン・ストリートのならず者』から『スティル・ライフ』あたりの時期かな。もちろん現在も含む、全体的に好きなのは前提だけど。『レット・イット・ブリード』とか過渡期の感じも大好きだし、当然初期にもたくさん好きな曲はある。ストーンズは作り込む感じじゃないラフなイメージも強いけど、逆に1日中テープを回しっぱなしとか、時期によっては1年かけてるとか、ああいうのは単純に憧れもあるよね。
──でも実際のところどうなんでしょう。潤沢な予算を使ってアルバムをつくってみたいですか。
K:もし予算的に余裕のある状況だとしても、今の時代にそぐわない気もするね。時代のスピード感を全く無視して浮世離れした感じでやるならアリかもしれないけど、ちょっと違うのかなと思う。
──予算をかければ『RAMBLE』のように優れた作品ができるかと言えば、そういうことではないと思うんですよ。
K:ああ、なるほどね。もしそういう状況が許されるのであれば、『RAMBLE』とはまた別のスタイルの作品をつくるかもしれないね。
──アルバム・タイトルの『RAMBLE』は「自由と闇」に出てくる“うつろう”とか、時代を“さまよう”といったニュアンスで命名したんですか。
K:ストーンズで言えば「ミッドナイト・ランブラー」の“RAMBLE”だね。さまよったり漂っていく感じ。ホントは2ワードか3ワードで若干凝った感じと言うか、しかも歌詞に出てこない言葉を使ったタイトルにしたかったんだけど、いいのが思いつかなかった(笑)。
──憧れのメンフィス・ソウルの重鎮とネットを通じたデータのやり取りができるのなら、今後いろんなことを試してみたくなりますよね。
K:これに味を占めて、じゃあ次作もまた…とかね(笑)。GROOVERSは時代の流れに左右されない音楽をやってるし、そこは大きな強みでもあるし、やれることはまだたくさんあると思う。今やヒットチャートの1位から10位までの曲にひょっとしたらギター・ソロなんて1曲もないかもしれないけど、それが今の時代のメインなら俺たちもそうするかってことには絶対ならないしね。
──ギター・ソロはおろか、ギターの音が全然鳴ってない曲も増えてきたように感じますね。
K:そういう状況が面白くないとは思わないけど、俺たちがやってる音楽はもはや絶滅危惧種だよね(笑)。だからと言って心細くなるとか、いまだにこんな音を出してていいのか? とかは全く思わない。そこがダメなのかもしれないけど(笑)。
──結成当初からブルースやソウルに根差した大人っぽい音楽をやっていたから、近年やっと地に足がついてきたと言うか、身の丈に合ってきたところもあるでしょうね。
K:徐々にフィットしてきたのかもね。ライブでは特に昔の曲も今の曲も同じように楽しめると言ってくれる人が多くて、嬉しいね。ずっと変わってないし、変わったことはやれないし、そういうバンドなんじゃないかな。まあまあイケてると自分では思ってるよ(笑)。