よくぞここまでカラフルでキラキラした3分間の魔法のようなポップ・ソングばかりを集めたものだ。前身バンド時代を含めて結成9年目にして初のリリースとなるmyeahnsのフル・アルバム、その名も『Masterpiece』。大胆にも自ら〈傑作〉と断言する肝っ玉の太さ、まだ何者でもないがゆえの根拠なき自信と無鉄砲さが眩いが、自身をライブ・バンドであると言い切っている通り、彼らが真価を発揮するのはライブという一期一会の空間だ。去りゆく夏を愛おしむ気持ちにも似た感傷をひた隠すように疾走するダンサブルなリズムとビート、喜怒哀楽を全身で唄う実直なボーカル。それらが渾然一体となった時の得も言われぬ昂揚感。そんなライブならではの醍醐味を日々体現しているバンドを代表して、逸見亮太(vo)と齊藤雄介(gt)にこれまでの紆余曲折と1曲入魂スタイルのこだわりについて聞く。(interview:椎名宗之)
逸見と齊藤の運命的な出会い
──初のフル・アルバムは全12曲中9曲が既発曲で占められていますが、これは意図しての選曲と構成なんですよね?
逸見:既発と言っても流通に乗せた曲はそんなにないし、最近ライブでやってる曲ばかりを集めた感じですね。それにこれまでメンバーの入れ替わりがあったので、今の5人で改めて録り直したい気持ちもありました。前身バンド(テクマクマヤーンズ)から数えると8年バンドをやってますけど、今がベスト・メンバーだと思うし、今の編成も自分としては一番しっくり来ているので。ピン・ボーカルで、ギターとリズム隊がいて、そこにキーボードが入った編成をずっとやりたかったんです。
──3人編成だった頃の「サマーエンズ」と「デッカバンド」を聴くと、今の5人編成のサウンドとはだいぶ違う印象を受けますね。音数や音の厚みが増しているから当たり前ですけど、ポップの含有率も増えたように思えるし。
逸見:元の「サマーエンズ」は鍵盤が入ってなかったし、今回のバージョンのほうが気に入っています。一番古い「恋はゴキゲン」も今回のほうがずっといい。
──結成当初からポップでカラフルな曲を作ることを心がけていたんですか。ポップに非ずんば人に非ずみたいな(笑)。
逸見:こういう曲を書こうみたいなことは特にないんですけど、覚えやすい曲が好きなんですよね、自分が。曲を作っても忘れちゃうので、起きた次の日でも覚えてるみたいな曲を作るようにしてます。
齊藤:亮太君の書く曲はとにかくポップだし、俺は大好きなんですよ。
逸見:俺と雄介は好きな音楽も似てるし、一番よく話すし、波長が合うんです。曲ができると最初に雄介に送って聴いてもらうし。「サイコー!」以外の反応は返ってきたことがないですね(笑)。「これは微妙じゃない?」っていう反応は返ってきたことがない。
齊藤:もしそういう反応をしたら途中で作らなくなるんですよ。明らかに俺がイヤそうな感じを察して。
──齊藤さんは曲の良し悪しをジャッジするリトマス試験紙みたいな感じなんですね。
齊藤:俺はもともと亮太君のファンなんですよね。亮太君が前にやってたバンドのお客さんだったんです。
──齊藤さんが忌野清志郎さんのTシャツにライダース姿でライブを棒立ちで観ていたんでしたっけ?
逸見:そうです。テクマクマヤーンズの前のバンドをやってた時、自分のインフルエンザの振替公演が西川口Heartsであったんです。そこにたまたま雄介が来てて、彼が着てた清志郎さんのTシャツの色違いを俺が持ってたので目について、最前列でめちゃくちゃ不貞腐れて観てるなと思って(笑)。
齊藤:たまたま友達のバンドが出てたんですよね。その友達がリハ終わりに「すごい(甲本)ヒロトに似た人が対バンにいる!」と電話をくれて、急遽観に行くことにしたんです。で、亮太君のライブを観たらめちゃくちゃ格好良かった。今よりもロックンロール色が強い感じで。
逸見:その頃より今のほうがポップかもしれないね。それから雄介がちょくちょくライブに来るようになって、一緒に呑むようにもなって、テクマクマヤーンズを結成する時に一緒にバンドをやらないかと声をかけたんです。「ギター弾けるって言ってたよね?」って。
齊藤:ただ持ってただけで、全然弾けなかったんですけど(笑)。
──だけど齊藤さんは一度バンドを脱退しているんですよね。
齊藤:まぁ、いろいろとありまして(笑)。
逸見:俺と雄介が5人の中で一番わがままで、そのわがままにお互いがついていけなくなったと言うか。当時はどっちも「やってられっか!」くらいの感じだったと思います。
齊藤:俺はそんな感じじゃなかったですよ(笑)。自分としては、亮太君は俺じゃない奴とバンドをやりたがってるのかなと思って。俺が弾きたい感じのギターと亮太君が求めていたものがちょっとズレてたんです。当時の俺は毛皮のマリーズとかザ50回転ズがめちゃくちゃ好きで、そんな感じのギターをやりたかったし、アンプも直が良かったんだけど、亮太君はあまり歪んでないギターが良かったんじゃないですかね。今でも音色は歪ませちゃってますけど。
その1曲をどう仕上げるかの積み重ね
──バンドに復帰したのはなぜですか。
齊藤:3人になったmyeahnsがマジで良くなかったから(笑)。まず亮太君がギターを持って唄ってるのがサイアクだったし、絶対にピン・ボーカルのほうがいいのになと思ってました。
逸見:最初はピン・ボーカルだったんですけどね。俺自身、ミック・ジャガーみたいに基本はピン・ボーカルで1曲くらいギターを持って唄うスタイルが好きだったんで。
齊藤:亮太君がギターを持って唄うようになって、なんかその辺にいるようなバンドみたいになっちゃったなと思って。そんなことを亮太君がやんなくても良くない? って。
──とは言え、3ピース時代はファースト・シングルやファースト・ミニ・アルバムを出したり、活動は活発でしたよね。
齊藤:だけどテクマクの時にあった曲ばかりだったもんね。俺がいた時は音源を出さなかったんですよ。
逸見:今のピン・ボーカルのほうが全然いいけど、3人の時もそれなりに楽しかったですよ。いろんな経験もできたと思うし。
──「One Hit Wonder」に「君がいないからギターを弾く/これで満足だなんて思うなよ」という歌詞がありますが、これは齊藤さんに向けたものなんでしょうか?
逸見:誰かにってわけじゃなかった気がするんですけど…言われてみれば確かに雄介のことを唄っているようにも聴こえますね。
齊藤:俺に向けて唄ってるのは「ざ・むーんいずまいん」なんですよ。俺がバンドを抜けてできた曲だから。
逸見:そう、「ざ・むーんいずまいん」は雄介がいない時に3人でやってた新曲だったんです。
──ああ、冒頭に「理解できるのはきみしかいない」という歌詞がありますものね。「ざ・むーんいずまいん」は本作で唯一のバラッドで、喪失感をテーマにしたロマンチックな歌詞が素晴らしい。
齊藤:すごくいいですよね。ドラムの茂木(左)から聞いたんですよ。バンドを抜けても茂木とはずっと仲が良くて、「ざ・むーんいずまいん」をライブでやってる時に「これはもしかして雄介のことを唄ってるんじゃないか?」と思ったらしくて。そしたら茂木はめちゃくちゃエモいドラムになっちゃったみたいですけど(笑)。
──「恋はゴキゲン」も脱退したメンバーに向けて書いた曲だとか。
逸見:あれは前にいたベースに向けて書きました。そいつとは地元が一緒で、彼女と一緒に上京して同棲してたんだけど、何年かしたら別れてしまって。一緒にバンドをやってた仲間を元気づけたかったって言うか、「また違った恋が待ってる!」みたいな感じで背中を押してやりたかったんです。
──ファースト・シングルとしても発表された「恋はゴキゲン」と「サマーエンズ」がやはりmyeahnsのプロトタイプに思えますね。ポップでカラフルなmyeahnsナンバーの原点と言うか。
齊藤:どっちもすごくいい曲だし、ライブでも定番なんです。
──バラッドの「ざ・むーんいずまいん」とミッド・テンポの「サマーエンズ」以外はどれもノリの良い踊れる感じの曲ばかりですが、それは意識してのことですか。
逸見:アルバムのコンセプト的なものは特にないんですよね。その1曲をどう仕上げるかっていうのの積み重ねだったんで。
──どの曲もシングル・カット可能のクオリティだと思うし、myeahnsはアルバム単位と言うよりも楽曲単位のバンドなんでしょうね。1枚入魂と言うよりも1曲入魂のバンド。
齊藤:どの曲をシングルにしても大丈夫みたいなのは狙いだったよね?
逸見:そうだね。ライブでやらないと曲はどんどん忘れちゃうんですよ。先行シングルを除いてやり続けてちゃんと残った曲がこのアルバムに入ってるってことなんだと思います。
齊藤:亮太君は曲を書くペースがめっちゃ早いんですよ。1回しかやったことがない曲もけっこうあって、俺が気に入った曲を亮太君にやらないの? って訊くと、「そう言えばそんな曲あったね」みたいな感じで。
逸見:その頃にはもうコード進行とかを忘れてる(笑)。曲が書けるのは時期にもよりますけどね。
齊藤:「ローズマリー」を作った頃とかすごかったんですよ。あの時期にめちゃくちゃできてなかった?
逸見:「ローズマリー」とか「文明サイクル」とかの頃ね。サイテーな気分の時にできやすいかもしれないです(笑)。
──「忘れかけてたメロディは/便所にいるときに限ってやたらと活発なのだ」なんて歌詞がありましたけど(「One Hit Wonder」)。
逸見:たとえば呑みの席でトイレに行くと、「次にあいつと何を話そうかな?」とかワクワクしてきたりしませんか? 「そう言えばまだあの話をしてなかったな」とか。それが言葉ではなくメロディだったりもして。