どうやってその場所にいる人といい時間にするか
塚本:あとはやっぱり、奇妙くんは絶対的に声が強い。シンガー・ソングライター以前に、歌手だよね。
──奇妙さん自身が作る歌も素晴らしいけど、他の人が作った歌を歌うっていうことの楽しみや、その伝え方をしっかり持ってる人じゃないですか。奇妙さんに近しいソングライターが作った曲を歌うことでも、また違った面白さを提示できる。
塚本:あの人なんだっけ、「エロい関係」とか作ってる……。
奇妙:田渕徹くんですね。彼に詞や曲を書いてもらってるのが最近は多いんです。
塚本:あの曲は奇妙さんをイメージして作ってるってところもあるわけでしょ?すごくいいチームだよね。
奇妙:ある意味、他人だから客観視できますもんね。この人にこういう歌を歌わせたら似合うだろうな、みたいな。田淵くんのことは頼りにしてます。
──そういう歌い手とソングライターの関係っていいですよね。矢沢永吉と西岡恭蔵みたいな。
奇妙:あ、でもね、僕が事務所に入った時やメジャー・レーベルからリリースするって時も、すごいワクワクしてたんです。曲を書いても、全然知らない偉い人から「アカン! 一から書き直し!」とかダメ出しされるのを楽しみにしてた。でも、関わってくれるスタッフが、みんなめっちゃ優しいんですよ。全部好きにしていいからって……あれ!? メジャーってなんか、聞いてた話しと違うな。「サビはこっちで書くから」とか言われるって聞いたことあるのに。むしろ、サビそっちで書いて欲しかったくらいの気持ちなんだけど(笑)。なんか、自分が曲を作るってことに関しては、別にこだわりがないんです。すごい売れそうな曲を書いてもらって、歌ったりしたいんですけどね。
──塚本さんも奇妙さんも、名曲のカバーをよく演奏されますよね。二人ともカバーで取り上げるにあたって、楽曲の解釈が自由で面白いなと思って、いつも楽しませてもらってるんです。他人の曲を歌ったり演奏したりする時、どこか心がけてることなどはありますか。
塚本:好み的には、すごく俺独自の解釈みたいな感じでやるのはあまり好きじゃない。ギター1本でやってるから、「うわぁ、こんなことになっちゃったんですね」とか言われたりするけど、意外と元曲にある音を全部使ってることは多いんだよね。
──だけど、デューク・エリントンの「Caravan」が、凶暴なロックンロールに変化していたりもしますが(笑)。
塚本:それは、他の曲のアイデアがくっついたり、なんとかって曲を誰それがやってる、みたいなイメージで演奏することで、変化が起こるんだよね。
──たしかに、十数年前に塚本さんインタビューした時に、「すごく綺麗なメロディーの曲を、ジョン・リー・フッカーが演奏してるような」って、自分の中でイメージをかけあわせているとおっしゃってましたね。
塚本:もちろん、原曲そのままの形でコピーするってものもあるけど、「実はメキシコのパンクバンド出身で~」とか、漠然としたイメージをもう一個置いて演奏するっていうのは多いですね。
──奇妙さんはどうですかね?
奇妙:基本的には何も考えてないですけど、誰かっぽくやろうとかは思わないですよね。
──奇妙さんが以前からカバーしている「Sweet Memories」なんかは、結構原曲のメロディーとは違った節回しになったりする部分もありますよね
塚本:「赤いスイートピー」なんかも衝撃だったもんね。“春色の汽車に乗って~海に~”ってところを、最後の“赤い~”って音程で歌ってたりね。
奇妙:あ、でも、今はね、歌う時は元のメロディーですね。前はちゃんと覚えてなかった。
──そういうことでしたか(笑)。塚本さんのカヴァーでいうと、岡村靖幸「カルアミルク」も、最初はうろ覚えでやってましたよね。
塚本:原曲をあえて聴かずにやるとかね(笑)。
奇妙:人前でパフォーマンスする時に、昔はどこか自分のことを認めて欲しいっていう気持ちが大きかった。だから人と違うようにやってみたり、過剰にやってみたり、そういう自分流のアレンジを加えてたと思うんですけど。最近はそういうのがすごい減りましたね。今は、どうやってその場所にいる人といい時間にするか?みたいなことに興味があるし、それが自分がライブで表現したいことになりましたね。
──そうなるとステージングや歌への捉え方が変わって来ますよね。
奇妙:そうですね。そんな気がします。
──塚本さんも、昔はデカイ音でガーッと鳴らすの好きだったけど、今はまた違った指向になっているという話を、以前に聞きました。
塚本:うん。場にそぐうような、お客さんにもじっと聴いてもらって、音の中に入り込ませるみたいなやりとりを成立させるためには、小さい音も非常に効果的だなというのは思うようになったのかな。
バンドじゃないと出ない自分の部分が確実にある
──一人きりでの演奏とは別に、塚本さんもネタンダーズというバンドがあって、奇妙さんもバンドでのライブを展開しているじゃないですか。バンドでやることの面白味みたいなものはありますか?
塚本:僕は、人が出すものってのにものすごい影響をされるっていうか。バンドなんかは特にそうで。ネタンダーズって、外から見ると、僕がまわりに指示を出してやってるって思われるかもしんないけど、実は昔に僕がバンマスみたいなことはやめていて。ライブの曲順なんかも、メンバーに任せてる。
──自分だけでは気づかない部分が引き出されたり、バンドならではのマジックがありますからね。
奇妙:なんか、バンドじゃないと出ない自分の部分が確実にあるんですよ。一人だとせいぜい5kmぐらいの速さしか出ないのが、車に乗ったら100km出せるみたいな。それぞれの良さがあるけど、100kmの景色を見ようとするなら、やっぱり車は絶対に必要ですよね。
──そういう意味では、阿佐ヶ谷LOFT Aの「ふたりのビッグショー」での塚本さんと奇妙さんのデュオでは、どういう部分が出せてるんでしょうね?
奇妙:ランデブーみたいな感じですよね。ふたりだとそれだけでリズムが生まれるっていうか、一人で弾き語りするのとは全然違いますね。
塚本:なんだろうね。チャリンコで阿佐ヶ谷の商店街を流している感じかな(笑)。