四者四様の個性溢れるパーソナル・ライブ
──1984年4月から1987年8月までの間にロフトに計34回出演しているということは、ほぼ月一ペースだったわけですね。
JILL:すごいペースでライブをやっていたんだなと思うし、この時期のことは今4人で話していてもはっきりと思い出せることが多いんです。打ち上げの状態も含めて記憶にインプットされているので(笑)。
渡邉:BOØWYやハートビーツも当時はロフトに月一ペースで出てたし、僕らもロフトでは毎月必ずライブをやるものだと思ってましたからね。
JILL:私がまだ高校生の頃、昼の部に出させてもらった頃のロフトは客席の真ん中に潜水艦のオブジェがあって、当時はもっと大人の世界だったんですよ。照明も薄暗くて、タバコの煙とお酒の匂いが充満してるような感じで。PERSONZが出るようになった頃は来るお客さんも若くなって、たとえばBOØWYのライブにお客さんが詰めかけて満員になってるのを見て可能性を感じましたね。こういうポップなロックが一般の人に受け入れられる時代が来るんだなと思いました。BOØWYとはなぜかロフトではなくライブインで対バンしたんですけど。
──今回の『PERSONAL MODE ACT LOFT20190621』では、この日限りのメンバー各自のパーソナルなパフォーマンスが披露されるそうですね。
渡邉:“PERSONZ祭り”の真夜中の部でも各自が好きな人たちと一緒にライブをやる企画をやったんです。僕はREACTIONの人たちと一緒にやったり、JILLさんは友森(昭一)とかと一緒にアン・ルイスを唄ったり。
JILL:本田君の弟(本田聡)と一緒にね。
渡邉:本田さんはDe-LAX絡みだったような気がします。そういう普段のライブではできないことをしたり、使わなくなったエフェクターや衣装を売ったりするフリーマーケットみたいなこともやったんです。
JILL:私はムスタングのベースを売りましたね。
渡邉:ゲストも豪華だったんです。石橋(凌)さん、シーナさん、PANTAさんといった錚々たる面子が駆けつけてくださって。
JILL:今回は久々にそれぞれパーソナルなライブをACTするんですが、そういう4人バラバラで違うことをやるのに本田君と藤田君は難色を示すことが多いのに(笑)、今回は割とすぐに話が決まったんです。藤田君なんていち早く自分のセクションを決めちゃって。
──藤田さんは元ハートビーツのSHYさん、TOMBIのベーシストであるHIDERUさんとのセッションなんですよね。PERSONZとハートビーツという組み合わせはロフト時代を知る人には納得のラインナップと言えそうですが。
JILL:だけど、その組み合わせには驚いたんですよ。
渡邉:勉がSHYと繋がってるなんて知りませんでしたから。
──それは意外ですね。「当時のロフトでは大御所・重鎮の方々からはケチョンケチョンの僕でしたが、ハートビーツの皆さんだけは本当に優しくて、唯一の癒しの場でした(笑)」と藤田さんはコメントされていますけど。
JILL:若干盛ってますね。藤田君がケチョンケチョンに言われていたのは事実ですけど(笑)。
渡邉:ハートビーツとはもちろん付き合いがありましたけど、勉に優しくしていたのはSHYじゃないと思うんですよ。TAKASHIさんやAKIOさん、JOHNNYはいつも僕らを観に来てくれて優しかったけど、SHYはそういう場にあまりいなかった記憶があるんです。
JILL:藤田君が言うには、SHYの弾き語りライブを久々に観に行ったらすごく良かったと。それで思いついたみたいですよ。
──本田さんはザ・ルーディーズの秋村恵丈さんとのアコースティック・デュオを披露するそうですが、調べたところ1997年4月にも本田さんと秋村さんの2人でロフトにご出演されていましたね。
渡邉:アキボーはもともとロフトの店長だったんですよね。
JILL:私が本田君と知り合った頃は、アキボーと一緒にルーディーズをやっていたんじゃないかな。ちょっとモッズみたいな感じのバンドでしたね。確かアナーキーのメンバーから「あのギターは上手いよ」と言われて観に行ったのがルーディーズだったんじゃないかと思います。アキボーも一時期、アナーキーのローディーをやっていたはずだから。
──秋村さんがロフトの店長だったのは、PERSONZとしてライブをやり出した頃ですか?
渡邉:その前ですね。シゲ(のちにロフトの社長となる小林茂明)がアルバイトとして入った頃の店長だったと思います。
JILL:よく覚えてないなぁ。ずっと年上の人で、「ロフトに出たいなら動員を増やせよ」と高飛車なことを言う店長がいたのは覚えてますけど(笑)。
──ルーディーズはロフトで行なわれたBOØWYの『INSTANT LOVE』の発売記念ライブにサポート出演しているんですよね。
渡邉:そのライブは観に行ってますよ。メンバー4人が座りながらトークショーみたいなことをやっていて。松井(常松)さんは何にも喋らなかったけど(笑)。
──秋村さんとのデュオは、本田さんの原点を窺い知れる貴重なACTと言えそうですね。
JILL:そうですね。本田君は最初、アキボーと一緒にずっとバンドをやっていこうと考えてたんじゃないかな。それを私がいきなり引っこ抜いた形になっちゃいましたけど(笑)。
予定外のことが起きるライブハウスこそが原点
──今回、JILLさんのパーソナルACTが一番カオティックと言いますか(笑)、ex.THE MAD CAPSULE MARKET'Sの石垣愛さん、三味線演奏家の伊吹清寿さん、芸者の七重さんとのユニットということなんですが、これは…。
JILL:ロフト初の三味線ユニットですね(笑)。2年くらい前にソロでお座敷ライブをやった時、三味線の家元である伊吹さんと私の古い友達でもある七重さんに出てもらったんです。渡邉君にも参加してもらって、端唄や民謡、和テイストに編曲したPERSONZの曲を唄ったりして。伊吹さんはとても器用な方で、古典にこだわらずにギターのフレーズを弾いてくださるんです。そのライブがすごく良くて、今回は石垣君のアコギも入れてまたやってみたいと思ったんですね。
──石垣さんとの繋がりもすごく意外でした。
JILL:彼は昔からPERSONZのファンだったんですよ。ライブの隠し録りをするくらいのね(笑)。
渡邉:横浜の7thアベニューでやったライブを隠し録りしたテープがあると言ってましたね。石垣とは布袋(寅泰)さんのサポートで一緒になった時に知り合ったんです。
──川村カオリさんの「バタフライ〜あの晴れた空の向こうへ〜」も披露されるそうですね。
JILL:石垣君が川村さんのサポートをしていたのもあって。「バタフライ」は川村さんが亡くなられる前に作られたアルバムの中の1曲で、ほとんどライブで披露されることがないままの曲だけど私はすごく好きなんです。今年の1月にあるイベントで唄ったんですけど、観に来てくれた川村さんのファンの方が「すごく嬉しかったです」と仰ってくれたんです。逆の立場だったら自分の曲を誰かが唄い継いでくれるのは嬉しいし、川村さんの命日が近いこともあって、ロフトでも唄ってみたいと思って。三味線との駆け引きがまだどうなるかわからないし、PAも不安かもしれませんけど(笑)、楽しみにしていただきたいですね。
──渡邉さんは岸利至さんとのインスト・ユニットを披露されるということで。
渡邉:岸君は布袋さんのライブでずっとマニュピレーターをやっている人で、僕が布袋さんのツアーをお手伝いをした時に知り合いました。打ち込みとシンセサイザーと生ベースで書き下ろしのインストをお届けする予定なんですが、ありそうでなかった組み合わせなので面白いと思いますよ。ゴールデンウィークはこの曲作りで家に籠っていたし、今までPERSONZ以外で自発的にここまで頑張ったのは他にないと思いますね。
──こうして見ると、四者四様の個性が色濃く出ていて面白いですね。
JILL:バンドと同じことをやっても面白くないし、私の場合はお座敷ライブを観たコアな人もそれほど多くはないので、ロフトみたいな場所でお披露目するのもいいんじゃないかと思って。4人の中では特効中の特効ですけど(笑)。
渡邉:JILLさんのセクションは石垣が一番大変じゃないかと思いますけどね。実はとんでもない大荷物を背負わされたことに彼はまだ気づいてないんじゃないかな(笑)。
JILL:各自のパーソナルなライブの後にはもちろんPERSONZとしてライブをやるので、そちらもぜひ期待してほしいんです。今やってるツアーのメニューも普通にはやりたくないというのがあって、新曲を持ってくるとかではなく、定番の曲でも観た人が驚くような面白いアレンジを施してるんです。ロフトでライブをやってた時代は血潮が滾るような、溢れんばかりのパッションが自分たちにはあって、お客さんにはそれがワイルドに映ったと思うんです。その後にホールでライブをやるようになってからはある種の型ができてしまいましたけど、予定外のことが起きるライブハウスこそがPERSONZの原点なんです。技量はさっぱり追いついてないけど表現せずにはいられなかったあの時代の感覚を忘れたくないんですよ。
渡邉:当時は自分たちのやりたいことをなかなか具現化できないもどかしさを打ち上げで解消していたところはありますよね。そこで反省をして、諸先輩方からのお小言をいただいて(笑)。
JILL:藤田君が入った最初のライブ音源を聴き返すと、一番未熟なのは私なんですよ。3人の演奏は最初の頃から意外としっかりしてたけど、私の歌が全然表現しきれてなかった。そのフラストレーションでお客さんを威嚇していたのかもしれないけど(笑)。
渡邉:演奏は基本的にそれほど大きく変わってないと思うんですよ。本田さんのギターは最初からスタイルがほぼ出来上がってましたから。勉は今よりもっとパーカッションっぽいドラムだったけど、シンバルの入れ方とかは今と通じるものがあると言うか、普通にやらない。
JILL:3人とも普通にやらない。私は普通にできない(笑)。