ReguReguの短編は想いと純度優先の完全手づくり
──かつてバンド活動をしていた小磯さんにとって個展は〈ライブ〉のようなものだと思いますが、個展に足を運ぶお客さんからパワーをもらえたり、次作のヒントになることはありますか。
小磯:年の瀬の個展が恒例なので、わざわざ真冬のギャラリー犬養まで来てくれるお客さんに満足してもらえるように、できる限りのことをやろうといつも思っています。芸術は隠された部分が胆なので、わかりやすい演出で包んで、あとから思い返した時に、じんわりしていただけたらと。僕らは僕らの作品が面白くてたまらないので、完成したところで、ある意味完結してしまっているのですが、自分の世界を持っている感じの人が熱心に受け止めてくれている場にいると、やっぱり多幸感に包まれます。この多幸感は意外に長く効くようで、その時のことを思い出すだけで、今でもじんわりアドレナリンが出てきます。
──3月にシネマート新宿で開催されるショートフィルム上映会『ReguReguのパペトピア劇場』は、約1年半ぶりに行なわれる東京での上映会です。この企画はぼくも提案させてもらった一人ですが、オファーを受けて率直なところどう感じましたか。
小磯:昨年の12月30日の朝、個展も最終日の開放感の中で、メールを開いたら、レーベルのセクレタトレイズの担当者から「実は椎名さんとReguReguの作品をちゃんとした劇場での上映ができないかと動いておりまして…」と、いきなり今回のイベントについての連絡が来ていて…。朝からパソコンの前で蒼くなっている私に気づいたカヨさんは、てっきり誰か友人が亡くなったのかと思ったそうです。
映画って、ボスのような監督のもとにいろいろな才能を持った人が集結して出来上がる磨かれまくった文化。それとは違ってReguReguの短編は、想いと純度優先の完全手づくり。観る側に技術的に足りないところを脳内補足してもらって、やっと完成する特殊な作品のような気がするので、そういうものを劇場で観ることを映画に求めていない人には、存在自体が訳のわからないものに見えるのではないかと思うし、そんなこと少しも想定していなかったので、嬉しいという気持ちよりも、「どうしよう…」という不安のほうがずっと大きかったです。でも、僕らの作品を結成時から全部観てくれていて、応援してくれる2人がせっかく用意してくれた舞台。前回の高円寺での上映同様、マイペースなカヨさんは人前が苦手なので来てくれませんが(笑)、アルフォンヌ付きで、わかってもらえるよう全力で挑むことにしました。
──『人造生物ホーンファミリー主題歌』や『ずっとさがしてる』など、新作を除く6本の作品はどんな基準で選ばれたのですか。
カヨ:一昨年から、福間健二監督の奥様で映画プロデューサーの恵子さんに、いろいろな相談をするようになったのですが、「映画は何度観てもいいものだから、自信作を出しなさい」とアドバイスをいただき、やはり近作中心の構成にしました。
唯一、比較的古いのが『よるのあしおと』で、これはわかりにくい内容かもしれませんが、とても気に入っている作品なので思いきって選びました。この作品のオープニングの音楽も気に入っていますし、セットや小物の色合い、主人公のくたびれた洋服など、細かいところにこだわってつくったので、ぜひそこにも注目して観ていただきたいです。
アルフォンヌの再結成、影山裕之とコルネリを誘った理由
──今回、上映される新作『フムペとカムペのおはなし』は、もともと2014年のギャラリー犬養の企画で初上映された作品だったと記憶しています。この作品を今このタイミングであらためて世に問うことにしたのはなぜですか。また、『フムペとカムペ』は全シーンを水中でコマ撮りした作品でしたが、昨年末の個展で水槽に暮らすタコを展示したことと関係がありますか。
カヨ:最初は『フムペとカムペ』も作品集『パペトピア』に収録する予定だったのですが、あらためて観直すと私たちの作品では異例の30分ということもあり、全体の流れを考えて収録しないことにしたんです。だけど今回の展示で久しぶりにフムペとカムペ、そしてタコを水槽で展示しているのを毎日観ていたら、当時のいろんなことを思い出して、「もったいないから、このタコも出演させて、いつか短くつくり直したいね」なんて話していました。その時は〈いつか〉ということでしたが、上映会が決まったことで、どうせなら今にしましょうということになったんです。タイトルも『フムペとカムペのおはなし』と変え、脚本を書き直し、音を録り直して再構成することによって、ギュッと引き締まった、20分の新作になりました。
──今回はショートフィルムの上映だけではなく、小磯さんがかつて活動していたバンド、アルフォンヌによるライブも大きな目玉です。昨年の10月に札幌の161倉庫で行なわれたジャジャ岩城さんのライブに出演するのが再始動のきっかけだったと思いますが、なぜ今またアルフォンヌをやろうと思い立ったのでしょうか。
小磯:バンドはやめてもサントラの製作で音楽から離れたことはないのですが、カヨさんが人前を嫌がるのでReguReguの生演奏は絶対にありませんから、ライブとはすっかり縁が切れたと思っていました。しかし、昨秋札幌に帰ってきたマディフランケンシュタインの土肥ぐにゃりさんから、「大切な友達であるジャジャさん(ジャジャ岩城 / 桑名六道 ex.LIP CREAM)を呼んでイベントをやるんで、何でもいいから出演してよ」と電話をいただき、数日悩み、もう一度だけやってみたいなと思ったのがシャドー(影山裕之 / GARAKUTA KOJO・LisaloomeRほか)との2人アルフォンヌでした。ちょうど連絡をもらった夜、偶然部屋でドキュメンタリーの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観ていたこともあって、自分も昔のように唄えるかを試してみたいかもなんて…。ダメ元で久しぶりにシャドーに連絡したら嬉しいことに快諾してもらい、どうせならと2回のライブを行ないました。やってみたら大層楽しかったのですが、すっかり満足してしまったので、「次は10年後ねっ」てことにしていたのですが、今度は怒髪天の増子兄からの誘いです。やはり数日間悩んで、これも運命。せっかくカヨさんがつくってきた素敵な曲がたくさんあるのだから、新たな気持ちで再始動しようと決めました。
──アルフォンヌには歴代の腕利きメンバーがいましたが、影山さんにギターを頼んだのは、かつて小磯さんが運営していたレーベル〈SLAVE〉から、影山さんや怒髪天の清水泰次さんが在籍していたゼラチンのカセット・アルバムが出るなど、古くから盟友関係にあるからでしょうか。
小磯:彼とは一緒に上京して、部屋までシェアしていたので相棒感が強く、彼が作曲、私が作詞という共同作業も上手く行っていたので、ちょっとカヨさんとの関係に近いような気がします。彼はテクニカルな上に、驚くほどに頭が柔らかいので、昔に縛られることなく面白いことができると信じています。
──つい先だってはアルフォンヌにex.角煮のコルネリさんが加入してトリオ編成になるというニュースが飛び込んできました。どんな経緯でコルネリさんの加入が決まったのですか。
小磯:新しいアルフォンヌはReguReguのサントラをライブで披露してみようという試みなのですが、ウタモノのほとんどは自分の声を重ねてつくってあるので、どうしてもひとりで唄うと物足りなさを感じてしまいます。そこで声を合わせるならと思い浮かんだのがコルネリで、ドキドキしながら誘ったら引き受けてもらえました。彼女は私の最後のバンドであったアシュラスクールで活動していたこともあり、離れていても仲間意識があります。ソロ活動も角煮もマヘルシャラルハシュバズも大好きで、彼女の並外れた実力はよくわかっているので、一緒なら何だってやれるはずだと信じています。