“wallflower”でも花は花
──そんなに急ピッチの作業だったとは。「HOMECOMING」はラモーンズに通じるポップで軽快なロックンロールで、他のカバー曲と上手く馴染んでいますね。
AKIRA:アルバムの一部として溶け込める曲にしたかったし、オリジナルだけ突出した感じにはしないように意識しました。他のカバーが霞むのもイヤだし、オリジナルだけ埋もれるのもイヤだし、オリジナルだけ目立つのもイヤでした。
──歌詞はどれくらいで書き上げたんですか。
AKIRA:1日で書きました。PVの撮影でLAへ行くのが決まっていて、発つ日までに歌をつけたデモを作らなくちゃいけなかったんです。それで血まなこになって書き上げたんですよ。メロを聴いて英語と日本語のいろんな言葉をバーっと書き連ねて、英語っぽく聴こえる日本語を選んでみたり、日本語と英語で韻を踏んでみたりして。最初に森山さんに仮歌を聴いてもらった時は「全部英語じゃん」って言われたんですけど(笑)、歌詞を見て英語と日本語のシャッフルなのを気づいてもらえて、「いいんじゃない?」と言ってくれました。私としてはキメの部分を英語にしたくて、全体的にちょっと英語に寄せたんですけど、パーティーの賑やかな雰囲気も出せて良かったんじゃないかなと。
──「HOMECOMING」は“帰宅”、“帰郷”といった意味がありますけど…。
AKIRA:アメリカのハイスクールで開かれる盛大なパーティーのことなんです。新学期が始まる9月の終わりに行なわれるんですけど、プロム(アメリカやカナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンス・パーティーのこと)よりも大がかりなもので、ホームカミングに誰と一緒に行くかみんな真剣で、学校全体がそわそわするんですよ。そのパーティーの中で目立つ子もいれば地味で目立たない子もいて、目立つ子は綺麗に着飾っていたり、彼氏と一緒に行くタイプで、目立たない子は一人で行ったり、友達と一緒に行くタイプなんです。私は友達と行く派の目立たないタイプで、この曲はそんなホームカミングをちょっと皮肉ってみたと言うか。
──“ベタつくLove birds”に浮かれてんじゃねぇよ! と言ってやりたかったと(笑)。
AKIRA:そうです(笑)。それで“ムカつくSeason”や“イラつくBlondies”といった言葉を入れたんですよ。最初に英語で「夏が終わって恋人を見つけたかい?」と問いかけているけど、自分は一人のままなので、ベタつくカップルたちに噛みついているんですね。私はキラキラしたブロンドの子たちみたいに向こう側の人間じゃなかったし。そういう図式はパーティーだけに限らず、生きていくいろんな場面であるよなと思ったんですよ。歌自体はパーティーのことを唄ってるんだけど、大きく言えば人生の一場面のことも重ねてあるんです。物事の中心から外れていつも蚊帳の外にいるような時期って誰にでもあるじゃないですか。私もそういう高校生だったけど、素直にひがんだっていいんだよ、と。ただ私が毒を撒き散らすような歌詞に見えるかもしれないけど(笑)、本当は私なりの応援歌にしたかったんですよ。
──蚊帳の外にいたって輝ける場面はあるよ、みたいな。
AKIRA:ホームカミングで話す相手がいない子たちは、壁に面して座ってるんです。パーティーで相手にされない女の子のことを“wallflower”=“壁の花”って言うんですよ。中心にいなくても花は花なんだから、端っこにいたって別に気にすることなんてないよ、っていうことを伝えたかった。
──なるほど。野に咲く花にも役目があるし、この世に必要じゃない人はいませんからね。
AKIRA:まさにそういうことを唄いたくて“wallflower”という言葉をどこかに入れたかったんですけど、上手いことハマらなかったんですよ。でもすごくラヴェンダーズらしい曲に仕上がったと思うし、とても満足しています。「HOMECOMING」というオリジナル曲がある一方で「I WANNA GO HOME」というカバー曲がある関連性も面白いですね。
──LAから帰国して充実したバンド活動を続ける今となっては、AKIRAさんにとっての“帰る場所”はもはやLAではないのでは?
AKIRA:LAは自分にとってずっと特別な街で、このあいだPV撮影のために行った時もすごく落ち着く場所だなと改めて思ったんです。友達も住んでるし、困った時はいつでもここに帰ってくれば何とかなる場所だと思うし。でも、帰るべき家と言えば今は日本になったのかな? ライブでいろんな場所に行かせてもらったことで帰りたい場所がいろいろと増えてきたので、そういう場所がこれからもっと増えたらいいですね。
誰かの力になれる、楽しい気分になれる歌
──今回のレコーディングで森山さんとKOZZYさんから学べたのはどんなことですか。
AKIRA:森山さんはいつも優しい言葉をかけてくれるんです。「技術を磨いたり、いい曲を作るのももちろん大事だけど、ライブを見据えて盛り上がるような曲を作ったほうがいいよ」とか。KOZZYさんは森山さんと対照的で(笑)、歌に関してかなり厳しいことも言われましたね。「そういうことじゃないんだよ、もっと遊べるでしょ?」と言われたんですけど、技術をしっかり兼ね備えつつ遊ぶっていうのがすごく難しかったです。あと、「上手く唄うことももちろん大事だけど、もっと気持ちを込めて自分の言葉にして唄え」と何度も言われましたね。ギター(TAKERU)には「ちょっと貸してみろ」と言って自分の弾くところを見せたりしてメンバーもだいぶしごかれたし、このスタジオに来るたびにヘンな汗をかいたと思いますよ(笑)。「やり直しがいつも利くと思うなよ」と怒鳴られたこともあったし。レコーディングもライブと同じで一度やったらやり直せないし、同じ空気感は二度と出せないんだよ、って。
──マックショウやコルツのメンバーに求めていることと同じレベルのような…(笑)。
AKIRA:だけどそのおかげで1枚目よりも成長できたと思うし、本当にいいアルバムになりましたね。何と言うか、今回はなめられちゃいけないと思って。
──どういうことですか。
AKIRA:1枚目を出した後、ある人から「どうせカバー・バンドだろ?」とか「後ろに力のある人がついてるんでしょ?」とか言われたことがあったので、2枚目でただのカバー・アルバムじゃないところを見せて見返してやりたかったんです。こっちは生半可な気持ちでバンドをやってるわけじゃないので、なめんなよ! って(笑)。それでかなり爆発したものが作れたんじゃないかと思ってます。
──だから“Explosion”(爆発)というタイトルなんですね。ところで、前作のジャケットでAKIRAさんはヴェスパに乗っていましたが、今回はスズキのGT380(サンパチ)がフィーチャーされていますね。
AKIRA:マックショウにも「380」って曲がありますよね(笑)。前回はスーツにヴェスパでクールな感じだったから、今回はタフなイメージで革ジャン&革パンとバイクにして、私が別にMODじゃないってことをお伝えしようかなと(笑)。バイクをなぜ国産にしたのかは謎です。私はトライアンフとか海外のオートバイのイメージだったんですけど、サンパチはKOZZYさんの趣味としか言いようがないですね(笑)。
──こうして初のオリジナル曲も完成したことですし、これから先は全編オリジナル曲で勝負する作品を作っていく予定ですか。
AKIRA:そのつもりです。ただ、この1年のあいだに形成してきたラヴェンダーズもなくしたくないし、今のラヴェンダーズのイメージを急に変えたいわけでもないんですよ。今までのラヴェンダーズを大切にしつつ、新たなチャレンジをしていきたいですね。ライブでお客さんと通じ合えるのは私の歌だし、自分自身の思いや気持ちを伝えていくためにオリジナル曲が不可欠だから、これからまた違った力量が試されますよね。だからもっともっと頑張らなきゃいけないと思ってます。
──AKIRAさんが歌を通じていちばん伝えたいことは何なのでしょう?
AKIRA:青くさい言い方をすれば応援、聴いてくれる人の背中を押すことですかね。誰かの力になれるような歌を唄いたい。別に大したことは唄ってないんだけど、聴いた人が楽しくなれるような歌と言うか。私もロックを聴いて背中を押してもらったり、楽しい気分になれたので、今度は私がみんなにお返ししたいんです。これからもっと実力をつけて、ラヴェンダーズ、頑張ります!