フィールグッドはウィルコじゃなくジッピー
──オリジナルがブルースでも性急なビートでもパンキッシュなナンバーでもみな一様にポップなものに変換してしまうラヴェンダーズの力量は、やはりAKIRAさんの歌声によるところが大きいんでしょうね。
AKIRA：プロデューサー陣のアレンジ力ももちろんあるし、さっきも言ったように私が強さを出す唄い方をしていないのもあると思います。ただ、私はもともと自分の声が全然好きじゃなかったんですよ。録音したのを聴いてもライブの映像を見ても「何だよ、この声…」とか思っていたんだけど（笑）、それがポップでキュートでいいと周囲から褒めていただけることが多くて、今は徐々にこれでいいのかなと思えるようになりました。
──ドクター・フィールグッドの「SHE'S A WINDUP」も意外な選曲で、ウィルコ・ジョンソン在籍時ではなくジッピー・メイヨがリード・ギタリストの時期の曲をあえて持ってくるセンスがにくいですね。
AKIRA：ウィルコじゃない時期の曲が候補として2曲あって、ウィルコがいた時の曲は全然候補に入ってなかったんです。たしか「SHE'S A WINDUP」と「THAT'S IT, I QUIT」が候補だったのかな。そのどっちかにしようとKOZZYさんに提案されて、私は「え？ ウィルコの時代じゃないの!?」って思ったんですけど、どうやらKOZZYさんには「フィールグッドはやっぱりジッピーなんだよ」っていう思いがあるらしくて。私もパブロックはもちろん好きだし、ウチのベース（KAZUKI）はパブロックのバンドをメインにやってるし、パブロックのラヴェンダーズ的解釈も今回はやってみようと思ったんです。
──パブロックのみならず、今回は2トーンがオリジナルの楽曲にも挑戦されています。スペシャルズの「DO NOTHING」を倍速ビートにしてパワフルなお色直しを施していますが、間奏の部分には原曲に忠実にホーンを採り入れていますね。
AKIRA：勝手にしやがれの福島忍さんにトロンボーンで参加してもらったんです。スペシャルズに関しても、知られてはいるけど代表曲とまではいかない曲をやりたかったんですよ。いろんなバンドが「YOUR WONDERING NOW」や「MONKEY MAN」をカバーしてるけど、そういうのと一緒にはしたくなかったし、誰でもやってる曲、誰でもできちゃう曲を私たちがやっても意味がないので。「DO NOTHING」は私も好きだし、歌詞もいいし、あえて疾走感のあるアレンジでやってみました。
──トレイシー・ウルマンのカバーでも知られるシャングリラスの「GIVE HIM A GREAT BIG KISS」のようなタイプの軽快なポップ・チューンは、ラヴェンダーズにとってはお手の物と言っても良いのでは？
AKIRA：得意な路線ですね。けっこう前から「〜GREAT BIG KISS」はやる予定で、当初はシングル候補でもあったんです。ただ、この曲の歌詞はセリフが多くて、それも掛け合いなんですよ。私は器用に掛け合いなんてできないし、話しかける相手もいないし、最初は唄うのをイヤだとKOZZYさんに伝えたんです（笑）。最後は観念しましたけどね。
──芝居のようにセリフを唄うのが苦手なんですか？
AKIRA：セリフが多い曲って、お喋りが好きな人みたいに思われるような気がして。デビュー曲の「THE END OF THE WORLD」にも最後にセリフがあって、私はかなり歌に入り込んで話すんですけど、それを見たお客さんが引いてないかな？ と思うことがあるんです。まぁ、「〜GREAT BIG KISS」のセリフはお客さんの煽りに変えられるふうに録ったので、ライブの前半で唄うのもいいかなと思ってますけどね。
──セリフと言えば、ホーリー・べス・ヴィンセント率いるホーリー＆ジ・イタリアンズの「I WANNA GO HOME」もオリジナルは冒頭にセリフが入っていましたよね。ラヴェンダーズ・バージョンはセリフをカットして、原曲のパワーポップ感をより強めた印象ですが。
AKIRA：今回は男性ボーカルの曲が多いので、女性ボーカルの曲で何かいいのはないか？ という話になったんです。でも女性ボーカルの曲であまり有名じゃないものっていうのが思いつかなくて、森山さんが「これ、どう？ ラヴェンダーズが演奏してるところが浮かんでくるよ」と提案してくれたんです。その時にYouTubeで初めて聴いたんですけど、よく聴いたら私が留学していたLAのことを唄っていて、LAのサンセットや星という自分にとって身近だったものが歌詞に出てきて親近感が湧いて、これは私のためにあるような曲だなと思って。結果的にすごく思い入れのある曲になりましたね。
森山達也の作曲による初のオリジナル楽曲
──今回のカバーの中では、スレイドの「CUM ON FEEL THE NOIZE」のような高水準パワーポップ・ソングがやはりラヴェンダーズの真骨頂と言えますね。まさにラヴェンダーズのためにある曲と言っても過言ではないですし。
AKIRA：私が影響を受けたオアシスがカバーしていたのも大きかったですね。ライブで一度やってみたら自分たちでも手応えがあって、これは必ず次のCDに入れようという話になって。この「CUM ON FEEL THE NOIZE」がみんなで「せーの！」で録った曲で、ライブっぽさを出そうとしたんです。もちろん自分たちの曲ではないんだけど、何と言うか、唄っていると大きな景色が頭に浮かんでくるんですよ。
──海外の野外フェスで唄っているような？
AKIRA：そうですね。曲調がそうさせるのか、大きなステージでこの歌を唄っている景色が見えてくるのでかなり気持ち良く唄えるんです。
──「I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU」はストライプスを意識していたり、「HATEFUL」はノー・ダウト経由、「COOL JERK」はGo-Go's経由、そして「CUM ON FEEL THE NOIZE」はオアシス経由と、AKIRAさんがリアルタイムで影響を受けた音楽から原曲を辿っているのが興味深いし、それこそ受け継がれていく音楽の豊かさですね。
AKIRA：本当にそうですね。オリジナルやいろんな人たちのカバーも知ってるけど、「そう言えばこの曲はオアシスがカバーしてたな」とか気づくことがけっこうあったんです。ラヴェンダーズがカバーすることで、同じように若い世代にオリジナルを知ってもらえたら嬉しいですね。
──今回、歌入れに手こずった曲はありましたか。
AKIRA：意外と「（LOVE IS LIKE A）HEAT WAVE」がすごく難しかったですね。みんながよく知ってる曲だし、ラクに唄えるだろうと思っていたのに、意外と奥が深くて。歌はジャムのカバーをお手本にしたんですけど、たぶんポール・ウェラーはリンダ・ロンシュタットのカバーを意識したんじゃないですかね。唄い方や歌詞の強調する部分が似ていたので。
──ちょっと外した渋めの選曲よりも、誰もが知る有名曲に真っ向から挑むほうが難しいでしょうね。
AKIRA：カバーされることが多い有名な曲に、どうやってラヴェンダーズ色を出すのかという部分で悩みましたね。その意味で「〜HEAT WAVE」は自分たちなりの勝負だったと思います。
──どんな曲でもポップに聴かせるのがラヴェンダーズのスタンスだから、そこでもいろいろと試行錯誤しますよね。
AKIRA：こういう昔の渋いロックをスッと入っていくように聴いてもらう、何も考えずに聴けるようにしたいし、そういう歌や演奏ができているのはラヴェンダーズの最大の持ち味だと思うんです。原曲がとっつきにくい感じでも、ポップで楽しい気分で聴かせられることが。
──今回、特筆すべきは「HOMECOMING」という初のオリジナル楽曲が収録されたことなんですが、アルバムをあえてカバー一辺倒にしなかったのはどんな意図があったんですか。
AKIRA：オリジナルの曲を作ろうという話はずっとしていて、森山さんから「AKIRAにぴったりの曲を用意してあるんだよ」とやんわり聞いていたんです。その話をスタッフにしたら、アルバムにぜひ入れたいと言われて。オリジナル曲が入ることで1枚目よりステップアップしたように見えるし、次の作品へとつながる橋渡しの役目もできるんじゃないか、って。たしかにそうだなと思ったし、私自身、ただのカバー・アルバムにはしたくなかったんですよ。カバーとは言え自分たちの曲だと思ってやってるし、カバー・アルバムを2作出しただけのバンドにはなりたくなかったし、せっかく森山さんが曲を用意してくれているならやってみようと思ったんです。
──レコーディング中に急遽決まったことなんですか？
AKIRA：そうなんです。レコーディングがほぼ終わっていた頃でしたね。思い立ったその日のうちに森山さんに連絡して、「曲をいただけませんか？」とお伺いを立てて（笑）。「あるにはあるけど、随分と急だね」と言われたんですけど、「明日スタジオに来てください」と強引にお願いをして（笑）。それで実際にこのスタジオ（ROCKSVILLE STUDIO ONE）に来てもらって、KOZZYさんと2人で曲のベーシックを作っていったんですよ。
