新しいことへのチャレンジ精神
----相原先生の『なにがオモロイの?』はわたし自身とっても衝撃的な作品で。SNSが今ほど発達していない時代に、すごい新しい挑戦をしている野心的な方なんだなと思った作品なんですよ。
相原:僕はパソコンを持っていなかったんだけど、当時インターネットを使って、リアルタイムでネットに作品を載せて、読者に感想を書き込んでもらい、その意見を聞いて次週の作品を描く、そんな毎日でしたね。
----週刊連載で本当に"スゴイことをしてるな"って思いましたよ(笑)。
相原:読者からの感想は編集担当さんがプリントアウトしてくれたものを読んでたんだけど、毎週コメントが800通とか来ていて...それをズーーーッと読んでるとだんだん心が壊れていくんですよね!(笑) ほぼ8割は悪口! 心が壊れることも想定して、"そこもドキュメンタリーとして作品にしていこう!"と思ってたんだけど...思ったより早く心が壊れちゃって...(笑)。
----(笑)。いや、あれは酷ですよ。"あの企画をしよう! これを始めよう!"と思える先生のメンタルの強さはスゴイな、と思いましたもん。
相原:いやいや、強くないからやってるんですよ!(笑) 強い人はやんなくっていいだろうし、壊れるからこそドキュメント的に面白いって思ってやった企画なんですよ(笑)。そんな、全然凹まない人がやってたら全然面白くないんですよ。
----本当に好奇心が旺盛というか...挑戦心がスゴイですよ。掲載コメントを読むだけで、わたしも心が痛くなりましたよ(笑)。
相原:そうですよね(笑)。当時、漫画家仲間からはかなり嫌がられましたね。あの企画は。
----そうなんですか?!
相原:...そう。心が痛い、苦しいって(笑)。作品は面白いんだけど、読者コメントが...。きっと、漫画家は自分が言われているように捉えちゃうんだろうね。皆さんガラスのハートですから、見てらんないって(笑)。この企画は、自分なりの表現を突き詰める、あとは本当になにが面白いのかな? ってわからなくなったのが本当。企画として、インターネットが出てきたことでやれる表現だと思ったからね。ただ、予想と違ったのはそんなにウケなかった、評判にならなかった。
----新しいことをしてて話題になりそうなのに...。
相原:ん~、それがそんなにだったね。すごいことやってんな、ってなんなくって...だんだんモチベーション下がっていったんですよね(笑)。僕が漫画家としてデビューした頃はニューウエーブっていうのがあったし"新しいことが評価される"からこそ、僕もデビューできたんですよね。下手でも"なんかこの人新しいことやってる"って。そこが評価される時代だったんだけど、『なにがオモロイの?』の頃にはもう変わってたんでしょうね。新しいからなに? 新しいことよりも完成度の高い方がスゴイじゃない。って、ね。絵のレベル、話の構成レベルもどんどん上がっていってたときだったから、僕は完成度の高い作家ではないし、絵も下手だし、だんだんシューンって...。
----他作品を拝読していても相原先生の"新しいことへの挑戦心"、"野望"はすごく伝わってきます。
相原:そうですね! 新しいことがカッコイイ! 新しいことがスゴイ! 価値があるって、80年代を過ごしたから。漫才も音楽も漫画もニューウエーブがたくさん出てきたから、そこの価値観はずっとありますね。ただ、時代がどんどん変化しているから、今は新しいことだけではなかなか評価されなくなってきているのかな? って。
常識とのギャップで完成する相原ギャグ
----先生の作品ってエロ要素が多いですよね? "ギャグ+エロ=相原先生"みたいなイメージを持っています(笑)。
相原:そうですね。好きだからですね(笑)。山上たつひこさんもだし、いがらしみきおさんも過激な下ネタが多くってすごく好きだったから、下ネタ全般が好きなんですよね(笑)。
----(笑)。すごく作品から伝わってます。ただ、先生とお話をしていて、印象が変わったと言いますか...正直、作品のイメージからもっと癖の強い方なのかと思っていました。
相原:いやいやいや(笑)。意外と真面目ですよ?(笑) 変な作品を描くからこそ、ギャグ漫画を描くからこそ、意外と良識ある方だと思います。常識がないと常識からズレた作品を描けないんですよね。たまに本当におかしい常識外れのギャグを描く方で、本人もそうという人もいますが、僕は良識な方ですね。ただの変態ではないです。(笑)
相原コージが描く笑えるホラー作品
----新宿ロフトプラスワンでイベントをした『Z-ゼット―』を拝読しまして、4コマをしてたからこその要素、ギャグ、エロ。相原先生の全部の要素がつまった作品だな、って思えたんですよね。ゾンビ漫画なのに笑えちゃうし...(笑)。
相原:そう、それでいいと思うんですよ。"ホラーだから"で完全にシリアスにしなくても、全部の要素、笑いとかもあっていいって思えるんですよ。シリアスな状況だからこそ、笑える部分もあって。そういう部分は北野武さんの映画にも影響を受けてるんですよ。もともとお笑いの方が作る作品だから、シリアスなんだけど、どこか笑っちゃう。逆に笑いがあるからこそ、シリアス、バイオレンスが活きる。そういう作品が好きなんですよ。好きなモノ、好きな要素は全部入れてもいいんじゃない? って。感動的な作品にもエロがあっていいだろうし...人生っていろんなモノがあって、ごっちゃになってできているモノでもあるから、ある部分だけ切り取らなくても全部入ってたっていいじゃないって思う。
----人生はそうですね。『Z-ゼット―』は本当に全部が詰まってますよね。ゾンビの描写にはゾンビっていう固定概念を覆されました。
相原:ゾンビが好きで、自分なりのゾンビが描きたくってね。"頭を撃つと死ぬ"ってなんかおかしいなって思ってて。死人が生き返るまではいいんですよ? だけど、"もう一回死ぬってなんなんなの?"って。なんかの現象で死んでいるモノが生きて動き出す、行動するはいいんだけど、頭を破壊すると死ぬって脳は生きているのか? とかね、いろいろ疑問があってね。蘇った死人なら全部が細胞として生きているんじゃないの? 活動しているんじゃないの? って。だから、指だけでも生きてていんじゃないかな? って。
----作中のゾンビが本当にしぶとい! すごくしぶといんですよ...。他の漫画家さんの作品は頭撃ったら死んでるのに、相原先生のゾンビは指だけでも生きてる。まだ、生きてるのか? いつ死ぬんだ? って思っちゃいます(笑)。
相原:そう! しぶとい!(笑) 指だけ生きてても僕の中ではまだ生きてるんだよ。細胞のひとつひとつが生きてるから、完全に燃やし尽くさないと死なない。完全に燃やし尽くして灰になれば、流石に動かない。自分の納得するゾンビを描きたかった。設定もそうだけど、ゾンビがいる世界だったらこういうことが起きるんじゃないの? っていうのを描きたかった。話は短いんですよ。12とか14ページくらいでそれぞれの話は終わるし、そこは完全に4コマでつちかってきた技術で圧縮してるんです。
----本当に読みやすくってわかりやすくって笑えて、スラスラ読めちゃったんですよね。
相原:もともとこういう作品が描きたいって思ってたから、あと、道具は薙刀がいいな、って。
----ゾンビ映画だと斧とか銃で頭をぶち抜くシーンが多いのに...なぜ、薙刀? とは思いました。
相原:やっぱり舞台が日本だからね(笑)。日本には銃がないし。あとは近づくと噛み付かれちゃうから、出来る限り遠いところでなんとかしたい。しかも、殺せないから足を切り落として、近づけさせないだけなんですよね(笑)。ただ、あの作品を始める前に、すぎむらしんいちさんが別の作品で薙刀を持った主人公がゾンビと薙刀で戦うシーンが1コマだけでてきて、ポスターかな? たった1コマなんだけど、やべえって思ったよね。その時すでに『Z-ゼット―』の構想もあったので(笑)。結局、たった1コマのために自分のアイデアを捨てることない「えいや!」ってやっちゃいました(笑)。パクリではないですからね!
年齢と経験を重ねた2018年
----漫画家35周年を通して楽しかった時期はありました?
相原:楽しかった時期...。しんどかった時期しかなかったんですけど(笑)。自分なりに"新しいことをしたぞ!"っていう作品はあったけどね。最近は、"ウケたならいいじゃない"って思うようになったかな。本当は『もにもに』が僕の中では極限までいったなと思う作品なんですよ。『もにもに』は我々の住んでいるこの世界とは一切接点がないんですよ。全く別の異世界の話なんですよ。地面なのか、空なのか、雲なのか、生き物なのか、何もかもわからない作品なんですよ。僕の中では"究極なことやったな"って思った作品なんですけど...全然、売れなかった!(笑) 『なにがオモロイの?』の中でたまたま出てきたんだけど、アンケートで1番評価が悪くって...。だけど、あえて"これを連載作品にするんだ!"って思って。やっぱり人気はまったくなかったですね。僕は好きなんですけど(笑)。
----『もにもに』のデザインは綿あめとか消しゴムとか、なにかをモチーフにはしてたんですか?
相原:いや、全く! ファンタジー漫画でも雲とか水とかわかるんでしょ。だけど、もにもに世界はわからないんですよ。上にある四角いモノが雲なのか、なんなのかも全くわからない。ただ、一応生物らしい物はいるけど、本当に生物かもわからない。"ギャグ"はどれだけ常識と遠ざけていけるか、反しているか、ひっくり返すか、距離を取るか、常識の周りをまわって作られるんですけど、その真中にある常識をとっぱらったらどうなんだろう? っていう作品なんですよ。我々が知っている常識とは一切関係ない。自分の中では行きつくとことまでいっちゃったな、って。
----確かに..."なんだろ? わからない。(漫画を)パタン。"って(笑)。だけど、面白さが込み上げてきて、くすくす笑えて、読めば読むほど"なんなんだこの作品!"って思いました。
相原:そう、そこなんですよ。わかんなくていい! なんか笑っちゃうってすごいことだし、それがしたくって描いてるんですよ。僕は個人的に大好きな作品なんですけど、全くウケないんですよね。まあ、当然かもしれませんけどね(笑)。当時も『かってにシロクマ』と『コージ苑』であれば、僕は『コージ苑』の方が攻めてる作品で好きだったんですけど。『かってにシロクマ』は大衆向けみたいなイメージがありましたしね。