札幌を拠点に活動を続けるzArAmeが待望の1stフルレングス・アルバム『 1 』を自身のレーベル《DISRUFF》より発表する。結成から約4年を経て満を持して世に放たれる本作は、ハードコア・パンクやディスコーダント・ハードコアの要素をベースにシャープでソリッドなキレがさらに研ぎ澄まされつつ、ミドルエイジならではの濃密なコクや深みが格段に増した出色のアンサンブルを堪能できる傑作だ。屋台骨を支えるベーシストの交替劇をプラスに転じてバンドが進化と深化を遂げたのを実感する上に、従来の殻を打ち破るような広がりのある表現に果敢に挑むことで新境地を開いたのをまざまざと見せつけている。ポップであることを恐れずに"ANTIMATTER"であることを証明してみせた意味でも、この『 1 』はzArAmeにとって記念碑的作品と言えるのではないか。バンドを代表してタケバヤシゲンドウ(guitar, vox)に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
情景が勝手に脳内再生されるような作品を
──ベースのオオノさんが正式加入して半年、バンドのコンディションはいかがですか。
G:確実に良い方向に向いたと思います。やっとメンバーの足並みが揃ったかと。
──オオノさん加入の前と後ではバンド内でどんな変化が生まれましたか。
G:イイ歳こいて言うのも恥ずかしい限りですが、自分とzArAmeのなかのパンクの部分を取り戻せたような気がします。ポール・シムノンと一緒にやっているようなドキドキ感があります。
──このタイミングでフルレングスのアルバムを初めてリリースする計画は当初の予定通りだったのでしょうか。EPを3枚出した後にファースト・アルバムを出すという、徐々に段階を踏んでいく考えはありましたか。
G:まぁ、FUGAZIに倣ってのアレですが(笑)。本当は2017年末には出す予定だったんだけど、曲作りの最中にメンバーの交代劇もあり。なるようにしかならないもんだなというのを痛感しました。
──新体制のzArAmeとしてはライブを一度しかやっていないにも関わらずフルアルバムを録るという暴挙に出たわけですが、今の勢いをパッケージしておきたかったという意図もあったのでしょうか。
G:暴挙というか、それくらいの気概じゃないと。中年バンドなんて限られた時間を、集中力を高めて使わないとただダラダラと活動してしまうだけなので...メンバーみなイイ歳なんで技術的にはとっくに打ち止めだろうけど、経験値だけは稼いでるはずなのでやればできるでしょう! と。
──今回のアルバムを制作するにあたり、ざっくりと考えていた指針、テーマとはどんなものでしたか。
G:映画的な。曲ごとにシーンが切り替わるような。聴いてくれたその人なりの情景が勝手に脳内再生されるようなアルバムにしたかったです。単体での名曲を作るより、全編を通して聴いてトータルで1曲みたいな。飛ばし聴き不可みたいな。
──そういえば、レコーディング当初にギターのイサイさんが「本日はzArAmeの5枚目のアルバム『METAL MACHINE MUSIC』をレコーディング中です」とツイートしていましたが、あれは......。
G:ジョークですよ。彼特有の考えなしのシニカルな戯言かと。5枚目って言ってる時点でイカレてる(笑)。
──ラフミックスを組み始めた段階で「鳥肌がおさまらない」ほどの手応えがあったそうですが、早い段階から良い作品ができる予感はしていましたか。
G:レコーディング以前の曲作りの時点ですでに感じてました。あとはどれだけ演奏力がついてこれるかという(笑)。
『 1 』はzArAmeなりの『Repeater』
──再録されているとはいえ、3rd EP『COLD』の収録曲(「coldwaver」、「searchlight」、「isolation」)をまるっと入れ直したのはどんな理由からですか。
G:アルバムを作ることになった時点で再録は決めてました。明らかにU(オオノ)の個性によって曲が覚醒しているので、全然別の曲に仕上がったと思います。
──たとえば1st EP『LAST ORDER』収録の「ラストオーダーはディスオーダー」や2nd EP『AMNESIA』収録の「butterfly effected」、SOSITEとのスプリット7インチ収録の「No Fear」といった人気曲を再録して、より"ファースト感"を強める考えはありませんでしたか。
G:前述の「FUGAZIに倣って」の部分なので。編集盤『11』=『13 songs』です。
──なるほど、『 1 』=『Repeater』なわけですね。今回はとにかくキラー・チューンのオンパレードで、1曲目の「lowpride」から安定と信頼のzArAme印サウンドが聴けて思わず小躍りしてしまいます。カオティックで疾走感溢れる「スラッジ」、コーラスワークも光るメロディアスなミディアム・チューン「アネモネ」、気怠い雰囲気から羽ばたくように広がりのあるサビへの連なりがクセになる「unequalizer」など、どれも聴き応えのある曲ばかりですが、ストックはどれくらい用意を?
G:ボツになってるのは2、3曲だと思います。ある程度曲順を考えながら曲を作っていったので、ほぼ全部出し切りました。
──スネアにスネアを重ねたり、録音したベースの音をリアンプしたり、ボードのディレイを増やすか否かを熟考したりと、細部にわたって深いこだわりを貫いたレコーディングだったと思いますが、音の録りにおいて重きを置いたのはどんな部分ですか。音に対する感触や熱量、その場の空気をいかに封じ込めるか、とか?
G:思いついたことは全部やってみようと。意味がないような音でも全部録っておこうと。結果的に無駄になった音はひとつもありませんでした。
──これまで発表してきたEPの反省点を今回活かせた部分があるとすれば、どんなところでしょうか。
G:時間に追われることなく納得のいくテイクが録れるまでやり直す。今までのレコーディングは日程や予算の関係でかなりタイトめな状況でやってましたが、今回は少しだけ余裕を持たせました。
──本作はとにかくギターの音色と残響音が全体的に素晴らしくて、かなり理想的な音が録れたのではないかと思います。ゲンドウさんは「シングルコイルとフローティングの音が欲しくてストラトを試した」とおっしゃっていましたが、その後、ジャズマスターが実にいい仕事をしたとか。ストラトとジャズマスターの端的な違い、また両者の特性がよく出たのはどの曲なんでしょうか。
G:「アネモネ」、「unequalizer」、「転生」ではジャズマスターを、「liquiddream」ではストラトを使いました。いわゆるジャズマスの音に作品が引っ張られてしまうのを懸念してストラトを持っていったんだけど、結果的にほぼジャズマスターを抱えてました(笑)。呪いですね、ジャズマスターの。あと他の曲でも部分的にジャズマスターを使っているので、よく聴いて探してみてください。
──「zArAme REC 最終兵器」と称して一斗缶の写真がインスタグラムに載っていましたが、どんなことに使われたんですか。
G:「coldwaver」のエンディングです。
ポップであることを恥じない
──歌入れの前に「誰かzArAmeのヴォーカルやらないかね? ホント唄いたくないわー」とおっしゃるほど嫌がっていたようですが(笑)、やはり今回も難儀だったのでしょうか。渇ききった声で突き放すように唄うボーカルがクールで、とても良く録れてあると思うのですが。
G:嫌いですね、歌入れは(笑)。声がイイとか好きだって言ってもらうのは嬉しいですけど、正直内心ではそうでもないだろと思ってます。子どもの頃から憧れてる大江慎也さんや山口洋さんにはほど遠いので。
──本作の肝は「転生」、「liquiddream」、「微睡」という最後の3曲の太い幹のような流れだと思うのですが、特に「転生」はトロンボーンという意外な楽器とゲスト・ボーカルをフィーチャーしたインストの大作ですね。これこそフルレングスのアルバムならではの試みでありzArAmeの新機軸だと思いますが、こうしたミニマムなオーケストレーションのようなアイディアは以前から温めていたんですか。
G:寝つきの悪い深夜の思いつきです(笑)。ボーカルラインはある程度指示して唄ってもらいましたが、トロンボーンのアレンジは全くノータッチです。ゲスト両者にはイメージとして"ツイン・ピークス"としか伝えませんでした。
──「liquiddream」はアコギが絶妙な隠し味となっていますが、アコギとエレキの理想的な融合例として参考にした作品はありましたか。
G:アコギはふとした思いつきで...レコーディング期間、スタジオの行き帰りの道中ずっとヒートウェイヴを聴いていて。確実にその影響です。思いつきの割には独特の厚みが出せたと思うし、エレキギターとの混ざり方も絶妙に仕上がったと自負してます。
──アルバムの最後を飾る「微睡」は3月の新宿ロフトでも披露されて、オーディエンスの拍手が鳴り止まなかったのがとても印象的でしたが、zArAmeがニューフェーズに突入したことを象徴するような名曲だと思います。この曲はどんな経緯で生まれたのですか。
G:「つよいうた」を作りたいなと思って。聴いた後もずーっと残るような。どんなジャンルの垣根をも越えるような。
──ちなみに、ゲンドウさんがDON KARNAGEのファースト・アルバム『reminiscence』をプロデュースしたことが本作の制作にフィードバックした部分はありますか。
G:ありませんね。素材があんなにフレッシュではないので。
──アルバムの新曲群を早くライブで聴きたいところですが、完全再現は非常に難しいとのこと。特にどの曲が難しいのでしょうか。
G:「アネモネ」。
──今回のアルバムはゲンドウさんもめずらしく何度か聴き直しているそうですが、ご自身ではどんな部分が気に入っていますか。
G:良い意味で聴き流せるところでしょうか。ポップであることを恥じない。
──その姿勢は、たとえばヤなことそっとミュートやおやすみホログラムといった異色の対バンを積極的に行なうようになったことも関係していますか。
G:もともとカルチャーとしてアイドルは好きだったけど、ここ最近の楽曲派と言われるアイドル・グループのアプローチは見て見ぬ振りは決してできないクオリティだと思います。俺がそういうスタンスを取ることに批判的意見もあるだろうけど別に気にしない。言わせておけばイイと思う。
──2ヶ月に及ぶレコーディング工程を経て、改めてzArAmeとはどんなバンドだと感じましたか。
G:これ以上伸び代なんて当然ないですが、その引き出しの奥に溜まった埃のなかにはよーく目を凝らして見てみると金粉が少しだけ紛れているんだと思います(笑)。
──ここから始まるミドルエイジの反逆に向けて、意気込みを聞かせてください。
G:最近の20代の若手が明らかに面白いのでイイ刺激になってます。そういう若いバンドと同一線上で渡り合えるように、歪んだ背骨に矯正をかけていつまでも仁王立ちで立ちはだかるつもりです。