日本のスカコア、スカパンク・シーンを長く牽引し続けてきた、ルード・ボーンズ。その彼らの通算10枚目のフル・アルバムとなる『ジャスト・スターテッド』が3月21日にリリースされるのだが、断言できる、もんの凄い傑作だ。一度でもルードの曲を気に入ったことがある人なら絶対に聴くべき音源だし、それ以外の方にも、特にスカやパンクが好きなら押し付けてでも聴かせたい音源に仕上がっている。とにかくなんというかもう、悶絶するほどに楽曲のクオリティが凄まじいのだ。切なさと甘さとほろ苦さと陽気さが混在するメロディはどれもこれも胸に迫るし、それでいて楽曲は全アッパーで全アグレッシヴの怒涛の勢い大炸裂状態。個性の塊のような独自性と様々な人の琴線に訴えるだろう普遍性の両方をきっちり持ち合わせているのだ。まぁ正直に言うと音質に関しては不満がないこともないのだが、そんなことなどどうでも良くなるほど曲がいいのです、マジだしガチだし信用してくれて構わないし絶対に損はさせないのでどうぞ聴いてください!!
結成から25周年。良い時もあれば悪い時もあった四半世紀。その節目の年に、彼らはキャリアと経験と実力を見事作品に結実させた。そのルード・ボーンズの作詞・作曲を手がけ、最近は役者としてテレビや映画でも活動しているVo&Saxの大川裕明に話を聞いた。(interview:中込智子)
やっぱスカコアだ! そこが一番大事だ!
──まずは、新作の完成とバンド結成25周年、本当におめでとうございます。
大川:ありがとうございます。20歳でルード・ボーンズを始めて、いつの間にか45歳になってて、「うわ、バンド始めてからのほうが人生長えっ!?」ていう(笑)。
──初めて会った時は1stアルバム『Reality Has Become “SKA”』のリリース前でしたね。あの頃のあなた方は単に小僧でしたが、男の色気を醸し出す大人の男性になられて何だか感慨深いものがあります。そして本作は、歌詞にしてもメロディにしても合わせて楽曲にしても、年齢を経たからこそ得られる深みや説得力などがありつつ、基本的には1stの時と同じようにバーストしている。いや、ぶっちゃけ今作のほうが、そのバースト度合いすらも上だという素晴らしい作品になっています。言ったら本作はルード・ボーンズのベストを超えるベストであり、同時に25年間の経験をしっかり集約した傑作であり、さらに同時にちゃんと最新形になってるんですよ! 一体何なんだこれは!!
大川:そんなに褒められるとびっくりしますが(笑)、そうですね。やっぱり1stの頃のような曲は作ろうと思っても作れないんですよね。単純で、激しくて、ストレートで……っていうところからだんだん変わっていって、なんていうか、初期的なものはだんだん薄れていって。
──というか2ndアルバムの時点で早くも無謀にも渋い方向へ行きましたよね、あなたたちは。「ああ、こういうことがやりたかったのか。でもお前らにはまだ早えよ!」と当時思ったことを覚えております。
大川:うははは。そうです、行きたかったんですよ、あの時は(笑)。でもまた最近、ここ5年くらいで……初期からのメンバーというかヒロシや塩じい(SHIO40)がまず戻ってきてくれて、そんで千葉くんとか鈴木とかも含めて、ここずっとみんながよく言うんですよ、「やっぱスカコアだ」って。「俺たちはやっぱりそこを一番大事にするべきだ!」って。そういうのもあって、もともと我々が持っていたハードなものと、楽曲のメロディを引き立てるっていう割と初期からやりたかったことをしっかり混ぜて作っていこう、やっていこうということを重視して、最近は曲を作っていたんです。
──なるほど。ここ5年ほどでそもそもの自分らの強みにメンバー全員が自覚的になり、はっきりした方向性のもとで楽曲やライブを詰めていっていた。そりゃいい作品ができるというものです。まぁ自覚するまで20年近くかかったわけでもありますが(笑)、今できるようになったんだからそれでオッケー! で、今作の曲はいつくらいから作り始めたんですか?
大川:4年くらい前に前作『Good Times, 7300 Days』を出してて、それも自分ら的には結構気に入っている作品なんですが、その時に作って使わなかった曲も2曲くらい入ってるんですよね。でも今作の曲の大半を作ったのは……まず一昨年、昨年末に公開された『パーフェクト・レボリューション』っていう映画で曲を作ってくれという話があって、それが今作6曲目の「ザ・レース」っていう曲なんですけど、その映画の公開に合わせて最初はミニ・アルバムを出そうと思ってたんですよ。でもメンバーが「どうせならアルバムがいい」って言ったのと、年をまたげば25周年になるタイミングだったので、じゃあそうしようっていうことになって、さらに曲を書いて……去年は忙しかったなぁ。
──はははは。で、その「ザ・レース」なんですが、私この曲大好きです。以前ね、「レイン」って曲ができた時、レコーディングでコーラスに参加してくれた米国のヘプキャットのVoがその名曲度合いに驚いて「この曲は本当にお前が作ったのか!?」っていう失礼な詰め寄り方をしたことがあったじゃないですか。これ聴かせたらまた言うんじゃないかなと私は思っています(笑)。
大川:あははは、ありましたね、そんなことも(笑)。まぁこの曲「ザ・レース」がアルバムの核になったというわけではないんですが、いろいろきっかけになった部分があったという感じです。それと、レコーディングにしても曲作りにしても、いつもは後半になって時間がなくなってきたりすると、ただただ急いで作ってやって録ってリリースしちゃうことがあったんですけど、今作と前作ではやっと、いろいろ粘るようになったというか。今頃何を言ってるんだ? っていう話ではあるんですが(笑)、アルバム通しての印象だとか、曲調だとか、クオリティだとかの細部に対し、以前と比べたら本当に粘って詰めるようになったんですよ。そこはここ数年、大きく違ってきた部分だと思います。
ボストンズとの共演ライブで勢いがついた
──今まではなかった「粘り」つまり「最後の1秒まで諦めずに徹底的に戦う」という姿勢が、作品や楽曲のクオリティに大きく反映されるようになった。
大川:だと思います。なのでいったん作って、見直して、「こういう曲が足りない!」つって3曲新たに作って、それを冒頭3曲に入れたりしています。僕、自然に作るとどうしても暗い曲が多くなっちゃうんで、やっぱパンチのあるような曲も作んなきゃ! って(笑)。
──その冒頭3曲も単に明るかったり単に弾けてるわけじゃなく、どこか不穏な空気がにじみ出ているのが凄くいい。私今回、ぶっちゃけ1曲目聴いた瞬間に「あ、今作はヤバイ、たぶん全曲傑作だ」って確信して、そんで通して聴いて本当に全曲良かったから思わず笑っちゃったんですよ。やっぱ良いアルバムは1曲目で予感させるんだなぁと改めて思いました。あと、今作のトピックとしては2曲を米国のニュージャージーのジャンゴのスタジオで録音し、その足で年末のマイティ・マイティ・ボストーンズのライブに出演。昨年末から1月まで、ライブとレコーディングで大忙しだったわけですが、そうした日常も作品の勢いにきっと反映されたんだなぁと思っています。久々のアメリカ、どうでした?
大川:そうですね、去年の今頃に久しぶりにアルバムを作ろうってなって、そこへ向けてがんばろうっていう意識になった時に、ボストンで久々にボストンズと一緒にやるっていう話が出て。もうそうしたすべてが僕らのやる気に繋がっていって(笑)。そこからすべてが前のめりになっていったところもあったので、実際ボストンでのライブは本当に楽しかったですね。
──現地に持っていった旧作のCD、完売しちゃったと聞いていますが(笑)。
大川:そうなんですよ〜。凄かったです、ライブが終わって物販ブースに向かおうとしたら、向かえないんですよ。お客さんに捕まっちゃって全然動けなかった。良かったよ、良かったよってみんな言ってくれて。そんでブースにたどり着いたら、全部売れてて(笑)。本当に楽しかったですね。ボストンズとはVoのディッキーとお互いメールで連絡取り合ってて、前作にもコーラス入れてくれたし、節目節目に連絡してたんですが、一緒にやるのは本当に久しぶりでしたしね。それに、スラッカーズのVoのヴィックもソロで対バンで出て、で、僕たちが出て、ボストンズだったんですよ。
──盟友バンドばっかり!
大川:ほんとそう。あと、実はスラッカーズにも昨年末のNYライブに誘われてたんだけど、さすがにそんなに長く滞在できないぞってそっちは泣く泣く断ってたので、ボストンズと一緒に共演できてほんとに良かった。ていうかボストンズのライブが普通に見れたのが単純に嬉しかったです、うちのメンバー全員大好きなバンドだし、僕普通にファンなので!(笑) そんで、「誘ってくれて本っ当にありがとう!」ってディッキーにお礼言ったら、向こうも「こっちこそ来てくれてありがとう!」って、2人してサンキュー! サンキュー! って止まらなくなって、ずっとそれを10回くらい繰り返してましたね(笑)。
──今年はしょっぱなから凄くいい年になりましたね。そして今年のルードは超ご期待あれ!状態。
大川:新しいCD、気に入ってもらえると嬉しいです。あと、ライブもがんがんやる予定です。下北沢シェルターのワンマンはぜひ来てください!