しりあがり寿の事務所「有限会社さるやまハゲの助」の社内ロックフェスとして始まった「新春!(有)さるハゲロックフェスティバル」(通称「さるフェス」)。マンガ家と劇作家が送るこの奇跡のロックフェスでは、新宿ロフトを舞台に毎回予測不能な驚異のライブとパフォーマンス、トーク、お笑い、プロレス、手品、フード、占い、鍼灸、書き初め、ワークショップなど、主催者ですらその全貌を把握しきれない摩訶不思議なカオス空間が出現する。あまりの奇天烈さゆえ毎年その存続が危ぶまれる「さるフェス」だが、今年遂に10年目を迎えることになった。果たしてこの10年間さるフェスで何が起こっていたのか? そしてこの先どこに向かうのか? すべて幻かもしれないこの奇跡のフェスを首謀者達にふりかえってもらった。(TEXT:加藤梅造)
ウッドストックへの憧れ

さるフェス'09-'18歴代フライヤー
──毎年恒例のさるフェス直前インタビューですが、今年は10周年スペシャルということなので、さるフェス10年間の歴史をみなさんに振りかえってもらいたいと思います。
河井 10年前どころか去年のことも憶えてないからなあ……
みみこ そう思って今日は10年分のデータを持ってきたんです……(カバンの中を探しながら)あれ?ない。確かにUSBメモリを入れたはずなのに。
(数分後)あっ、ポケットの中に入ってた!
しりあがり まるでコントですね。俺もよくメガネを頭に乗せながら「メガネメガネ」って探しちゃいますが。あと自分の携帯から家に電話して「俺の携帯どこかにない?」とか。
村山 今後は老人ネタが増えていきそうですね。
みみこ 10年も経つとこうなるってことですよ(笑)。
──さるフェス前史から言うと、2006年から始まったんですよね。
村山 「さるハゲ歌合戦」と銘打って、有限会社さるハゲ(註1)の忘年会を上野DOOBIE'Sでやったんです。30人ぐらいだったかな。その翌年に規模を拡大してロフトプラスワンでさるハゲの忘年会をやらせてもらったんですが、その時に初めて「さるハゲロックフェスティバル」と名乗ったんです。
しりあがり 身内と関係者しかいないのにロックフェスなんてよく言えたもんだね。
村山 うろ覚えですが、そのフェスというか忘年会が終わった後に(プラスワンの)梅造さんが「これ、新宿ロフトでできませんかね?」って言ったんです。それを僕等は本気にして。
──そんなこと言いましたっけ?
河井 だから結論としては梅造さんが悪いってことです!
──でも宴会芸としてはかなりレベルが高いと思ったのは確かなんですよ。
村山 その時はトップバッターが宮崎吐夢さん(註2)で、他にはまじまんがとかバナナシスターズとか今も出てる人たちが大勢。ハヤマックスも出てましたね。大阪から来たっていう見知らぬ若者が、身の上話をして最後に大黒摩季を熱唱するという雑なパフォーマンスに驚きました。
河井 10年間何も変わってないですね。
──それでいよいよ2009年の新宿ロフト開催からさるフェスは一般公開するわけですが、当時しりあがりさんは「これからは社内ロックフェスの時代が来る」と言ってました。
しりあがり それは今でも確信してます。大企業もお金がなくなって福利厚生費もないから、社員は勝手にロックバンドでもやってろという時代になってるんじゃないかなあ。
河井 2008年のリーマンショック後の不況の中から出てきたフェスとも言えます。
みみこ その頃はフジロックやサマソニとかの大きなフェスはあったけど、こういう小さいロックフェスはあんまりなかったような気がする。
しりあがり (エレキコミックの)やついさんもさるフェスに出た後に「やついフェス」を始めたよね。うちよりも全然ちゃんとしたフェスだけど。
──今はすごく増えましたが、当時は個人名を冠したロックフェスは少なかったと思います。あとイベンターやミュージシャン以外の人が主催するというのも。1997年にフジロックフェスが始まって10年経ち、フェスが多様化していったとも言えます。
しりあがり 俺らの世代はウッドストックへの憧れが強いんだよね。
みみこ 2007年のオフィシャルTシャツはウッドストックのシンボルマークの鳥を猿に変えて作ったんです。
──フジロックもそうですが、ウッドストック幻想は大きいですよ。そういえば当時しりあがりさんは「フリーセックス、フリードラッグ」にしたいって言ってましたよね。
河井 それはまだ全然実現してないです。
みみこ いやいや、実現してたらまずいでしょ。
しりあがり 「ドラッグなし」って意味ですよ。「カフェインフリー」と同じ。
村山 フリードラッグじゃなくてドラッグフリーですね。
しりあがり あと当時はもうネットの時代になっていたから、ネットでできないことをやろうというのがあったかな。ネットの画面じゃ見れないような360度面白いことをやろうと。ステージだけじゃなくてどこを見ても飽きさせない。客席で何か出し物があったり、隣に誰か面白い人がいたり。
(左から)村山章、河井克夫、しりあがり寿