水面に映った月明かりを連想させるロマンの詰まった言葉『モーンガータ』をタイトルに掲げたアンテナの最新アルバムには、とにかく親しみを感じる。ワールドワイドな現代のタテノリサウンドと受け継がれてきたポピュラーミュージックの融合「ニューレトロ」をテーマに作成したメジャーデビュー1stミニアルバム。横に長く伸びる雲の隙間から、水面に光を落とす月を想像して、"アンテナの街"を訪れる時間はきっと心地よいものになるはず。[interview:指中晶夫/日野弘美(Naked Loft)]
「ニューレトロ」のサウンドとは
——今回、メジャーデビューが決定し、初のアルバム発表まで順調に進んできたのですか?
渡辺 諒(Vo):セルフプロデュースの時代は長かったです。自分たちでドサ回りして、曲作りもレコーディングも、お金のやりくり、ライブハウスの確保など、全て自分たちでやっていたので。それをやっていたからこそ、足元を自分たちなりに固めて、今回のアルバムにまで繋げられたと思います。
——アンテナが意識しているニューレトロについてお話を聞かせてください。
渡辺:曲を作る際に、Phoenix や The Royal Concept といったUKのサウンドを意識して取り入れるようになりました。サウンドに関して、すごく影響を受けていますね。でもメロディーに関しては僕が歌謡曲が好きなので。日本人がずっと馴染み深かった歌謡曲のメロディーを残したまま、洋楽のサウンドで仕上げる、このバランスをニューレトロとして曲にできたら良いなと。
——今回のアルバムでは、シンセサイザーも使っていますね。
渡辺:前作の、『天国なんて全部嘘さ』を出したところからシンセを使い始めているんです。あのサウンドはアンテナのスタイルに合っているっていうのを感じていたので、今回のアルバム作成では、シンセの音を前作よりも強く出してますね。自分たちの中で、これは試してみてもいいんじゃないかというものがあるなら、どんどん挑戦します。しっくりこなかったら、また新しいのを探せばいいと思っているので。
——アルバムの曲はどれくらいの期間で作っているのですか?
渡辺:デモ音源の段階からだと半年くらいですかね。実際のレコーディングは1週間くらいでギューと収録しました。全部で9曲レコーディングしているのですが、その中から6曲(※一曲目の「イダンセ街」はラジオのレギュラー番組企画で作成した楽曲です)選んでいます。残った曲は何らかの形で出すかもしれませんし、それよりももっといい曲ができたりすれば、違うのを発表するので、発表しなかった曲については先のことはわからないです。
アルバム『モーンガータ』の世界に入り込める理由
——アルバム『モーンガータ』の制作にあたっての想いを聞かせてください。
渡辺:夜をテーマにしています。夜、自分自身と向き合いたくなった時に「背中を支えられる音楽」をやりたいんです。なので、いつ聞いても日常に寄り添える音楽というのをすごく意識して作っていますね。
——今回のアルバムの詩について思いはありますか?
渡辺:前作の『天国なんて全部嘘さ』の時よりも、より日常にありふれたものを具体化していきたいと思って作っています。聞く人が歌詞を見た時に、自分がその世界に引き込まれないと背中は支えられないんです。第三者目線になってしまうと説得力がなくなってしまうと思うので、誰にとっても通ってきた日常という世界を描きながら、本当にこの歌詞の世界に存在しているというのを意識していますね。
——ストーリーのような詩が印象深いのですが、どのようなところからインスパイアされていますか?
渡辺:空想だけでは書けないし、実体験が多いです。自分が感覚として感じたことを歌詞に落とし込むことで、人に伝わるのだと思っています。
——仙台の街で感じることと、他の街で感じることは違ったりしますか。
渡辺:そうですね。場所や街で思うことは違いますね。仙台だけで感じたものを言葉にしようとしたら世界が縮まってしまうし、一つの視野だけになってしまう。自分が今まで見てこなかった刺激を受けるほど、自分の感情の説得力が生まれてくると思うんです。だから去年は、東京含め、様々な街でライブを110本以上できて、色々な経験をしました。
——なかでも印象深く残っているものは?
渡辺:大阪に初めて行った時は、自分の住んでいた世界と違いすぎて、違う国だなと思いました(笑)。オーディエンスもバンドマンも考えていることが全然違くて。いい意味でガツガツしているというか。常に能動的でいられる人たちの集まりだと思いました。だからすごく刺激を受けましたね。ステージの上で”自分の音楽を聴いてくれ”と堂々としていることのメッセージ性が強くて。表現者として、自分の思っていることを口に出さずに内に秘めたままにするのは勿体のないことだなと、関西の人と会ってから初めて気がつきました。自分のこれまでのアウトプットは全然足りないなと。
彼ら自身で考える「アンテナ」としてのアイデンティティ
——アンテナはコーラスがとても強みだと思ったのですが。
渡辺:そうですね。バンドとしてはコーラスワークが多いかもしれません。曲を作るときに単純に、楽器の数が多い方がやれることが増えると思うし、声も楽器なので。
——正統派歌モノバンドと言われることに抵抗はありましたか?
渡辺:前はシンセサイザーも取り入れてなかったし、ギターロックに自分の好きな歌謡曲を取り入れた曲作りが逆に新しくなってくるんじゃないかと思って作っていました。他のジャンルのバンドが増えれば、正統派としてやってる人たちが逆に新鮮になるんじゃないかなと。でも、自分たちの中でもっと新しいことをやっていこうという話になり、少しずつ変わっていったので、抵抗があったわけではないです。それに何を持って正統派なのか曖昧だと思うんです。何かにカテゴライズしておかないと人って不安になってしまう、それだけの話だと思います。よくある言葉で当てはめても、お客さんにはアンテナの音楽が伝わらないので。でも、本来アンテナっていう”個”を発信していくのは、バンド側なんだと思います。何かの二番煎じはやりたくないんです。なので、「これがアンテナなんだ」ということを意識して活動しています。
——アンテナの強みはありますか。
渡辺:アンテナの曲はフェス映えするようなものではないです。フェスで手をガーとあげる曲でもないし、一緒に歌う曲でもないです。でも、それでいいと思っています。一番説得力を出せる曲を作りたいし、フェスバンドに対抗することではなくて、もっと日常に向けたものを作れるっていうのが強みです。
——いつか「仙台」という題名の曲を作りたいと思いますか?
渡辺:今はあまり感じていないんですけど。歌詞に仙台と入れることはこの先あると思うし、伝えたいと感じた時に、自然に出てくるんじゃないかなと思います。
——最後に、アルバムを聴いてくれた皆さんに一言お願いします。
渡辺:アンテナを通して自分は”わがままな存在”でいいんだなと感じてもらいたいです。生活をしていて周りのことを気にしないと生きていけないのは当然なんですけど、気にしすぎているように感じます。周りのための自分ではなくて、自分のための自分、自分のための周りっていうくらいの感覚で良いんです。背負いすぎなくても良いというのを、今回のアルバム『モーンガータ』を通して感じて欲しいと思います。