「すべての音源はターンテーブル上で平等に再生表現される権利を持つ」をスローガンに、根本敬、湯浅学、船橋英雄の3人で1982年に結成され、世間に埋もれている"イイ歌"そして"イイ顔"を解放してきた幻の名盤解放同盟が今年でなんと35周年! 昭和歌謡ブームやポンチャックブームなどの社会現象の火付け役でもあり、多岐に渡り活動されてきた同盟の中のお一人、特殊漫画家・根本敬氏にインタビュー![interview:遠藤桃子(Loft PlusOne West)]
幻の名盤盤解放同盟結成35周年!
―まずは35周年おめでとうございます。同盟として活動される最初のきっかけは何だったのですか?
根本:80年代の頭は自販機本というエロ本に勢いがあり、表向きエロ本を装おっておけば、誌面では好きにできた。そんな中で、ある自販機本から「知られていない歌謡曲のレビューをやらないか」と声をかけられ、それで集まった。と、しておきます(笑)。
―この35年間の活動の中で特に印象に残っている出来事や、人物との出会いはありますか?
根本:あの『解放歌集』を91年に出してから、『幻の名盤』を歌っている歌手の方々に会うことができました。まさかご本人に会えるとは思わなかった。『スナッキーで踊ろう』の海道はじめさん、『最後の人』の佐々木早苗さん、『さすらいの一匹狼』のミスターワイルドさんなど非常に個性的な人々です。中でも藤本卓也先生との出会は大きいですね。
―レコード収集やフィールドワークの中で"イイ歌"、"イイ顔"に出会うコツなどはありますか?
根本:「見る前にとべ。」または、「買うのは誰だ? …俺だ!」という気持ちの継続でしょうか。
―今までP-VINEから発売された「幻の名盤解放歌集」などの音盤シリーズや、多数ある書籍の中でオススメや思い入れのある作品を教えて下さい。
根本:テイチク編、キング編、2枚の『藤本卓也作品集』。それから『絵天楽ゴーゴー』は解放歌集をひとつの器、或いは場として、黒沢進さんの『カルトGS』をはじめ『キューティー・ポップ』『ソフトロック・ドライヴィング』と同じように、歌謡曲のフィールドで埋もれた名曲の発掘を行っているグループのそれぞれのコンピから漏れた名盤を集め『幻の名盤カルトGS/キューティー・ポップ/ソフトロック・ドライヴィング解放歌集』として出したことです。同じようなこと、世間的にばかばかしいことをやっているもの同士が争うなというメッセージでもあります。
―その他、実験的ラジオやDJ等、幅広く活動されてますが個人的に”ポンチャック占い”というのがとても気になります。青林工藝舎『アックス』のweb版でも「泥沼人生相談」というのをされてますが、昨今の皆さんのお悩みを聞いていて感じることはありますか?
根本:ポンチャック占いというのは、千本のカセットテープから2本選んで貰い、そのチョイスからその人を…まあ、占うというやつで(笑)。しかし悩み相談については、人々の共感を呼べる悩みは救いはどこかにあるものですが、深刻なのは他に例がなく、なかなか他人の共感を呼べない特殊な悩みですよ。
「ディープコリア再訪の旅プロジェクト」
―今年は渡韓30周年記念でもあるということで、1987年に刊行された名著「ディープコリア」と同じ行程を巡る「ディープコリア再訪の旅プロジェクト」も立ち上がりました。年を経て取材される韓国にて再び"勝敗なき勝負"に挑まれる今のお気持ちをお願いします。
根本: 15年ぶりの渡韓。これは33年前に初めて玄海灘を渡った時以上に不安です。しかし、よく「楽しそうですね」とか「韓国旅行、いいですね」と言われますが、楽しむために「ディープ・コリアツアー」をやっているわけではないので。嫌な思い、ばかばかしいことに見舞われるために行っていて、楽しもうという気はないですね。
―この30年の間に、日本でも韓流ブームやそれに対する嫌韓流などありましたが、それらの現象はどのようなお気持ちで見られていましたか?
根本:ブームに対しては、まさかキーセンツアーのあのクニへ婦女子が大挙して抵抗なく訪れる時代が来るとは…なんとまあ隔世の感があります。『嫌韓』とか『呆韓』には何を今更ながら、本質は昔から変わっていない、ということでしょうか。
3.26大阪にて35周年祝賀会イベント開催!
―3/26(日)にはロフトプラスワンウエストにて「幻の名盤解放同盟結成35周年祝賀イベント」が開催されます。全3部、テーマ別に分けての開催ですが、それぞれの見所を教えて下さい。
【昼の部(解放歌集/レコード編)について】
根本:一緒に音盤を聴きながら、ざっくばらんに我々の歌謡曲体験を楽しんでいただければ。
【夕方の部(DEEP Korea編)について】
根本:ディープ・コリアのお馴染みの"イイ顔"の写真って実はポジフィルムで撮っていたんですよ。ですから、あの本に載っている写真の数々を大画面に、しかもカラーでスライド上映します。
【夜の部(夜、因果の夜編)について】
根本:因果者の夜は、今まで出会った忘れがたい人物たちを映像を含めて振り返ります。この回は一番熱が入るか、さもなくば疲れて眠りそうになっているか我々にもわかりませんがその辺も含め(笑)。
―全3部通し券で来られた方には「故・山田花子氏により録音され、息づかいも感じられる87年1月の幻の名盤解放同盟イベントの録音テープのCD化音源」(しかもジャケットもご遺族の了解の元、山田花子氏の絵を使用)というマニアには堪らない特典付きですね。
根本:山田花子『自殺直前日記』にも出てきますね。87年の1月5日。当時、新幹線の駅しかなかった新横浜。そこにあったオルタナティブ生活館というイベントスペースで『幻の名盤』を聴きながら三人でトークをやりました。正月、しかも雪の積もった日、今にして思えばそこそこ広い会場にほんの一握りのお客さん。その中に山田花子がいて、客席からウォークマンで録音したカセットテープが、去年遺品の中から発見されました。音源からは息づかいどころか咳も入ってますよ(笑)。通し券をたくさんの方々に買っていただき、全て満員となったら山田花子のおかげですよ。
―最後に祝賀会イベントに向けてのメッセージをお願いします。
根本:とにかく百聞は一見にしかず。こういうことをいい歳をした60歳前後の男たちが三人揃って30年以上もやっているという姿は勇気の源にもなるし、よき半面教師にもなるでしょう(笑)。