団地団メンバーでもお馴染みの漫画家"今井哲也"。作りこまれた世界観、丁寧に表現されるキャラクターの心情・仕草、そして漫画でありながら映像を見ているような画面作りで、多くの読者を魅了しています。ついにファンが待ち望んでいた今井作品の映像化が決定!! 4月よりアニメが放送される『アリスと蔵六』はどのように産まれ、作られているのか、その一端を伺いました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]
先がわからない部分が面白く見えているといいな
――最初に“アリスと蔵六”が連載に至った経緯を伺えますか。
今井哲也(以下、今井):この作品は元々どこかで連載するつもりはなかったんです。
――そうなんですか。
今井:第1話の原型になったネームをどのくらいのボリュームの物語にするかも考えず描いて、誰にも見せずに置いていたんです。別のも考えるかというくらいで。その後、担当の猪飼幹太(以下、猪飼)さんに知り合いの作家さんとの飲み会で会う機会があって「ウチで描きませんか」とお声がけいただいたんです。そこで「まだ誰にも見せてないネームがあるんですけど」って話をさせてもらい、明後日打ち合わせしましょうと約束をして、打ち合わせの時も再来月から連載できますかって。
――今井さんの作品はどれもストーリーや設定が練り込まれているので、すごく準備をされているんだと思っていました。
今井:結構、その場で考えたりしてます。打ち合わせをした時とガラッと変わることもよくあります。前作が全部プロットを決めて進めていたので、次はある程度、自由度を高めて前作とは違うことがやりたいなとぼんやり思っていたので、やらせてもらえる場所に巡りあったことも大きいです。
――猪飼さんからすると聞いていたプロットから大きく変わってきたものが上がっているわけですけど、どのような反応をされていますか。
今井:作家のやりたいことを受け止めてくれる方で「面白ければいいです」と言っていただけるのでとてもありがたいです。ネームを送ったあと電話で返事が来るんですけど、電話口のテンションで出来がわかるんです。本当に良かった時の反応がすごいので、やりがいがあります。毎回、猪飼さんにはしゃいでもらえるように頑張らないとってなります。
――最高の読者ですね。
今井:始まった経緯はアバウトだったんですけど、1度2巻くらいで第1部完のような雰囲気にして進めようというのは決めていたんです。ただ、2巻で出てくる“ミニーC”というキャラが思ったよりすごいいいキャラになってしまって、猪飼さんからは「あっさりと退場させてしまったのは変わってる」とは言われました。逆に2巻でそういう形になったので「いろんなところに寄り道する漫画なのかもね」とも言われました。3巻以降でガラッと物語の雰囲気が変わったのはそういう点もあります。
――3巻では紗名に友達も出来て、日常が描かれることが多いですね。
今井:読者の方にも先がわからない部分が面白く見えているといいなとは思っています。1部で家族を得て、2部では友達、それを経ての3部ということを意識してます。今は蔵六が強すぎてしまって紗名が言うことを聞くしかない状態なので、紗名が蔵六に言い返したり、支えになるようにするにはどう成長していけばいいかを考えたとき、まずは同い年の友達がいるんじゃないかと思ったのが2部です。
――だから2部は子供たちがメインだったんですね。
今井:描き始めたら2部に出てくる(敷島)羽鳥というキャラを気に入ってしまって、いっぱい描いてしまいました(笑)。
――今井さんの作品はキャラクターの心情が丁寧に描かれているのが魅力なのでいいと思います。
今井:そう言っていただけると嬉しいです。
キャラクターの心情が一貫していれば説得力を持たせることができる
――もう1人の主人公でもある蔵六ですが、なぜ店舗を持たない特殊な形の花屋にされたんですか。
今井:最初は1話分しか考えていなかったので、ギャップからくるオチ的な面が大きいです。タダ者じゃない感がある中で、実は花屋という。店舗がないというのは仕事でもいろんなところに行くことができ、紗名を連れて行けるからいいなという考えからです。僕はいろんな人がいる中にキャラクターを放り込むのが好きなんです。もとからアニメ化を想定しては描かないですけど、モブシーンが多い作品なのでアニメ化はされないと思っていました。だからお話を最初頂いたときは嘘でしょって思いました(笑)。アニメ制作スタッフのみなさんからはそういう物量的な面もちゃんとやりますと言っていただけて、すごい嬉しいですし頼もしいです。
――そういう意味では、鏡の門(ルッキンググラス)やワンダーランドの表現も大変そうですね。
今井:そうですね。そこもどういった表現になるか楽しみです。
――各キャラクターで縛りのようなものもありますがどのように決められているのですか。
今井:基本的には何か1つのものなんですけど、想像できるのであればOKという形にしています。例えば(雛霧)あさひは鎖の付いたものならどんなものでも呼び出せるという能力なんですけど、本人の想像力の中でアリならば鎖のついたバイクのようなものもアリになります。
――まさに想像力が力になるんですね。設定ということですと、“不思議の国アリス”・“鏡の国のアリス”の世界観を作品に組み込まれたのはなぜですか。
今井:実は第1校の段階だと入っていなかったんです。想像を現実にする力を持った子供というのは考えていたんですけど、そこにモチーフをつけたほうが伝わりやすいかなと思い、アリスのキャラクターになぞらえ世界観を取り入れました。
――確かにアイコンにもなりますね。
今井:アリスは大人が子供の頃はなんでも無茶な想像をしていたというのを懐かしがるという作品でもあるので、実際にやってみるとうまくハマりました。
――伺っていると、ライブ感のある制作をされているんですね。
今井:アフレコで桜美かつし監督にも僕の適当なところを驚かれてしまいました(笑)。
――読者もものすごく作り込んでいるんだと思っています。そんな進め方なのにキャラクターの心情表現や世界観の管理がしっかりしているのはすごいです。
今井:漫画のずるいところでもあるんですけど、作中の時間経過と読者の体感時間は違うので、キャラクターの心情が一貫していれば説得力を持たせることができるんです。
――確かに時間経過に関してはそうですね。心情もそうですけど、カメラワークもこっていて、映像的なコマ割りをされているように感じます。
今井:それはよく言われます。自分でもそうかなと思うこともあるんですけど、実際にアニメになるとやっぱり全然違うなというのは感じました。
――今井さんの作品でもそうなんですね。
今井:漫画でしかできない表現、嘘をいろんなところでやっていたんです。漫画でしか読めない面白さを描きたいとは常に意識していて、僕のネームでしかやらないコマ割りや表現をしています。そこがいざアニメにすると議題としていっぱい持ち上がってきました(笑)。
――今井さんのスタイルができているということですね。
今井:僕の作風というか悪い癖としてセリフが長いんです、キャラのどうでもいい仕草とか普通いらないやりとりを挟むのが好きで(笑)。映像的とは言われますし自分でもそうなんだと思ってはいたんですけど、打ち合わせが本格的に始まってから、漫画でしかできないことをしていたのだと見えてきたので、この先の連載はどんどん面白くなるのではと思っています。アニメでは、映像だとやりづらいとこが工夫されていて、面白いです。