ロフトでこれを観ないと年が明けた気がしない!? しりあがり寿が送る驚異と奇跡の新年会「新春!(有)さるハゲロックフェスティバル」(通称「さるフェス」)がいよいよ今週末の1月21日(土)に開催される。ここ数年はなんとなくその年のテーマが設定されているのだが、今年のテーマは「A Happy new easy Rider!」。毎回、混沌(Confusion)を演出してきた「さるフェス」が、ますます混迷する現実世界に対し一体何を提示するのか? そして、お猿のイージーライダー達は、一夜の祝祭を走り回った末に私達を何処に連れていくのか?
開催が間近に迫る中、準備に右往左往するさるフェス幹事達に今年の見所、売りなどを聞いてみた。(TEXT:加藤梅造)
道が失われた時代

──それでは今年も恒例のさるフェス開催直前インタビューをお願いします。
村山 あんまり大きな声では言えませんが、今年は告知が遅かったり準備が進んでいなかったりで、いつも以上に危険を感じてます。
しりあがり 去年も遅かったから今年は早めにって言ってたのに…、全然反省してないね。
村山 テーマだけは早々に決まってたんですが。
しりあがり 今まで何やってたんだろう……
村山 イベントのプロでもない素人連中がやってるから、本業が忙しくなると何も手がつかなくなるんですよね。
しりあがり お金は入らないのに仕事ばかり増える…、不況のせいです。みんな仕事なんか辞めちゃえばいいのにね。
──そういえば去年のテーマは「工場」で、劇団さるフェスの寸劇では労働者の反乱的なものでした。
しりあがり あれは、現代のITとかテクノロジーに対して疑義を申し立てたものです。
村山 その前はSFがテーマで、確かしりあがりさん、「これからは理系の時代だ!」って言ってましたよね。
しりあがり お客さんでテーマを気にする人はそんなにいないから大丈夫ですよ。ここ数年のテーマで言うと、2015年の「迷宮のシンデレラ」の時に気づいたんです、ロフトは迷宮だって。後はそのバリエーション。
──そうか、工場もある意味、迷宮ですね。ところで、今年のテーマは「イージーライダー」ですが。
村山 テーマは打ち上げの時に決まったんでしたっけ?
しりあがり そう。毎年さるフェスをやっている最中は、もう次はなくていいよなって思ってるんだけど、終わるとまたやりたくなっちゃう。不思議なもんだよね(笑)
──しりあがりさんが映画「イージーライダー」を初めて観たのは?
しりあがり 中学生だったかな。近所のスケートリンクの隣に名画座があって、一人で毎週のように通ってた。友達いなかったから(笑)。
──映画少年だったんですね。ところでなぜいま「イージーライダー」なんですか?
しりあがり それは迷宮だから。迷宮では道に迷うわけですよ。だから、道が失われると言えば…
村山 なるほど〜。
しりあがり 世の中的にも道が失われてるでしょ?って無理矢理社会問題に繋げますが(笑)
──まあ、確かに混迷の時代と言えます。
しりあがり 今まで紆余曲折ありながらもなんとなく何処か向かっている所がありそうだったのに、いまは何処に向かっているのかわからなくなったような気がする。
──アメリカの大統領選とか正にそんな感じでしたね。トランプ当選後の社会状況を先取りですね。
しりあがり まあ、こんなことになるんじゃないかと思ってたんですよ!
村山 世の中の右傾化に対するカウンターってことですか?
しりあがり カウンターというか、諦め? もう楽しく自滅していこうと(笑)
河井 トランプ支持層と言われるアメリカ南部の白人が今「イージーライダー」をどう観るのか知りたいですよね。
しりあがり 今回、最初に考えた寸劇が、アメリカ人と中国人がバイクで旅して、最後は日本人に殺されるという国際関係ドラマにしようかと思ったんだけど、めんどくさいなーと思って止めました(笑)。
村山 「イージーライダー」って「真夜中の弥次さん喜多さん」みたいなものだとも言ってましたよね。旅をしながら、いろんな所に寄るという。
しりあがり ロードー・ムービーだから。
村山 ロフトの中に道路ができるらしいですよ。
──おお!バイクもですか?
河井 バイクは来ないです。そういうことじゃない。あえて言えば、スピリチュアルなバイクが来ます。
しりあがり わかりづらいなー(笑)。
演劇で革命ができるのか?
村山 2016年のさるハゲのカレー大会の時に「イージーライダー」をエンドレスで流していたんですが、みんな、あまりピンと来てない感じでしたよね。特に若い人は。
河井 映画の中のヒッピーとか、ビジュアルをそのまま真似るだけだと話が広がらない。だからバイクを持ってくる案もあったんですが、じゃあそれを何に使うんだと言うと意外に使い道がない。だから今年の寸劇は今まで以上に観念的なものになりそうです。
村山 その結果しりあがりさんが打ち出した方針が、今までやっていた劇団さるフェスをコーナー毎に演出家を立てて任せるという丸振りだったという。
河井 もともとフェスに統一感を持たせるために始めた劇団さるフェスだったのに、それぞれのコーナーに任せるって本末転倒ですよ(笑)
村山 いつも混沌を演出するって言ってますが、今年は混沌度合いがより増しそう。
しりあがり コントロールが利かない。コントン・ロール…
村山 今年は劇団さるフェス結成5年目なんですが、例年より確実に演劇勢が増えています。毎年恒例で出ていただいている少年王者舘が深夜0時前後を演出したり、今まで深海エリアをやっていた劇団、熱帯がコーナーを持ったり、毎年いいライブを見せる中里順子さんの恥御殿も今回は劇団さるフェスに入ってもらいました。
河井 あと「流山児★事務所」の流山児祥さんという、もともとは劇団状況劇場出身の役者さんが登場します。アングラの帝王と呼ばれている人で、かつて寺山修司に「君は演劇で革命ができるのか?」と問われて「できると思います」と答えたとのことです。
──スリーメン(毎年出演している革命的フォークグループ)と違って今年は本物の左翼ですね。
村山 なので、流山児さんは「イージーライダー」をすごく意識した演目になると聞いています。人づてに、ですが。
──イージーライダー、演劇、革命…、どんどん要素が増えてきますね。
村山 いつもそうですが、我々も当日までどうなるのかわかりません。
しりあがり 今年は特にそうだよね。各コーナーを任せちゃったから一体どうなるのか? さるフェスも今年で9回目だから、もう普通のフェスをやってる場合じゃないんです!
──いや、最初から普通じゃないですよ。
しりあがり そうか。毎回不安になるけど、どんなお客さんが来るんだろうね。